※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

2012年に設立されたワールド・モード・ホールディングス株式会社は、ファッション・ビューティー領域に特化した総合ソリューショングループだ。販売員をはじめとする総合人材サービス、教育、店舗運営、マーケティング、コンサルティング、空間デザインなどを提供する。

国内のみならず海外の複数の国にて事業を展開する同社代表取締役の加福真介氏に、グループ誕生までの経緯や大切にしている考え、今後の展望などについてうかがった。

父の人材派遣事業を手伝うためにファッション業界へ

ーー貴社を設立した経緯を教えてください。

加福真介:
弊社のオリジンは、私の父が立ち上げ現在はグループ会社の一つである「iDA(旧:アイ・ディ・アクセス)」にあります。父は30年ほどファッション業界で働いたのち、自らの知見を生かし、業界への恩返しを目的として、リテールやブランドビジネスを主としたコンサルティング会社として1999年にiDAを立ち上げました。創業時は主に、新規で上陸する海外ブランドと日本の百貨店の橋渡しを3社ほど対応しました。

iDAの転機となったのは、フランス発の化粧品専門店である「セフォラ」の日本上陸でした。セフォラはブランドごとに売り場を設けるのではなく、リップコーナーに全ブランドのリップを並べるといったアイテム別の店づくりが特徴です。

日本ではめずらしい形式だったことから、販売員の教育やオペレーション面を日本においてどのように実現するかが重要な課題だったようです。企画段階からiDAにお声がけいただき、その成果が認められ、業務委託という形でセフォラの運営会社となりました。

店舗の運用自体は上手くいっていたのですが、本国の方針により、セフォラは2002年2月に日本から撤退することになってしまったのです。父は「手塩にかけて育てたスタッフたちを失業させまい」と、全員の転職先を探して業界中の企業にお声をかけてまわり、なんとか300人の雇用を守りきりました。

もともとコンサルティング事業としてスタートしたiDAが、現在は総合人材サービス事業を行っている背景には、この出来事が影響しています。

ーー加福代表のこれまでの経歴をお聞かせください。

加福真介:
私はもともと、大手ITソリューション企業の営業をしていましたが、2003年に父が体を壊したことを機に、iDAへの入社を決めました。最初はファッションの知識が乏しく、無我夢中に飛び込み営業などをしていましたね。

そんな中、父に「顧客と本当のパートナーにならないと真の商売とはいえない」と言われたことで、業界の構造や最新情報を一から学び、顧客のパートナーになるべく尽力しました。この時、本当に多くのことをクライアント企業の方々や当社を通じて就業していただいていた方々から学ばせていただきました。2006年以降は役員として父をサポートし、営業本部長や社長室長を経て、2008年に代表取締役に就任した次第です。

人材ファースト&顧客の課題を解決するグループ会社を形成

ーー社長就任後のターニングポイントはありましたか?

加福真介:
2011年頃からある同業者による人材の引き抜きが大規模にあり、5人の責任者クラスが去ったことで、挫折しかけたことがありました。しかし、その他社から「今の2倍の給料を出す」という条件を提示された中で、ほとんどの社員が残ってくれたのです。私にとってこれは本当にありがたい出来事でした。

残ってくれたメンバーたちに恩返ししたいと強く思い、さらに成長することを約束した私は、経営学を学びなおしました。また、全国の支店を行脚しながら全社員と将来のことを語る座談会を3年間実施して皆の意見を集約し、「最先端の仕事を通してプロとして成長したい」「最高のチームワークで喜びを分かち合いたい」「ファッション業界に貢献し、胸を張れる会社でありたい」という夢をコアバリューに、そしてそれを中心においたビジョンを描きました。

さらに、今後は人と企業をつなぐだけではなく、お客様の事業自体にコミットして、あらゆる課題を解決していきたい、人手不足の解消に留まらず、お客様の店舗運営や人材教育、マーケティング、ブランディングまで担える会社になることが、メンバーと自社の成長、業界への貢献につながるはずだと考え、2012年にワールド・モード・ホールディングスを設立しました。

