
茨城県つくば市に本社を構える先進モビリティ株式会社は、2014年の設立以来、自動運転技術の開発・製造を中心に事業を展開している。大型車両向けの自動運転システムや運用サポートを提供し、国内外で注目を集める最先端の技術力を誇る企業だ。今回は、代表取締役社長である瀬川雅也氏に、同社が目指す未来像や、自動運転技術の社会実装に向けた取り組み、そして自身のキャリアを通して描いてきたビジョンについてお話をうかがった。
研究者から経営者への転換点
ーーもともと、経営者を目指しておられたのですか?
瀬川雅也:
大阪の大学院を修了した当時は、経営者になることなど全く考えていませんでした。大学院では研究に没頭しており、新しい技術を生み出すこと自体に大きなやりがいを感じていました。当時の私は、未知の領域を切り拓くことそのものに魅了されていたのです。
ただ、企業に入ってからさまざまなプロジェクトに携わる中で、技術の社会実装という新しい課題に直面し、それをきっかけに、経営や事業の継続性という観点に興味を持つようになりました。技術を社会に役立てるためには、組織づくりや資金調達、さらにはマーケティングなど、多様な視点が必要だと気づかされたのです。結果的に、研究者としての経験を活かしながら、経営にも関わりたいという思いが次第に強くなっていきました。
ーー研究者としての経験を経て、現在経営者として特に大切にされていることは何でしょうか?
瀬川雅也:
従業員が「この会社で働けて良かった」と実感できる環境をつくることも重視しています。技術開発では多くの試行錯誤が求められますが、その過程で「自分の挑戦や成果がきちんと認められている」「安心して挑戦できる」という状態をつくることが、企業の成長や製品の品質向上につながると信じています。
大型車両向け自動運転技術が拓く未来

ーー大型車両向けの技術に特化した背景や、その意義について教えてください。
瀬川雅也:
大型車両の自動運転技術は、高度な技術的挑戦と明確な社会的使命をあわせ持つ領域として、私たちの情熱を強くかき立てています。
弊社は、大型/中型バス向けのシステム開発において、国内初となるレベル4認証(国土国交省が定めた特定の条件下で「運転手が不在でも自動運転が可能」なレベル)を取得しましたが、この認証を得るためには、安全性や安定性を確保する厳格なプロセスをクリアする必要がありました。特に、大型車両は車体が大きい分、センサーや制御システムの設計が複雑化しますし、道路インフラや運行ルートとの調和も求められるため、非常に高い総合力が必要です。
加えて、地域におけるバス路線の廃止やドライバー不足という深刻な社会課題に対して、自動運転技術は有効な解決策として注目されています。
ーー他社との違いを生む強みについて、どのような点を挙げられますか?
瀬川雅也:
弊社の強みは、特定分野に集中して技術を深めた「専門性」と、実用化を見据えた「総合力」の2点にあります。大型車両は乗用車と比べて慣性力が大きく、センサーが捉える範囲も広いことから、より厳しい条件下での技術的な挑戦が求められます。このような課題を克服するため、弊社では最適なハードウェアとソフトウェアの組み合わせを独自に開発し、着実な成果を積み重ねています。
また、弊社が掲げる最終目標は、自動運転技術を補助的なものではなく「完全自動運転」とすることです。この明確なビジョンに基づく取り組みが、お客様からの信頼を獲得し、他社との差別化を可能にしているのです。
戦略的な市場開拓と顧客価値の創造
ーー今後の事業展開として、新規取引先の開拓について教えてください。
瀬川雅也:
新規取引先の開拓において私たちが最も注力しているのは、自治体やバス事業者との連携をさらに強化することです。今後は営業体制をさらに強化し、各地域が直面する交通課題に対して、より具体的な解決策を提案していく考えです。
ーー既存の取引先との関係強化に向けて、どのような取り組みをお考えですか?
瀬川雅也:
既存のお客様からは、レベル4の早期実現を求める声が日増しに強まっています。このレベルアップにより、無人運転が将来可能となり、運用コストの削減や人手不足の解消につながると見込れます。
しかし、その実現のためには、法規制や安全性の観点から、段階的かつ慎重な検証が欠かせません。そのため、実証実験で得られたフィードバックを迅速に製品開発に反映させるとともに、官公庁や関連機関と密に連携し、許認可手続きや運行をサポートする体制を整えています。
次世代を担う人材育成と組織文化の深化
ーー求める人材像と、その育成方針についてお聞かせください。
瀬川雅也:
ソフトウェアエンジニアや品質管理の専門家に加え、AI関連の研究経験を持つ方や、センサー・制御系の技術に精通した人材を求めています。自動運転はソフトウェアだけで完結するものではなく、ハードウェアとの連携が不可欠です。
また、事業拡大を見据え、バックオフィスの強化やプロジェクトマネジメントの経験を持つ人材も求めています。弊社は規模こそ小さいものの、その分、個々の裁量や責任が大きく、自己実現や達成感を強く実感できる職場だと思います。
ーー社内の環境づくりにおいて、心がけていることは何ですか?
瀬川雅也:
社員一人ひとりが、弊社の一員であることを誇りに思える組織文化を築くことが、イノベーションを生む土台だと考えています。そのために、働きやすさをしっかりと担保しながら、失敗を恐れず、それを学びとして次に活かせる環境づくりを目指しています。
私たちは先進技術を追求する一方で、大型車両の自動運転など、安全性が特に重要な領域では慎重さを第一とし、丁寧に仕上げる姿勢が欠かせません。そのため、現場では社員が主体的に行動できる環境を整え、技術力の向上だけでなく、社員一人ひとりのモチベーション向上にも注力しています。
編集後記
瀬川社長の言葉からは、技術者としての深い洞察力と、経営者としての確固たるビジョンが伝わってきた。大型車両に特化した自動運転技術の開発という明確な戦略のもと、社会的課題の解決に挑む姿勢は、多くの企業にとって示唆に富むものだろう。
先進モビリティ株式会社が描く未来図は、単なる技術革新を超え、持続可能な社会の実現に向けた道筋を示している。今後も同社のさらなる飛躍に期待したい。

瀬川雅也/大阪府立大学大学院工学研究科博士前期課程修了後、光洋精工株式会社(現:株式会社ジェイテクト)に入社。2006年、東京農工大学大学院工学研究科博士後期課程修了。2015年、経済産業省商務情報政策局に出向。2020年、先進モビリティ株式会社の取締役技術統括部長に就任。2023年に同社代表取締役社長に就任。