洗浄剤と一口に言っても、石けんと合成洗剤がある。そのなかでも、石けんは固形のイメージが強いと思うが、実はその他にも液体タイプ・泡タイプ・粉タイプと様々な形状がある。とはいうものの、そもそも石けんと合成洗剤の違いを理解している人は少なく、その結果、肌や環境に良いかという観点ではなく、値段だけで選んでしまっていることもあるだろう。
そのような状況のなかで、無添加にこだわった石けんづくりを50年前から続けるのが、シャボン玉石けんだ。
今回は、「健康な体ときれいな水を守る。」ことを企業理念とするシャボン玉石けん株式会社の森田社長に、お話をうかがった。
3代目として会社を継ぐことになったきっかけ
ーー家業を継ぐ決め手になったエピソードを教えてください。
森田隼人:
子どものころは、シャボン玉石けんはあまり知られておらず、ちょっと変わった石けんを作っている会社なのかなと思っており、気恥ずかしく感じることもありました。でも、中学生のころに父が書いた『自然流「せっけん」読本』(農山漁村文化協会)の原稿を読み、会社のこだわりに初めて気づき、家業に対する見方が変わりました。
私が大学生のころになると、シャボン玉石けんも徐々に認知が広がっていき、自分自身もさまざまな製品を使うようになっていきましたね。
また、父との年齢差が大きく、一緒に働けるうちに働きたいと思っていました。父が合成洗剤の製造をやめて無添加石けんに切り替え、17年間赤字を抱えながらも事業を続けていたことに感銘を受けたのも、会社に入るきっかけでした。
ーー入社当時はどのような仕事をしていましたか?
森田隼人:
入社当初は、石けんの原料油脂とアルカリと水を混ぜて石けんのもとを作る、釜炊き部門に配属されました。これは石けんづくりの最初の工程であり、ものづくりの基礎を学ぶための重要なプロセスだったと今になって思います。
その後、数カ月間で工場内のさまざまな部署を経験し、一通りの工程を学びました。当時、営業の経験も積みましたが、「無添加石けんを広めたい」という思いは強くあっても、将来的なビジョンはまだ明確ではありませんでした。
また、私が入社した2000年当時は周りに比較的若い社員が多く、彼らと一緒に飲んだり騒いだりしたことは、いい思い出となっています。このときは会社が黒字化し始め、社員の定着も進んでいた時期でした。
そのころ地元で北九州博覧祭というイベントに出展した際、エコライフモールというブースで一般の方に石けんの説明をしたのも、印象深い出来事でした。
無添加石けんの良さを広める活動を継続
ーーシャボン玉石けんを広めたいという思いは、いつ生まれましたか?
森田隼人:
私が幼い頃、父が『自然流「せっけん」読本』を執筆していたときに、「“石けん”はこういう風に人にも環境にもやさしい」という父の思いが、熱量のこもった文章でつづられている原稿を見ました。それを見た際に胸に熱いものを感じ、「シャボン玉石けん」を広げていきたいという気持ちが強くなったのを覚えています。
また入社してからも、お客さまからの「肌荒れが良くなった、ありがとう」といった、感謝がつづられた手紙を読んで、改めて「シャボン玉石けんを必要としている方に届けたい」という思いが強くなりました。
私が社長になったときに心に決めたことのひとつは、「お客様を失望させない」ということです。そのうえで「無添加石けんをより多くの人に広げていく」ことを実現していくために、私一人の力ではなく、社員がそれぞれの立場で力を最大限発揮できるように組織体制を整えてきました。
ーー無添加石けんの良さを伝えるという点において、課題はありますか?
森田隼人:
弊社としての大きな課題は、石けんと合成洗剤の違いが十分に認識されていないことです。地道な活動として、講演会や工場見学、SNSを使った発信は行っていますが、50年継続してもなかなか伝えきれていないため、まだまだ工夫が必要だと感じているところですね。
海外水準に合わせた、原料・品質・環境にこだわったものづくりの追求
ーー今後の展望などはありますか?
森田隼人:
まず、東南アジアを中心としたアジア全域での事業拡大を目指すことです。人口の多さや親日感情の強さから、インドネシアやマレーシア、タイなどの国々に焦点を当てています。
石けんの海外展開にあたっては、現地のパートナーと協力して市場を開拓する戦略を採用しています。単独での海外市場への進出は難しいため、現地の代理店を通じて輸出し、展開する方法を主としています。
ヨーロッパやアメリカ市場においては、サステナビリティへの取り組みの意識が高いものの、弊社の知名度の向上や製品の魅力を伝えるための施策が課題です。日本のブランド力やパッケージデザインなどについても考える必要があります。
また、石けん製造に関するテーマとして、「技術の分野において世界一の石けんメーカーになる」というビジョンを掲げています。現在は、複数の大学と連携し石けんの基礎研究を通じて、新しい用途を探っている状況です。学術研究において、石けんの分野では世界に類を見ないと自負しています。
「無添加で無臭に近い石けんの開発」「高品質ながら価格を抑えること」「環境負荷を低減する製品の開発」の3点が、無添加石けんとして注力すべき取り組みだと認識しています。研究チームは10~12人で構成され、理化学系のバックグラウンドを持つ研究員が半分を占めており、技術革新と製品開発を支えています。
ーー製品生産についてはどのようにお考えでしょうか?
森田隼人:
生産性の向上と品質の向上を両立させることが工場の基本的な目標ですね。とくに、スマートファクトリー化の推進やDXによって、生産性向上や安全管理の高度化をはじめ、たとえば自動で全品検品が可能になったり、職人技術の継承がしやすくなることなどを期待しています。
また、石けんを広めるために、講演会や学校への出前授業なども積極的に行っており、加えて環境負荷の低減につながる活動として、売上の1%を環境や健康を支援する団体に寄付する活動も行っています。このような機会を通して、社外に情報を発信することは、石けんについて知っていただいたり、シャボン玉の想いやこだわりに対する理解を深めてもらうための重要な手段だと感じていますね。
弊社はお客様の声を大切にし、お客様のご意見やご要望を踏まえた商品開発やサービスの改善に取り組んでいます。そして、これからも持続可能な社会に向けたものづくりを維持したいですね。そのために、社員が新しいことにチャレンジできる風土を引き続き、大切にしたいと思っています。
編集後記
幼いころから「無添加石けんを広めたい」と強く願っていた森田社長。日本だけでなく無添加石けんのメリットを世界に広めるために、生産体制や協力体制を築く姿勢に、熱い思いを感じた。これからも躍進を続けるシャボン玉石けん株式会社を応援していきたい。
森田隼人/1976年、福岡県北九州市生まれ。2000年専修大学経営学部経営学科を卒業後、シャボン玉石けん株式会社へ入社。関東エリアの卸店、百貨店、スーパー、ドラッグストアチェーンなどの営業に従事。その後、取締役副社長などを経て、2007年より代表取締役社長に就任。無添加石けんを通じた環境問題を広く社会に伝えるため、講演活動も積極的に行っている。