※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

ビジネスの命題として注目が高まっている「SDGs」と「イノベーション」。株式会社SDGインパクトジャパンは、まさにSDGsの観点から社会のイノベーションを促すことに尽力している、サステナブルファイナンスの会社だ。

同社の代表取締役Co-CEOである前川昭平氏は、ビジネスが社会で果たすべき役割について一貫した独自の哲学を有し、会社をけん引している。前川代表にそのキャリアや経営哲学、そして同社が目指す未来について詳しく話を聞いた。

キャリアを通じて向き合ってきたサステナビリティを考慮する企業活動のあり方

ーー前川代表のこれまでのキャリアをお聞かせください。

前川昭平:
私は学生時代から経済学における「市場の失敗」というテーマに強い問題意識を持っていました。この「市場の失敗」とは、自由経済の中で外部不経済(周囲に与える悪影響)や情報の非対称性などにより、社会全体の効率的な資源配分が達成されない状態を指します。また「企業の社会的責任(CSR)」や「社会的責任投資(SRI)」といった、企業の経済活動の社会への影響を考慮する考え方についても関心がありました。

大学卒業後の進路を検討する際は、これらの問題意識に関連することができないかと考えていました。最終的には自ら自由経済の中に身を置いてみたいと考え、グローバルな経済活動に携わることを目指して、三井物産株式会社に就職しました。三井物産には約10年間在籍し、穀物トレーディングや、欧州でのMBA取得、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資調査会社での勤務、化学品・食料領域における事業投資など、多くの経験を積ませていただきました。

その後、グローバルなコンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループ(以下BCG)に転職し、エネルギー領域や産業財領域において、新規事業の戦略検討やデジタル化の推進など、幅広いコンサルティングプロジェクトに従事しました。

三井物産やBCGで働く中で、CSRやSRIの考え方も包含した「サステナビリティ」という概念が企業活動や投資活動に反映されていく状況を見てきました。またBCGに在籍していた2020年に、日本政府が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言すると、気候変動への対応が一気に企業戦略の中心に近づいていくのを感じました。
自分のビジネス経験を活かしてこれらのテーマに一層深く取り組みたいと考えていた中、SDGインパクトジャパン立ち上げの話があり、またとない機会と考え、2022年に参画したのです。代表取締役に就任したのは2024年4月です。

ーー前川代表が「市場の失敗」や「サステナビリティ」というテーマを追うことにしたきっかけは何でしょうか?

前川昭平:
何か大きなきっかけがあったというよりは、徐々に意識が高まっていった感じだと思います。大学の授業で市場の失敗やCSRという概念を知り、そこから企業活動のあり方に対する素朴な問題意識が生まれ、関連する授業を受けたり、本を読んだりするうちに、自分の中で問題意識が大きくなっていきました。

そのうちに、社会人になってから様々なビジネスを経験する中で、徐々に社会に広がっていったサステナビリティという概念の延長線上に、ビジネスがより主体的に市場の失敗を是正する方法が出てくるのではないか、という考えが自分の中で一層存在感を増していきました。自分の経験を活かしながらこのテーマに軸足を置いて働きたいという気持ちが強くなっていった気がします。

サステナビリティにつながる新たな資本の流れを作りたい


ーー貴社の事業について教えてください。

前川昭平:
弊社では、次世代のサステナブルな社会の実現に向けて、イノベーションを促進し、新たな資本の流れを作ることをミッションに、インキュベーション事業とファンド事業に取り組んでいます。いずれの事業もしっかりとした収益を実現しながら社会全体のサステナビリティ促進に寄与することを目指しています。

環境面ではカーボンクレジット(排出権)やアグリ・フードテック、サーキュラーエコノミー、クライメートテックなど、社会面では医療AIなどのヘルスケアテックなどの領域で、新たな事業の創出やファンドの推進に取り組んでいます。また、ファンド事業の中ではESGの観点からエンゲージメント(企業との対話)に取り組む上場株のインパクト投資ファンドへの助言も行っています。今後も事業を通じてより広い社会課題に取り組んでいきたいと考えています。

ーー貴社の強みをお聞かせください。

前川昭平:
一番はグローバルな人材で、サステナビリティと金融・ビジネスという両方の知見を有している点です。「サステナビリティと経済的な成長の両立」という非常に難易度の高い取り組みを進めていく上で、このケイパビリティ(組織的な能力)は重要と考えています。
また、サステナビリティに関連するスタートアップ企業とグローバルなネットワークを構築できている点も、インキュベーションとファンドの両事業を推進していく上での強みの一つです。
さらには、日本政府が進める二国間クレジット制度(JCM)を含めたカーボンクレジットにおける専門性と実績を積み上げてきている点も弊社の特長と考えています。

これら組織内の人材や知見・ネットワークを活かして事業に取り組んでいますが、弊社単独でできることは限られるため、国内外のパートナー企業の方々とも連携しながら、より大きな社会的なインパクトを実現していきたいと考えています。

カーボンニュートラルの領域を足がかりに、より広い社会課題に取り組むための青写真を描く

ーー今後の展望について教えてください。

前川昭平:
弊社はサステナブルな社会の実現に向け、新たな資本の流れを作ることを目指していますが、その難易度の高さを日々痛感しています。最終的にはサステナビリティにおける様々なテーマでインパクトを創出していきたいのですが、そのためにまずは経済的なリターンを出せる分野でしっかりとした成果を上げていくことが重要です。

その意味で、世界的に企業の経営課題となっているカーボンニュートラルは、弊社が強い知見を持つ領域の一つであり、まずはこのテーマでクライメートテックのスタートアップ企業との連携や、カーボンクレジット事業のさらなる強化を進めていきます。アジア圏を中心に、世界で脱炭素化を進める余地はまだまだ大きいため、弊社が存在感を発揮していきたいと考えています。

また、ファンドなどの金融スキームを活用した取り組みも継続していきます。中長期的にはサーキュラーエコノミーやウェルビーイングなどの課題にも取り組みを広げていきたいですね。

ーー貴社のミッションを実現するために、どのような人材を求めていますか?

前川昭平:
弊社のミッションやビジョンに共感し、新たな事業を通じた社会課題の解決に向けてともにチャレンジしてくれる人材です。私の役割は、そういった人材がそれぞれの力を思う存分発揮できる環境を整えることであり、主体的なチャレンジを応援しながら、個々の力を組織の力に昇華させていくことだと考えています。

人材が集まる場所のたとえとして「梁山泊(りょうざんぱく)」という言葉がありますが、私たちが目指しているのはまさにそれです。異なる得意分野を持ち、同じマインドでつながる人材が集まって積極的にアイディアを戦わせる中で化学反応が起こり、自発的にイノベーションが進んでいく。そういうチームを作ることができたら素晴らしいと考えています。

編集後記

前川代表の哲学は、SDGs以前の時代における社会のひずみを正していくという覚悟のように感じられた。今後、社会貢献と経済的利益を両立した事業が成長していけば、社会における同社の存在感はますます増していくことだろう。

前川昭平/慶應義塾大学経済学部卒業。HEC Paris経営大学院経営学修士(MBA)。三井物産株式会社の食料・化学品領域で、グローバルトレーディング業務や海外事業投資に従事。ボストンコンサルティンググループにて産業財・エネルギー領域の経営・戦略コンサルティングなどを経験し、2022年、株式会社SDGインパクトジャパンに参画。