※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

広告・プロモーション領域でクライアントの課題解決を支援する株式会社スコープ。同社は代表取締役社長の横山繁氏のもと、大きな変革の時代を迎えている。いかなる難題にも応える「実現力」を強みに、先代から続く「共存・共栄」の精神を企業文化の根幹に据え、社員一人ひとりの人生と仕事の融合を目指す「パーパス経営」を推進している。その重要なパーパス策定を若手に委ねるなど、大胆な風土改革を実行中だ。自身のモットー「眠っている時間以外は楽しく」を体現する横山氏が率いる同社はどこへ向かうのか。その軌跡と未来への展望を追った。

楽しむことが原点 困難な経験から生まれた価値観

ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。

横山繁:
社会人としてのキャリアはパッケージメーカーから始まりました。営業畑を歩んでいましたが、途中から商品開発にも携わり、電子レンジで作るポップコーンなどを手がけました。工場の生産ラインとの調整に苦労した経験もあります。自分で外注先を探し、手土産を持ってお願いに上がったこともありました。これらの経験を通じて「どうすれば実現できるか」を考え抜く姿勢がこの頃に身につきました。

その後、総合広告代理店に移りました。当時はまさにバブルの真っ只中で、社会全体が信じられないほどのエネルギーに満ちあふれていました。「札幌にラーメンを食べに行こう」と昼食のために飛行機に乗るような時代です。仕事は尽きることがありませんでしたが、趣味のサーフィンに行く時間を捻出するために、どうすれば効率的に仕事を進められるかを常に考えていました。

こうした経験の根底には、一貫した私の仕事観があります。それは「眠っている時間以外は楽しく生きてやろう」という思いです。また「仕事はとにかく楽しむもの」「自分の人生は自分の思った通りに生きる」という考え方を大切にしています。その原点は、学生時代に新宿のマクドナルドでマネージャーとして働いていた経験にあるのかもしれません。今の仕事のスタイルの基礎は、これらの経験の中で築かれたのだと思います。

守るべき企業文化と第三創業期の変革

ーー貴社入社後、どのようなことを意識していましたか。

横山繁:
「社長の息子」という特別な目で見られるだろうと意識していました。また、前職では私自身が弊社に仕事を発注する立場でもありました。そのため、昔からいる社員たちとの距離感をどう縮めていくかは大きな課題でした。何より当時、弊社は仕事が多すぎて皆が会社の床で寝るのが当たり前という、今では考えられないほど過酷な環境だったのです。

だからこそ、小手先のテクニックは通用しません。まずは彼らと「目線を同じくする」ことが何よりも重要だと考えました。私も一担当者として現場の最前線に立ち、皆と同じ立場で仕事に向き合いました。

ーー受け継がれている企業文化や風土について教えてください。

横山繁:
先代から受け継いでいる最も大切な企業文化は「共存・共栄」の精神です。これは、お客様も仕入先も、上下関係なく対等なパートナーとして捉えるという考え方です。父は特に「業者」という言葉を嫌いました。そのため社内では今も「お取引先」という呼称を徹底しています。お取引先様がいなければ会社は成り立たないからです。この対等な目線は、絶対に失ってはいけない会社の根幹です。

また、その精神は支払いにも表れていました。当時から主要得意先様にならい、支払いは翌月現金払いを徹底しておりましたが、これもビジネス上の信頼関係を築く上で、非常に重要なことだと考えています。

ーー社長に就任されてから、会社の在り方はどのように変化しましたか。

横山繁:
弊社の歴史には、三つの創業期があると考えています。最初が現在会長である父が会社を築いたときです。次が、8年ほど前、当時三拠点に分かれていたのを一つに統合し、CI(企業価値や理念)を刷新したときです。

そして今が、「スコープグループパーパス」を策定した第三創業期にあたります。これからの時代は、会社のために個人がいるのではありません。「自分の人生の中に仕事がある」という考え方が主流になるでしょう。そのために、退職金制度や雇用形態の見直しも進めています。多様化するライフスタイルの中で、社員一人ひとりが自分の人生をどう輝かせていくか。それが重要です。そのための環境や制度を整えることが、私の役目だと考えています。

個人のパーパスと組織が共鳴する未来

ーー会社のパーパスはどのようにして策定されたのでしょうか。

横山繁:
パーパスとは、社会における当社の存在意義を示すとともに、私たちが目指す羅針盤の役割を担います。私たちは何のためにこの社会に存在するのか、を指し示すものです。そのパーパスを策定するために、挙手制でメンバーを募り、プロジェクトを発足させました。上辺だけのものではなく、会社の中から生まれた真のパーパスをつくりたいという思いがあったからです。最終的に入社10年ほどの女性社員をリーダーとする若手中心のチームで進めることになりました。

若手にこの重要なプロジェクトを委ねたのには、明確な理由があります。それは、これから弊社で長く仕事をしていくのは、彼ら彼女ら自身だからです。キャリアを積んだ人間は、どうしても過去の経験からしか発想が出てきません。しかし、若手は経験値がないからこそ、何にでも挑戦できます。失敗を恐れず挑戦する方が、成長のベクトルの角度は間違いなく勢いが増します。最初は緩やかでも、ある地点から一気に突き抜ける瞬間が来ます。その可能性に賭けました。

ーー策定されたパーパスを、どのように浸透させていきたいですか。

横山繁:
「共存・共栄」を維持するために、「パーパス経営」は不可欠です。ただ、重要なのは言葉そのものではなく、それが醸し出す「空気感」だと考えています。言われたことをやっているだけでは、それは風土とは呼べません。誰かに言われなくても当たり前にそうしている状態が、会社のDNAとして自然に根付いていくことの現れだと思います。

