※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

バブル崩壊直前の1990年。まだインターネットも普及していなかったころから、ものづくりのデジタル化に取り組んできた会社がある。それが、宮藤康聡氏が率いるSOLIZE(ソライズ)株式会社だ。

デジタル関連の製品といえば、3Dプリンタや3DCADなどが思い浮かぶが、SOLIZEはそれらに黎明期から取り組み、高い技術力と多くのノウハウを蓄積してきた。

そんなSOLIZEにも一時は「民事再生」という苦しい時期があったという。

それでも、SOLIZEは2024年に上場を果たし、さらなる規模拡大を目指している。一体どのように立ち直り、躍進を遂げたのか。その経緯と復活劇を支えた会社の「価値観」について宮藤社長にうかがった。

デジタル化で日本のものづくりに革新を

ーーまずは貴社の事業概要を教えてください。

宮藤康聡:
SOLIZEの事業内容は大きく3つあります。

1つ目はエンジニアの派遣や受託開発を行う「エンジニアリングサービス」。2つ目は開発現場の効率化を図る「コンサルティングサービス」。3つ目は3Dプリンタで試作部品や量産部品の製造・供給を行う「マニュファクチュアリングサービス」です。

弊社は創業以来「知恵と技術をエンジニアリングし、価値創造を革新する」というミッションに取り組み続けてきました。たとえば3Dプリンタを活用した試作部品の製造や、3DCADを活用したデータ制作について、社会で注目される前の黎明期からチャレンジしてきました。

おかげさまで多くの技術やノウハウを蓄積でき、今ではさまざまな価値を提供できるようになりました。今後も3つの事業を通じてミッションに取り組み、お客さまの成功や新たな価値の創造を追い求めていきます。

30年以上の経験と実績で世界が認める技術力を磨く

ーー貴社の他社にはない強みは何ですか?

宮藤康聡:
弊社の強みは、30年以上前から日本のものづくりのデジタル化をリードしてきた豊かな経験と実績にあります。この強みを各事業に活かし、複数の角度からお客さまへのアプローチをしています。

たとえば、エンジニアリングサービスでは、お客さまの製品開発現場の設計標準やプロセスを理解していることから、内外装などをまるごと依頼されることが増えています。コンサルティングサービスではプロの目線から開発現場の効率化の提案が可能です。弊社は、かつて金型工場で実現した熟練技術者の暗黙知を可視化することにより、作業工程に必要な時間を45日間から45時間に短縮した実績があり、その知見をあらゆる製造業に適用させています。

また、マニュファクチュアリングサービスでは、3Dプリンターの活用をリードし市場を作ってきたのですが、近年は少量量産部品の製造を手がけています。代表的な例として、トヨタ自動車のレクサスのオプション部品を製造した実績があります。これは世界初の取り組みとして大きく報道されました。

人事部門で経験を積み、経営の面白さに触れ、社長というリーダーに

ーー社長の経歴を教えてください。

宮藤康聡:
私のキャリアが始まったのは1990年。本田技研工業で人事担当者としてのキャリアをスタートさせました。人事の業務を通じて多くの方と接し、カリスマ創業者である本田宗一郎氏の話を聞く機会もありました。

次に入社したのはユニクロの運営で有名なファーストリテイリングです。ここでは人事に加えて店長の独立を支援するフランチャイズ制度にも携わりました。

その後、40歳になるタイミングで経営に近いポジションへのチャレンジを決意します。そしてSOLIZEの前身である株式会社インクスに入社。主に人事責任者としての経験を経て、子会社の社長を務めたのち、2020年にSOLIZEの社長に就任しました。

リーマン・ショック後には会社の民事再生を経験

ーーこれまでで一番大変だった出来事は何ですか?

宮藤康聡:
2008年のリーマン・ショックの影響を受け、2009年に民事再生を経験したことです。当時、私は人事責任者だったので、リストラという苦渋の選択も行いました。今思い返しても社員たちには申し訳なかったとつらい気持ちになります。また、残った社員や取り引きを続けてくれたお客さまに対する感謝は計り知れないものがあります。

おかげさまで民事再生は4年の歳月をかけて終了しました。そのタイミングで社名をSOLIZEと改め、新たなスタートを切りました。2024年2月には株式の上場も果たしました。

何よりも「誠実さ」を大切にする

ーー仕事をするうえで社長が一番大切にしている価値観を教えてください。

宮藤康聡:
一番大事にしていることは「誠実さ」です。ものづくりの領域にいる以上、納品物のクオリティと安全性に真摯に向き合い、継続的に技術力の向上にも取り組まねばなりません。そして、この姿勢を継続するには顧客の期待に応え続ける「誠実さ」が欠かせません。

民事再生下で仕事をいただけたのも、それまで誠実に仕事をしてきたからだと思います。それまでの積み重ねがあったからこそ、多くのお客さまがSOLIZEを信頼してくれたのでしょう。

さらなる事業拡大で社会と社員への貢献を目指す

ーー事業について今後の展望を教えてください。

宮藤康聡:
今後はすべてのステークホルダーに対して密なコミュニケーションをとり、企業体としてさらに成長していきたいと考えています。

具体的には業界における影響力の拡大を考えています。規模でいうと従業員1万人の1000億円企業を目指します。そのためにアジアを始めとした海外展開も検討しています。

編集後記

いかに優れた技術を持つ会社でも、顧客からの信頼なしには成り立たない。SOLIZEは優れた技術と、顧客と真摯に向き合う「誠実さ」を兼ね備えていたからこそ、民事再生から復活し、飛躍を遂げるに至った。

どれだけ成長しても人付き合いの本質を大切にし、謙虚であり続ける宮藤社長。この社長と一緒に未来を見てみたいと感じる方は多いのではないだろうか。SOLIZEというフィールドで新たな価値を生み出し、同社を新たなステージへと導くのはもしかしたらあなたかもしれない。

宮藤康聡/1990年本田技研工業株式会社入社。2001年株式会社ファーストリテイリング入社。2005年株式会社インクス(現SOLIZE株式会社)に入社し、2008年に出向先である株式会社インクスエンジニアリング(現SOLIZE株式会社)の取締役に就任。2017年にSOLIZE Engineering株式会社(旧株式会社インクスエンジニアリング。現在はSOLIZE株式会社)の代表取締役社長に就任。2020年にSOLIZE株式会社代表取締役社長CEO就任(現任)。