ーーグループが拡大した背景もお話しいただけますか。

加福真介:
弊社の事業で「人」と「企業」の両方を幸せにするにあたって、店舗運営やマーケティングの専門家など、さまざまな専門スキルを持った仲間を集めたいと考え、自分の夢をいろいろな人に語るようになりました。社内の会議などで漫画「ワンピース」を題材にすることが多いのですが、仲間を集めながら夢を実現していくその漫画のストーリーがすごく気に入っています。

その中で出会ったのが、ファッション領域のマーケティングを得意とする「AIAD(アイアド)」です。創業者の方が「将来的に会社を託したい」と言ってくださり、2014年にグループに参画してくれました。

また、店舗運営に関する研修・コンサルティングのプロを育てる「BRUSH(ブラッシュ)」は、ファッション業界で「販売の神様」と呼ばれる秋山恵倭子さんが代表を務める会社です。「業界全体の販売員を幸せにしたい」と語っていた彼女に会いに行ったところ、私の夢に賛同してくださり、グループとして会社を設立されました。

さらに、VM(ビジュアルマーチャンダイジング)や店舗運営代行のプロフェッショナルの方々や、最大のライバルだと思っていたトップの方が「一緒にやろう」と共感してくださり、それぞれの事業で私にとって最高のメンバーが社長を担ってくれている状況です。

ワールド・モード・ホールディングス グループ

制度づくりとサステナビリティの浸透で「働く人が胸を張れる環境」を創出

ーー企業の代表として大事にしている考えをお聞かせください。

加福真介:
業界全体のことを考えて新しいアイデアを出す姿勢は、父から受け継ぎました。

業界の発展を支えるために力を入れている取り組みのひとつが、多くの方が従事する「販売職」の社会的地位を上げることです。そのために、業界の皆様とともに「日本プロフェッショナル販売員協会」という業界団体を設立し、販売員に向けた研修や資格制度などを運営しています。またiDAでは、自社の正社員として雇用して顧客企業に派遣する「アンバサダー制度」を導入するなど、新しい仕組みづくりにチャレンジしました。

一方で、ファッション業界は環境や労働など多くのサステナビリティ課題に直面しています。業界の持続的な発展を支えたいという思いから、2020年にサステナビリティ委員会を設置し、業界全体やステークホルダーの皆様を巻き込みながら活動を推進しています。

ワールド・モード・ホールディングスを設立する前と後では、経営に対する考え方も大きく変わりましたね。昔は会社の事業を成長させることで社員を幸せにするつもりでしたが、社員の引き抜きにあい社員に励まされて自身が立ち直れた時、人が集まり個々が成長する環境がある会社こそがその事業を成長させることができると気付きました。経営者が社員を幸せにしようと奮闘することが、お客様の幸せに繋がると考えています。

ーー社員の幸せにつながる取り組みもうかがえますか?

加福真介:
ワールド・モード・ホールディングスでは2013年に人事制度を一新したほか、前述の座談会で社員から募った300以上のアイデアに取り組んできました。また、業界を支える販売員の方々の雇用を守ることにも努めてきました。

リーマンショックの時には、多くの販売員が職を失いかけました。当時、iDAには約2000人の派遣スタッフがおり、ブランド各社に「スタッフを正社員にしてください」と手紙を書いたところ、多くの正社員化を実現することができました。そして「優秀な人をゆくゆくは社員にできる」と認識されたお客様から正社員化を前提として新たな依頼の声がかかるようになり、iDAが派遣会社としての人材採用と半年〜2年間の教育を担当した上で、ブランド側で正社員化するといった新たなスキームが広がりました。

現在は毎年2000人近い派遣スタッフが正社員となっていて、デパートを歩くとiDAのOBがたくさんいる、ということになっています。キャリアアップした先輩が身近にいると、新人も心強いですよね。社員になれたスタッフが友達を紹介してくれるなど、コミュニティはどんどん広がっています。

