スポーツ界では、才能ある若者が経済的理由で競技を続けられないケースが後を絶たない。この課題に挑むのが、株式会社ドリームマネージャーだ。同社は、アスリートとファンを直接つなぐプラットフォーム「ASFAN(アスファン)」を立ち上げ、新たなビジネスモデルの構築に取り組んでいる。
「子どもたちがスポーツを続けられる環境をつくりたい」という思いから始まったこの事業は、スポーツ界にどのような可能性をもたらすのだろうか。アスリートの新たな収入源を創出し、スポーツ界の構造的問題の解決に挑戦する同社COOの金村氏に、その思いと展望をうかがった。
暗黒の時代を経て、社長を辞める寸前につかんだ成功の鍵
ーー経営者としてのキャリアをスタートしたきっかけを教えてください。
金村秀一:
大学2年のときにアメリカに1年間留学したのですが、これが大きなターニングポイントとなりました。価値観や時間の使い方、生きるとは何か、といったことの意識が大きく変わったのです。その後、父親から誕生日プレゼントとして有限会社寿宝という会社をもらいました。
しかし、当時は社会人経験がなかったので、大手のパチンコ店で働きながら、もらった会社の経営ができるように、独立の準備をしました。朝9時から11時までジムでトレーニングをして、昼の2時ごろから夜の12時までパチンコ店で勤務。その後、家に帰って深夜3時ごろまで独立の準備をするというルーティーンを3年間、繰り返していましたね。
ーー経営者として苦労した点は?
金村秀一:
独立してから33歳までの11年間を、私は暗黒の時代と呼んでいます。今と正反対の経営方針で、社員教育も無駄だと思っていました。経営がうまくいかず、33歳で社長を諦めようと自暴自棄になっていたときに、あるセミナーで新しい経営方法に出合い、なんとか復活できたのです。
私は11年間のやり方を全否定して、フルアップデートするつもりで、セミナーで学んだことはすべて実践しました。このときの経験をもとに、株式会社ウィルウェイでは「100年塾®︎」というサービスを展開しています。
アスリートとファンを結ぶ、新しいプラットフォーム
ーーASFAN事業を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
金村秀一:
息子が小学5年生になったとき、サッカーのコーチから「サッカーを続けるのか、塾に行くのか」と質問されたのです。私たちの時代は普通に運動を続けていましたが、今は5年生の夏期講習から勉強に励むのが一般的だと。
スポーツだけで一生生活できる人はごくわずかで、ほとんどの人は、しっかり勉強して働くという道しかないのが現状です。これはおかしいと感覚的に思いましたね。子どもたちがスポーツを続けられる環境をつくりたいと考えたのが、ASFAN事業を始めたきっかけです。
ーー現在のASFAN事業の状況と、今後の展望を教えてください。
金村秀一:
アスリートの人気は結果にフォーカスされがちです。しかし、アスリートの取り組みは、普段の練習から食事まで、多岐にわたります。SNSではオープンにしづらい部分もあるので、クローズドなグループの中で、それをオープンにできないかと考えました。
現在、10選手と契約しており、2024年パリオリンピックに出場した選手との契約も交渉中です。今、一番盛り上がっているのが、女子バスケットボール選手のファンコミュニティですね。定期的に選手とZoomで話し、メッセージを送り合うことができるので、ファンの方々にはとても喜ばれています。
個人から中小企業までを巻き込むスポーツスポンサーシップ
ーーASFAN事業のビジネスモデルについて教えてください。
金村秀一:
「ASFAN」には、個人スポンサーと法人スポンサーの2つの形態があります。個人スポンサーは月額980円から、法人スポンサーは月額3万円から応援できる仕組みになっています。社会貢献の一環として捉えていただき、その中でアスリートも応援する。このシステムがうまくいけば、救われるアスリートがどれだけ増えるだろうと期待しています。
特徴的なのは、アスリートにメッセージを送る際に課金制を採用していることです。これにより、熱意のある方たちが集まり、質の高いコミュニケーションが実現されています。「ASFAN」を通じて、アスリートとファンの間に、より深いつながりが生まれていると感じますね。
ーー今後の戦略はどのようなものでしょうか?
金村秀一:
中小企業をターゲットにしています。市場が小さく、競争相手が少ないのが「ASFAN」の特徴です。アスリートが社会貢献活動を行うことで、支援する企業のイメージアップにもつながります。
例えば、アスリートが企業を訪問し、社員との交流を行うなど、スポンサーシップの形も多様化しています。こうした取り組みを通じて、アスリートの新たな収入源を創出しつつ、企業にとっても魅力的なCSR活動となるWin-Winの関係を目指しています。
また、今年の夏からは、法人スポンサー部門をさらに強化する予定です。将来的には、地元の企業がその地域出身のアスリートを応援するような、地域に根ざしたスポンサーシップモデルも構築していきたいですね。
新卒採用にこだわる人材育成戦略
ーーどのような方針で人材育成を進めていますか?
金村秀一:
私たちの会社では新卒採用しかしていません。私が50歳になる今から65歳までの15年間で、次の世代を育てていきたいと考えています。スピードはゆっくりかもしれませんが、会社としての強い基盤をつくっていきたいですね。「誰にでもできることを、誰にもできないほどやり抜くこと」を大切に、そのメンバーでどこまでできるか挑戦していきます。
ーー社員に対する思いをお聞かせください。
金村秀一:
ついてきてくれた社員が損をするような会社にはなりたくない。転職したほうが良かったと思われることは、悔しくて仕方ありません。責任を持って、「良い会社ができたね」と言えるような会社に成長させること、それが私の仕事だと考えています。
編集後記
アメリカ留学の経験や、経営の苦難を乗り越えた経験が、現在のドリームマネージャーの経営スタイルを形成している。アスリートの経済的自立を支援しながら、ファンとの新たな関係性を構築する試みは、スポーツビジネスの新たな形を示唆しているようだ。金村氏の「凡事一流(誰にでもできることを、誰にもできないほどやり抜くこと)」の精神が、今後どのような成果を生み出すのか。金村氏に、引き続き注目したい。
金村秀一/1973年、東京生まれ。東京国際大学経済学部卒業。21歳で起業。ウィルウェイグループの代表として活動し、経営塾、マーケティング業務のサポート、飲食、人材派遣など、会社の成長ステージに合わせて事業を展開した。「アスリートと子どもたちがつながれる環境をつくりたい」という思いから、2019年、株式会社ドリームマネージャーを設立してCOOに就任し、2023年2月に「ASFAN(アスファン)」のサービスをリリース。