
株式会社JR東日本スマートロジスティクスは、2023年設立の貸ロッカー事業とスマートロッカー事業を手掛ける企業だ。JR東日本グループの一員でありながら、独自性があり、多機能なスマートロッカー「マルチエキューブ」の設置は全国展開を見据えている。今回は、同社の代表取締役社長である市原康史氏に、これまでの経緯や今後の展望などについて話をうかがった。
「最高のロケーション」に惹かれて、JR東日本に新卒入社
ーーJR東日本グループに入社した経緯を教えてください。
市原康史:
大学卒業後、1995年にJR東日本に入社しました。JR東日本が「駅」という最高のロケーションを持ち、多くの可能性を秘めている会社だと感じていました。大企業ではありますが、まだまだ多くの可能性を秘めている会社だというイメージが強く、それぞれの事業をさらに大きく成長させたいという希望を持って入社したのがJR東日本と私の出会いです。
ーー入社後、特に印象に残っている仕事についてお聞かせください。
市原康史:
茨城・群馬・埼玉などの支社勤務を経験した中で、印象深いのは群馬県高崎市の高崎支社にいた頃です。群馬全体を活性化させるプロジェクトに参画し、新幹線駅があるという特徴を活かして「駅弁 味の陣」という駅弁の人気投票イベントを企画・開催したことが印象に残っています。
他にも、地域の特産品を使ったナチュラルコスメ(パラベンフリー)化粧品の開発に携わるなど、地域活性に関するさまざまなプロジェクトを企画・遂行してきました。ここで、地域を盛り上げることができる発想力や企画の遂行スキルが身についたと思います。
また、駅構内のスペースを活用した個室・半個室型のワークスペース「STATION WORK(ステーションワーク)」事業についても計画段階から携わらせていただきました。アイデアを出すのが好きな方で、隠れた魅力を発掘したり、駅の未活用地を商用化したりと「今あるものをフル活用する」という事業を手掛けてきました。
一方で、同時に契約内容や決算書などを読み込むというリスクマネジメントも学べたのはありがたかったです。商社から転職された上司に財務について教えていただいたり、契約書を集めた書式集を弁護士の先生とつくり上げたり、経営の基礎に関する部分はJR東日本で幅広く学びました。
駅のロッカーをネットワークで一括管理。ただの「モノを預かるハコ」ではない、多機能物流拠点に

ーースマートロッカー事業を始めたきっかけを教えてください。
市原康史:
きっかけは駅の現状から発想した事業アイデアでした。以前は、ロッカー運営会社がそれぞれ駅構内にロッカーを設置していたのですが、もっと有効活用はできないか?と考えたことがスマートロッカー事業の始まりです。製造、改修、設置の全て自社で管理し、利用データを蓄積していくというサイクルをつくり、改善を続けています。
ーーどのように改善しているのでしょうか。
市原康史:
駅でロッカーの利用者や使うシーンなどについて調べました。2020年頃からJR東日本グループとして「ロッカー予約システム」を始めていましたが、ロッカーで宅配便などの荷物を受け取る、荷物を発送する機能を装着しました。これが、荷物を預かるという以前からの機能に加え「予約・受取・発送」の3つの機能を備えた「多機能ロッカー」の始まりです。
ロッカーの役割が増え、価値が高まるにつれて、新たなニーズも見えてきます。荷物の預け入れ・受け取りはロッカーでなければいけないのか?という視点が生まれ、「駅のロッカーに預けられた荷物を、夕方に宿泊先のホテルへ届ける」というサービスも付加しました。
「ロッカーを物流拠点にする」という認識を持ち、今日も改善点や新たな付加価値について調査し、検討を重ねています。
駅構内でのノウハウを活かし、エリアを超えて人の集まる場所にスマートロッカーを設置していきたい
ーー今後の事業展開について教えてください。
市原康史:
JR東日本グループの会社ですが、スマートロッカー「マルチエキューブ」は駅にしか設置できない、とは思っていません。これからも設置エリアを広げ、たとえば郵便局やガソリンスタンドなど、駅の枠を超えて人の集まる場所へスマートロッカー「マルチエキューブ」を設置し、より多くの方にご利用いただき、物流の要となっていくことを計画しています。
今もスキー場などにも設置していますが、ロッカーの評判は大変良く、高稼働を続けています。操作案内は5ヶ国語対応・電子決済にも対応していることで、海外から来た方に使っていただく機会も増えました。
また、機能を増やしますます便利になっているスマートロッカー「マルチエキューブ」ですが、JR東日本エリア外にいる方々からの知名度はまだまだ低いという側面があります。関西から出張や旅行などで関東に来る方が、ロッカーを予約してから来ることが普通になるように、スマートロッカー「マルチエキューブ」の認知度をJR東日本の枠を超えて、全国的に高めていきたいと考えています。
ーースマートロッカー「マルチエキューブ」の知名度を高めるにあたって、課題はありますか。
市原康史:
ロッカーが物流拠点となったことで、新たな課題も見えてきています。それは「最適な運び手不足」です。運ぶものの大きさ・温度管理なども必要になってきていますが、運送会社・運転手などが不足しており、そうした面も解決していく必要があると実感しています。
スマートロッカー「マルチエキューブ」は、ネットワークでつながっており、弊社内のシステムで一括管理しています。そのため、トラブル発生時も現場に行かずに対応することも可能になります。全てのロッカーのデータを収集・分析することもできています。
ーー最後に、貴社で活躍しているのはどんな人材ですか?
市原康史:
この便利なロッカーを、国内外の方に広く知っていただくためには、今あるロッカーのデータを分析し、改善点を見つけ、課題を解決していく行動が必要不可欠です。与えられた業務を漫然と進めるのではなく、PDCAサイクルをまわし、共に試行錯誤しながらさまざまな可能性にチャレンジしながら進んでいける社員と共に事業を発展させていきたいと思います。
編集後記
インタビューで市原社長は、「駅やエリアなどにとらわれず、良いものを日本全国に広めたい」という思いを語った。以前から発想力を持ち地域活性や課題解決などに取り組んできた市原社長のもと、同社はこれからも事業の強みを伸ばし、時代の流れを読みながら積極的なチャレンジを続けていくことで、ますます存在感を発揮していくことだろう。

市原康史/1972年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。1995年JR東日本に入社、主に生活サービス事業に従事、不動産担当、地方での事業担当、秘書、事業戦略、新規事業を担当。エキナカのシェアオフィス「STATION WORK(ステーションワーク)」の立ち上げにも携わる。2023年、株式会社JR東日本スマートロジスティクス設立、代表取締役に就任。