※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

均一な網目構造を持つゲルの創成により、多様な物性コントロールが可能となり、医療機器・医薬品の領域をけん引するジェリクル株式会社。この世界水準の技術を医療の幅広い分野で活用するために、同社の増井公祐代表取締役CEOは独自のビジネスモデルを構築している。増井社長にゲル市場の将来性と可能性についてうかがった。

世界の中での社会貢献を決意しゲルのビジネス化に出会う

ーー起業される前の経歴を教えていただけますか?

増井公祐:
理系卒でレバレジーズ株式会社に入社し、マーケティングを担当していました。成果を上げるたびに業務の幅が広がり、気付けば自分で判断しながら仕事をすることが増え、実質的に会社のナンバー2として働いていました。入社当初、会社の売上は20億円でしたが、その後急速に成長し、100億円に到達できたのです。

ーーその後、ご自分でIT企業を立ち上げ、世界中を旅したそうですが、そのきっかけを教えてください。

増井公祐:
社会貢献を目指してIT系の会社を立ち上げましたが、次第に事業の内容に疑問を感じたのでするようになりました。この仕事が本当に世界的な社会貢献につながっているのか、または日本の限られた市場でしか通じていないのではないかという懸念が募ってきたのです。

そこで、培ってきたキャリアに一度区切りをつけ、自分の目で世の中を見つめ直そうと考え、1年3カ月間にわたり海外を旅しました。さまざまな人との出会いと出来事を通じて、世界レベルでインパクトのある仕事をしたいという気持ちがより強くなりましたね。

ーー帰国後はどのような取り組みをしたのでしょうか?

増井公祐:
まずはAIや気候変動といった分野に目を向けて、多くの研究者に話をうかがいました。その過程で、久しぶりに大学院時代の恩師である酒井崇匡先生にもお会いしました。酒井先生は世界的に知られたゲル分野の第一人者です。その際に改めて考えたのが、AIや気候変動といった分野は多くの方が取り組んでいる一方で、ゲルの分野に進出する起業家は少ないかもしれないということです。

それなら、これに挑むのは「自分しかいないだろう」という結論に至りました。これはビジネス的な要素よりも、自分が立ち上げるしかないという強い気持ちに導かれた流れでしたね。

ゲルの可能性を最大限に活用するためのビジネスモデルを構築

ーー事業内容をお聞かせください。

増井公祐:
これまでにもゲルは生体との適合性が高い素材ですので、医療用の材料として注目されてきました。ただ、ゲルには大きな問題がありました。それは、通常のゲルは3次元の網目構造に水が吸収されたものと定義されますが、その網目の形状が不均一であるため、非常に扱いにくいのです。

ところが、酒井先生が開発したテトラゲルは、この網目が均一な構造になっており、さまざまな物性を持つ素材を製造する際の操作性が飛躍的に向上しています。その結果、医療分野での活用が可能になったのです。弊社は、このテトラゲルを活用した医療製品の開発を展開しています。いまだに有効な治療方法がない疾患にもチャレンジしています。

ーー経営が早い段階から軌道に乗った要因は何ですか?

増井公祐:
それはビジネスモデルの違いにあります。一般的には、膨大な資金を調達して一つの製品を開発するアメリカ型の手法を採用されていますが、製品化に至るのが難しいことが多い傾向です。

弊社のビジネスモデルは、これとは全く異なります。まず社内で多種多様な開発シーズをつくり上げていき、これを早い段階で企業にライセンスアウトし、共同開発することで技術の社会実装を実現しています。なお、その売却益やライセンスフィーは新たなシーズの開発に投資しているのです。

このビジネスモデルは、資金調達を前提とする一般的なスキームと比べて、リスクが低いのが特徴です。弊社は自分たちの収益をもとに研究開発を進められるので、他のスタートアップにはない優位性があると感じています。外部資金に依存することで研究開発の自由度が制約されるリスクや、製品が完成する前に市場から退場しなければならないという道を避けることができるのです。

さらに、複数の企業と同時並行で多様な製品を開発できる特徴があります。研究開発の成果を世の中に役立てるのであれば、多様な可能性を常に広げ続ける経営戦略をとることが重要です。

ゲルで世界市場に進出し、いつかポリマーの巨大市場に参入を目指す

ーー中長期的にはどのような目標を立てていらっしゃいますか?

増井公祐:
目標は二つあります。一つ目は、共同開発の提携先を海外に広げ、マーケットの拡大をすることです。弊社のような医薬品や医療機器のシーズ開発を進める企業は、メイン市場は海外です。現在、海外企業との契約締結を進めており、将来的には海外売上比率を75%まで引き上げたいと考えています。そのためには、英語が堪能なビズデブを充実させたいですね。

二つ目は、医療の領域でゲルをメジャーにすることです。2023年の世界のハイドロゲルの市場規模は約665億円しかありません(※1米ドル=146.5円で換算)。止血材の市場が約6,958億円規模あることから考え、弊社のテトラゲルの持つ可能性から考えると、マーケットはもっと拡張できると思います。

ゲルは、医療分野だけでなく、農業や工業の領域でも大きな可能性を秘めています。弊社としても医療の領域の枠を超え、他の領域でも展開したいですね。ゲルはポリマーと水からできており、このポリマーの市場規模というのは莫大なものです。まだ先の話ですが、ゲルに関わる領域を網羅し、この巨大なポリマーの市場でビッグカンパニーとして成長したいと思います。

編集後記

世界を視野に入れた社会貢献型ビジネスを目指す増井社長。ハイドロゲルの可能性を徹底的に追求するだけでなく、一歩踏み込んで、ポリマー市場も積極的に取り組んでいる様子が印象的だった。増井社長の情熱と冷静さが、医療機器・医薬品ビジネスの新たな風を巻き起こすに違いない。

増井公祐/1986年生まれ。2010年、東京大学工学系研究科バイオエンジニアリング専攻修了。2011年レバレジーズ株式会社に入社。実質的に会社のNO.2となり、売上20億円から100億円まで成長をけん引。その後起業したIT系事業に疑問を感じ、40カ国以上を回る世界一周の旅を行う。帰国後、2018年8月ジェリクル株式会社を創業。「ゲルで医療に革新をもたらす」ことを目標に、医療製品を変革する技術を提供している。