※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

大阪有機化学工業株式会社は、化粧品から電子材料に使われるアクリル酸エステルの製造を行っている会社だ。原料と混ぜ合わせることで、柔軟性や耐候性、透明性などを付与できるため、幅広い分野で活用されている。

研究職として同社のキャリアをスタートした代表取締役社長の安藤昌幸氏に、自身の仕事の価値観を変えたエピソードや、アクリル酸エステルを軸に事業を展開している同社ならではの強みなどについてうかがった。

会社員生活の支えとなった上司との出会い。仕事の価値観を一変させた印象的なエピソード

ーーまずは入社してからの経歴をお聞かせください。

安藤昌幸:
大学から推薦を受け、研究職として弊社に入社しました。しかし、実際行っていたのは製造業務ばかりで、大学で学んだことが活かせず鬱屈とした思いを抱えていましたね。

そのため、入社から3年で退職を意識するようになります。しかし、そのタイミングで優秀な先輩から仕事を教わる機会を得たのです。彼から研究の進め方やデータの分析方法を教わるうちに、まだここで学ぶことはたくさんあると思い、退職を踏みとどまりました。

さらに30歳のときに開発部門へ異動し、そこで新たな上司との出会いがありました。その方は芸術や文化など幅広い教養を持っており、その博識ぶりをとても尊敬していました。

この2人の上司に出会えたおかげで、今の私があるといっても過言ではありません。

ーーこれまで特に苦労したときのエピソードを教えてください。

安藤昌幸:
30代前半で、イギリスでプラントを建設する大規模プロジェクトを担当したときです。弊社からは私を含めて2名しか参加していない中、大企業から多数の技術者が参加していました。

まだ経験が浅い中で重要な判断を求められ、プレッシャーで押しつぶされそうでしたね。それでも創業者のモットーである「0から100まですべて責任を取る」という教えを守り、最後まで食らいつこうと必死でした。

そしてこのときの経験は、自分の働き方に対する価値観を大きく変えるきっかけにもなりました。たとえば日本人は疑問に思っても、空気を読んで自分の意見を出さないことが多いですよね。一方で欧米の方々は、「なぜこの仕事が必要なのか」「この方法にするのはなぜなのか」と、臆せずストレートに投げかけます。

こうしたロジカルに基づいた仕事の進め方を目の当たりにし、理にかなっていると感じたのです。そこからは一つひとつの仕事に「この方法が本当に適切なのか」と疑問を持ち、一度立ち止まるようになりました。

今の礎を築いた企業の転換期。多品種に対応できるアクリル酸エステルのメリット

ーー現在の事業形態になったのはどのタイミングだったのですか。

安藤昌幸:
1990年代から電子材料分野へ進出し、自社ブランドの開発を進めていたのがきっかけです。その前の1980年代頃に、創業者が付加価値の高い医薬中間体をつくる事業に着手しました。

しかし、大規模な設備投資をしたものの、まったく売上が立たず、大きな負債を抱えてしまいました。そこから巻き返しを図ろうと、受託生産から自社製品の開発に切り替えたのです。

そこから樹脂の原料となる特殊アクリル酸エステルを軸に幅広い産業で製品を提供し、業界の現在の地位を確立しました。

ーー改めて貴社の事業内容と強みについてお聞かせください。

安藤昌幸:
弊社の事業は主に3つの領域に分かれています。

1つ目が、自動車塗料や接着剤などに使われる特殊アクリルモノマーを製造する化成品事業です。原料にアクリルモノマーを混ぜることで密着度が上がり傷に強くなり、伸びが良くなるなどの効果があります。2つ目が、化粧品の原料やプリンターのインクジェット材料などを製造している機能化学品事業です。3つ目が、テレビやスマートフォン、半導体の材料として使われるアクリルモノマーを製造する電子材料事業です。

主要製品であるアクリル酸エステルは、他の素材と組み合わせることでさまざまな機能を付加できることが強みです。さらに化粧品や自動車塗料、紙おむつの吸水材、電子材料など、あらゆる製品に活用できます。

ニッチな領域ではありますが、幅広い分野に対応できる点が弊社ならではの強みだと自負しています。

組織の基盤となっている他者を思いやる精神について

ーー企業理念である「人を敬う心」「人を愛する心」について教えてください。

安藤昌幸:
理念実現のために、たとえ生産量が少ない製品でも、丹精を込めてつくることを心がけています。こうしたお客様のことを敬う姿勢が評価され、今があると考えています。これからも誠実で謙虚な姿勢を大切にし、仕事を通じて従業員一人ひとりが成長できる環境づくりを整えることが目標です。

そしてこの理念は、企業のコンプライアンスにも通じると考えています。ただルールを守るだけではなく、相手に思いやりの心を持って人が嫌がることをしない、嘘はつかないといった道徳的な考え方が重要だと思いますね。

また、これは弊社で30年続けている5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)をもとに考えたOYPM(Osaka Yuki Productive Maintenance)活動にも通じています。一緒に働く社員のことを想像し、「職場が汚れていたら嫌な気持ちになるだろう」と考え、率先して行動する意識を持ってほしいですね。

こうした1人の行動を見て、「私もあの人を見習おう」と周りが影響を受けることできれいな状態を維持でき、全員が気持ち良く働ける職場になると考えています。

知的好奇心はすべての原動力に。女性が働きやすい職場づくりについて

ーー貴社が求める人物像をお聞かせください。

安藤昌幸:
私たちは感受性の高い人材を求めています。仕事において重要なのは、物事に感動できる心と魅力を感じる感性です。

私たちの仕事も同様に、普段の生活で目にしたものが新製品のアイディアの種になることがあります。そのため常にアンテナを張り、あらゆることに興味や関心を持てる方がいいですね。

ーー最後に求職者の方々に向けてメッセージをお願いします。

安藤昌幸:
弊社では仕事と家庭の両立のために、お子さんが小学校を卒業するまで時短勤務ができます。こうして結婚・出産後も継続して働きやすいよう職場改善に努めてきた結果、女性社員の定着率が少しずつ上がってきています。

この他にも女性専用の休憩室を完備するなど、職場環境の見直しを進めています。そのため男性だけでなく、女性の方々の応募もお待ちしています。

編集後記

創業者の代から大切にしている「人を敬う心」「人を愛する心」について、「人生で最も大切なこと」と話してくれた安藤社長。他者を尊重し、人を愛する同社だからこそ、多くの企業から信頼を集め、団結力のある組織であり続けられるのだろうと感じた。大阪有機化学工業株式会社はこれからもアクリル酸エステル業界のトップを走り続け、ものづくりの現場を支えていくことだろう。

安藤昌幸/1962年生まれ。1986年に大阪有機化学工業株式会社に入社し、研究・開発部門で働いた後、2018年に経営企画本部長を経て2020年に代表取締役社長に就任。