
ベンキュージャパン株式会社は、1984年に設立された台湾企業「BenQ Corporation」の日本法人で、1996年に設立された。BenQグループは現在32社、世界130カ国以上で展開しており、ライフスタイル・ビジネス・ヘルスケア・教育の4分野において製品開発を行っている。近年、日本では電子黒板が話題となった。同社の代表執行役社長である菊地正志氏に、これまでの経緯や今後の展望などについてお話をうかがった。
パソコン普及期からコンピューターに関わった経験が今も生きる
ーーベンキュージャパン株式会社に入社した経緯は何だったのでしょうか。
菊地正志:
私のキャリアを振り返ると、90年代前半にコンピューター機器の営業職に就いたことが現在の仕事につながる大きなきっかけとなりました。当時は、パソコンが普及しはじめた頃で、WindowsやApple、Macintoshといった製品が市場に登場し、企業でも1人に1台のパソコンが配布されるようになり、インターネットの普及によって一般家庭にも広まっていくデジタル化の波を実感できたのはいい経験だったと思います。
その後、1999年に日本エイサー株式会社に入社しました。法人営業をしながら、研究開発部門にもキャッチアップした意見を届けることで、研究などにも興味が湧いてきたのがこの頃です。その後、2002年にベンキュージャパン株式会社に移籍しました。ベンキューというブランドを日本で広めていく立ち上げ期から参画し、今に至ります。
ーー事業内容を教えてください。
菊地正志:
弊社の事業は、日本市場にベンキューの最新のテクノロジーとライフスタイルを結びつけるユニークな製品を生み出し提供することです。お客さまの生活にとって大切なコトや、輝かせる価値のあるモノをご提供することをモットーに、日本ではライフスタイル、ビジネス、教育といった事業領域にフォーカスした製品を提供しています。
お客様に寄り添い、市場のニーズを本社にフィードバックし製品づくりに活かしてもらうこともあります。世界中で販売されているベンキューの製品には、日本のユーザーやクライアントの声も多く反映されているのです。国内ニーズに対応した製品開発・製造につながっているのは、グローバル企業の連携ゆえの強みです。
高品質な電子黒板が話題に!幼稚園から大学、インターナショナルスクールまで導入

ーー貴社の強みは何でしょうか。
菊地正志:
弊社はパソコンのモニターから、街頭にあるデジタルサイネージまで「液晶ディスプレイ」で話題になることが多いのですが、近年はその技術を活かして、「電子黒板 BenQ Board」の開発にも成功しました。プロジェクターとあわせて、学校などの教育現場にも少しずつ浸透しています。
また現在は、学校で導入が進んでいる「電子黒板」を、幼稚園・保育園にも提案しているところです。GIGAスクール構想や、コロナ禍のオンライン授業などの流れがあり、学校へのディスプレイ・モニター導入はかなり進みました。しかし、子どもの目線に立ってみると、小学校に入っていきなり大きなディスプレイやモニターがあっても驚くし、使い方に困るのではないでしょうか。
私たちはそうしたギャップを埋めることに着目し、幼稚園・保育園の頃から電子黒板に親しみを持ってほしいと考え、ご提案を進めているところです。導入された方から「大きくて分かりやすい映像を見て、ダンスの振り付けを覚えています」「自由に書き込めて、記録も残せて、いつでも以前の内容を見返すことができる。電子黒板はすごく便利なツール」「手書きをデジタル保存したり、一括で消したりできるのはとても便利です」などといった声をいただき、さまざまなシーンで活用していただいています。
現状に満足せず、周囲を見渡して新たなニーズを探り、新規顧客開拓を進めていく

ーー仕事をする上で、大切にしている考え方についてお聞かせください。
菊地正志:
私はこれまで営業職の経験が長かったので、最初は「売上を上げ、成果を出したい」という気持ちが強くありました。特に国内では日本企業の存在感が圧倒的に強く、我々のような外資系の企業はなかなか存在感を発揮できない状況が続いていたという事情もあります。
そうした中で、弊社の製品を購入していただくためには、無理に販促するのではなく、技術面について誠実に伝えることが大切なのだと気づきました。製品について営業する時も、まず営業社員自身が、その製品の仕組みまで知って好きになり、その気持ちを相手に伝えると結果が出るということを実感しました。社長になってからも社員に伝えている、大切な考え方です。
ーー今後の事業展開について教えてください。
菊地正志:
当社が扱っている製品に対し、「こういうものがほしかった」「こういう商品があればぜひほしい」というクライアントの声を丁寧に吸い上げながら、お客様との信頼関係を築き、本社との連携もいっそう強化して、結果としてより日本市場のニーズに合った製品がお届けできればと思います。
たとえば、ディスプレイよりもさらに大迫力で大きな画面を楽しめるプロジェクターも販売しています。オンラインゲームもスムーズに楽しめる処理速度を持っています。2024年頃からはインドアゴルフを楽しむ店舗への営業に注力した結果、店内に設置するシミュレーションゴルフ用プロジェクターとして導入いただいています。これまでのディスプレイ開発で研究してきた技術で、青空や芝生などをリアルな再現度で映し出せるので、インドアながら臨場感があり、お客様に大変好評です。
さらに近年では、ライフスタイル分野にも力を入れています。「長時間画面を見ていると、目が疲れる」といった素朴な意見から始まったライフスタイル部門ですが、こちらでは身体的負担の軽減が大きなテーマになります。具体的には、ブルーライトや画面のちらつきの削減などに取り組んでおり、反応速度の速さや高画質・大画面といった技術面を追求しながら、見る方の負担を軽減できる。そうした2つの面を両立できる製品を開発しているところです。
基本的なモニター・プロジェクター・周辺機器がほとんどの会社に行き渡った今、「教育」と「ライフスタイル」は、今後の弊社の大きな柱になっていきます。こうした面を弊社と共に新たな顧客に伝えていける販売店やパートナー企業の開拓を進めていく所存です。
また、ECサイトの充実についても今後注力していく分野です。家で映画を楽しむ方にも、eスポーツやゲームに取り組む方や、法人の方にも「モニター・ディスプレイを購入する時は、ベンキュー製品も検討しよう」と選択肢に入れていただけることを目指しています。
編集後記
台湾の大企業で、日本法人の設立からも30年が経とうとしている同社。外資系企業の日本法人としては歴史が長いほうだ。本社製品の卸売だけではなく、「日本のニーズを活かした提案」を積極的に本社に働きかけたことが、「電子黒板」という新たな製品の開発につながった。「日本製」の信仰が強い国内において、外資系は一見不利に思える場合もあるが、同社は日本の大手メーカーと堂々と肩を並べ、より良い製品の販売の販売はもちろん、製品を通して日本に新しい価値を生み出しているようだ。

菊地正志/コンピューター機器のSIerでのソリューション営業を経て、1999年、日本エイサー株式会社入社。法人営業としてサーバー&クライアントPCのシステム営業に従事する。2002年、ベンキュージャパン株式会社に入社。ベンキューブランドの国内立ち上げにあたり代理店営業を担当。プロダクトマネージャー担当を経て、2007年より営業部長、2015年にゼネラルマネージャーとしてベンキュー製品の国内販売に深く携わり、2016年に代表執行役社長に就任。