「誰も見ていないところで良いことをしなさい。そうすれば運が巡ってくる」とよく言うのですが、そういう見えない部分を大切にしていきたいです。

ーー会社のパーパスと、社員の働きがいはどのようにつながるとお考えですか。

横山繁:
会社のパーパスは、社員が同じ未来を目指して進むための、まさに「羅針盤」です。自分の仕事が、会社の向かう大きな物語の中でどのような役割を果たしているのか。それが明確になることで、日々の業務に意味や誇りを持つことができます。それがまず、働きがいにつながる第一歩だと考えています。

しかし、私たちはさらにその一歩先を目指しています。会社という船が進む方向を示す羅針盤がある上で、さらに重要になるのが、船員である社員一人ひとりの航海の目的、つまり「マイパーパス」です。仕事は人生の一部です。そのため自分のパーパスを追求することが、結果的に仕事のパフォーマンスを高め、人生そのものを豊かにすると信じています。

会社のパーパスという大きな目的地と、個人のマイパーパスという航海の目的。この二つが重なったとき、社員は自律的なエネルギーを持って輝き始めます。上辺だけのもので終わらせないためにも、時間はかかります。しかし、この二つのパーパスをどうリンクさせていくか、粘り強く取り組んでいきます。

「実現力」と「発想力」という成長の両輪

ーー貴社ならではの強みは何でしょうか。

横山繁:
間違いなく「実現力」です。創業以来、お客様からの無理難題ともいえる要求に応え続けてきました。たとえば、かつて新聞折込のチラシを全国で1000万部、わずか4時間で印刷し、納品するという仕事がありました。物理的な可能性とまさに限界との戦いです。トラックを100台手配して配送時間を10分の1にしました。また、納期に間に合わせるため社員が納品先の折込会社に出向き、夜通しで折り込み作業を手伝ったこともあります。こうした壮絶な経験の積み重ねが、絶対に「Noと言わない」で、解決する方法を考えるという私たちの姿勢と、それを可能にするノウハウにつながっています。

加えて、もう一つの強みが「発想力」です。これまで培ったノウハウで生産性を高め、そこで生み出したコストや時間を新たな価値創造のための投資へと振り分けています。特に、デジタルという道具をいかに効果的に活用し、お客様の課題を解決に導くか。現場で鍛え上げた「実現力」と、未来を見据えた「発想力」。この両輪で、お客様の期待を超えるサービスを提供し続けます。それこそが、私たちの真の強みです。

ーー5年後、10年後、どのような会社を目指していきたいとお考えですか。

横山繁:
社会が変化する、その一歩先を見越したビジネスを展開したいです。お客様との関係を一過性で終わらせるのではなく、効果検証を繰り返しながら、太く、長く、多岐にわたる関係性を築きたいという思いがあります。

特にコロナ禍以降、日本全体がどこか元気を失っているように感じます。だからこそ、私たちの仕事でお客様はもちろん、その先にいるエンドユーザーの方々が「イキイキ」できるか。そこを追求したいです。私たちの仕事でお客様の意識が変わり、エンドユーザーも幸せになる。そんな変化を生み出す存在でありたいと考えています。

ーー貴社が求める人物像についてお聞かせください。

横山繁:
「自分を主語にして」物事を考え、人生を送れる人物です。これは、自分勝手ということではありません。「会社が言っているから」と考えるのではなく、「自分はこうしたい」という意思を持って自律的に動く。そして、その結果に責任を持つ。そういう方と、ぜひ一緒に働きたいです。

ーー今後の注力テーマをお聞かせください。

横山繁:
引き続き「マイパーパス」の浸透です。社員一人ひとりが、自分で自分の時間や人生をコントロールする感覚を持つことが大切だと考えています。そのために必要なのは、自分の思いを「言語化」することです。私自身、「自分を超える。一隅を照らす。未来を豊かにする。」がマイパーパスですが、つまりは自分のエネルギー源が何なのかを自覚することです。

自分がどういう状態のときに幸福なのかを理解する。私自身、何事にもあまり抗わず、自然体でいることを心がけています。会社としても、社員が自分らしくいられるよう、パーパス浸透にまつわる人事制度なども含めて、会社全体を一緒に変えていく所存です。

また、パーパスの実現に向けて、今年度もう一つの対外的なブランドスローガンを策定しました。パーパスが企業の人格を表すものであるならば、ブランドスローガンは私たちの強みを明文化した自己紹介のようなもの。それが「THE ACTIVATER COMPANY なんでもアクティベートする会社、スコープ」です。

これまで私たちは店頭販促を中心に、商品やお客さまを動かしていくことを生業にしてきました。言い換えれば「アクティベーション=活性化」してきたわけです。その力を今後はさらに企業のマーケティング、そして社会課題の解決にまで及ぶことができるようにしていこうという意思の宣言となります。この活動を通じた先にパーパスで唱えた「未来からほめらえる仕事」があるのです。

編集後記

「眠っている時間以外は楽しく」。取材中、横山氏が何度も口にしたこの言葉は、彼の経営哲学そのものを表す。かつて社員が床で眠るのも厭わなかった壮絶な現場で培われた「実現力」。そして先代から受け継いだ「共存・共栄」という揺るぎないDNA。この二つを土台としながら、社員一人ひとりの「マイパーパス」を尊重し、会社の未来を創造していく。その柔軟で力強い姿勢は、まさに第三創業期を率いるリーダーの姿であった。同社の挑戦は、これからも多くの人々を惹きつけていくだろう。

横山繁/1962年東京生まれ。明治大学政治経済学部卒業後、スーパーバッグ株式会社、総合広告代理店の勤務を経て、1992年に株式会社スコープへ入社。創業者である横山寬の後任として、2008年に代表取締役に就任。2024年には「スコープグループパーパス」を制定し、社会課題と向き合う「パーパス経営」を推進。