※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

世界で最大手の半導体メーカーであるインテル株式会社。設計から製造までを一貫して手がける総合力を武器に、PCの世界的普及に大きく貢献してきた同社は、AIの時代においても、より多くの人々がテクノロジーにアクセスできる環境づくりを目指している。

「お客さまと一緒につくり、一緒に広げていく」という新たな価値創造に向け、教育支援や自治体との連携にも力を入れる同社の戦略について、2024年に代表取締役社長へ就任した大野誠氏に話をうかがった。

新卒で経験した半導体業界の激動期

ーー貴社に入社された経緯を教えてください。

大野誠:
1998年に大学を卒業した後、三菱電機株式会社に入社し、半導体事業本部に配属されました。当時は日本の半導体業界にとって非常に厳しい時期でした。それ以前の1980年代後半から1990年代前半にかけては、日本の電機メーカーが半導体業界でリーダーシップを発揮していましたが、状況が大きく変わり始めていたのです。

円高の影響で各社が海外に工場を持つようになり、分散投資が進む中で、海外勢との競争力が低下していることに危機感を覚えました。半導体の仕事自体は非常に面白いと感じていたのですが、当時の職場はあくまで「電機メーカーの中の半導体事業」という位置づけでした。さらに深く半導体の分野に関わるには専業メーカーに行くべきだと考え、弊社への転職を決めました。

ーー入社後は、どのようなことを心がけていましたか?

大野誠:
弊社に入社した後は、主に営業を担当しており、お客さまに「一緒に仕事をしてよかった」と思っていただけるような信頼関係を築くことを大切にしてきました。私たちのビジネスの成長は、お客さまのビジネスが成功した先にこそあると思うからです。

そのため、お客さまが抱える課題に対して、どのような支援を行えば弊社をテクノロジーのパートナーとして選んでいただけるのか。そのことを常に考えながら行動してきましたね。

顧客と共に成長するスタイルへと舵を切る

ーー社長就任に至るまでの経緯をお聞かせください。

大野誠:
この業界では、能力とタイミング次第では、年齢に関係なく役員になるチャンスがありますが、弊社が特にユニークなのは、社長を選ぶ際、指名制ではなく立候補制で選ぶことです。社内外から立候補者を募り、そこから選出するのです。

私が社長に立候補した理由はいくつかあり、まず、前社長と一緒に仕事をする中で、彼の背中を見て学ぶ機会が多くあったことが挙げられます。多くを学ぶうちに、「この人の後を継ぎたい」という思いが自然と芽生えてきたのです。

また、経営戦略も勉強しており、これまで会社全体のことを考えながら仕事を進めてきたという自負もありました。最終的には、周囲の方々からの後押しもあって、立候補を決意しました。

ーー社長として実現したいことを教えてください。

大野誠:
私の代では、単に「いいものを売る」という従来のスタイルから、「お客さまと一緒につくり、一緒に広げていく」という新しい価値創出の方法を築き上げたいと考えています。現在、半導体業界では分業化が進んでおり、設計から製造まで一貫して行う会社は非常に少なくなっています。

しかし、弊社はその両方を手がけているため、その強みを最大限に活かしながら、お客さまの価値向上につながるテクノロジーを提供していくことが重要になるでしょう。

また、「一緒につくる」ということに関しては、企業や自治体と連携して、人材育成支援にも力を入れています。教材の無償提供や講師の派遣を行うなど、自治体とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいます。こうした取り組みを通じて、さまざまなお客さまとパートナーシップを築きながら、新たな需要を生み出していきたいですね。

自社の強みを活かし、AIを「誰でも使える技術」に

ーー貴社の強みはどういったところにあるとお考えですか?

大野誠:
弊社の強みは大きく2つあり、1つはグローバルな企業であることです。世界中に拠点を持っているので、日本のお客さまがグローバルな競争力を高めたい際に、それを支援できる体制が整っています。

もう1つは、半導体企業としての総合力ですね。弊社が設計から製造まで一貫して行っているということは、つまり製造を理解しながら設計ができるだけでなく、設計を理解しながら製造もできるということです。この両輪がうまく回っていることが弊社の強みであり、だからこそできることが多いと思っています。

ーー今後のビジョンを教えてください。

大野誠:
弊社が創業以来一貫して目指しているのは、多くの人々がアクセスできるテクノロジーを提供することです。これからもその理念を引き継ぎ、特にAI時代における格差の解消に取り組んでいきたいと考えています。

たとえば、1990年代半ばは、インターネットへのアクセス格差が問題となっていました。当時はハードウェアとソフトウェアの結びつきが強く、特定の組み合わせでなければソフトウェアが動かないということが多かったのです。

そこで弊社は、ハードウェアのみを提供し、ソフトウェアを自由に動かせる環境を整えることで、PCの普及に貢献しました。これと同じように、AIの分野でも日本の企業と協力し、普及を目指したいというのが私の持つビジョンです。今後も業界全体の発展に貢献できるような事業に取り組んでいけたらと考えています。

編集後記

1990年代のPC普及期にハードウェアの制約から人々を解放した同社は、現代においてはAI技術のハードルを下げることに挑戦している。世界最大手の半導体メーカーでありながら、常に利用者目線で技術革新を考える姿勢からは、テクノロジーを通じて社会に貢献するという揺るぎない信念を感じた。

大野誠/2000年、インテル株式会社へ入社し、営業・マーケティングでさまざまな職務を経験。2014年、執行役員に就任後、IoT&Computer 営業本部長、APJ Sales Director(自動車部門)、新規事業推進本部長などを歴任。2024年、代表取締役社長に就任。AI時代において、「AI Everywhere」戦略を推進。日本政府の半導体戦略にも対応しつつ、5GやAI、インテリジェント・エッジなどの技術強化とデータ・セントリック・トランスフォーメーションを推進している。