また、「とにかく社員を大事に」という思いで、グループ一丸となってコロナ禍も乗り切りましたね。オフィスの社員、派遣スタッフとして取引先で働く社員たちの雇用を守ることを第一に、赤字を受け入れ、自宅待機の期間を活用してアフターコロナに向けた「販売員応援プロジェクト」を立ち上げました。

同プロジェクトで提供したスキルアップのためのトレーニングを受講したスタッフたちは、スキルアップし、給料の維持にも繋がりました。コロナ禍が明けた時、人材不足でクライアントに迷惑をかけることもなく、店頭にかかわるメンバーたちが笑顔で再会できました。企業として正しく、社員が胸を張れる行いによって、業績が上がった出来事かと思います。

ーー人材育成について、独自の手法があればお聞かせください。

加福真介:
私たちは自社だけではなく、ファッション業界全体が「世の中に胸を張れる存在」であることを望んでいます。特に店頭に立つ方々は、サステナビリティのマインドや正しい知識を育み、「気持ちのいい豊かさを手に入れましょう」と、お客様にご提案する重要な役割を担います。

その考えから、2020年に販売員向けのサステナビリティウェビナーをスタートしました。販売員の皆さんに、現場で役立つサステナビリティの知識を習得していただくため、業界内外の様々なゲストを招きながら定期的に開催しています。

地球にやさしい素材の服を大切に着ることや、着なくなった服をリサイクルに出すなど、さまざまな取り組みの方法がありますが、その情報を伝えることができるのは、店頭で接客をする販売員の皆さんです。消費者の気持ちは接客を通して変えることができるはずです。マインドの共有によって、商品との出会いも創出していければ、世の中はもっとサステナブルになるでしょう。

日本が誇る接客やサービス業の質の高さで、世界のファッション産業と人々に貢献する

ーー現在の注力テーマもうかがえますか?

加福真介:
ファッション業界は過渡期にあるため、新しい事業をつくっていく必要があります。経営幹部をはじめ、各事業をリードしてくれる人をグループ全体で募り、いかにたくさん育てていけるかを意識しています。

また、社員たちがやりがいを持って働けるように、生産性や昇給率のアップを目的としたDX推進や、既存制度のアップデートも進めていきます。働く環境や制度の改善については、なるべく現場に近い社員が意思決定できるように、グループ社員たちが運営する「ワールド・モード元気プロジェクト」を中心に進行中です。

さらに、社内で起業する社員に出資するなど、キャリア形成の支援にも注力していきます。国内外の拠点や部門間で異動しながら、グループ内で横断的にキャリアをつくっていける仕組みを築き上げたいです。そして、社員全員による、社員全員のための経営、全員経営の会社でありたいと思っています。

ーー今後の展望をお聞かせください。

加福真介:
人口の減少にともない、日本は洋服の消費も労働力も減っていくことでしょう。今後は必然的に世界に目を向けて、インバウンドのお客様を多く取り込むほか、海外市場も開拓していきたいと思います。日本が誇るクオリティの高いものづくりや、サービスを輸出していくことで、世界中のファッション市場に貢献していきたいですね。

展開に特に力を入れているアジア地域のファッション市場は、伸びしろがあるものの、ラグジュアリーマーケットはとても小さい状態です。富裕層の観光客は世界中を飛び回っているので、この先はあらゆる国で接客の質を高めていくと考えられます。

製品だけでなく、日本の接客レベルは非常に高く、世界に誇れるものの一つです。そこで、海外で採用した人材が日本で就業し、店頭で働きながら接客スキルを身に付け、帰国後は現地で活躍してもらうエコシステムを構築しています。

海外拠点を持つ日本のクライアントはもちろん、日本の文化・おもてなしを取り入れたい現地のクライアントも増えていて、両国にとってプラスになるシステムだと言えます。海外の方が日本のさまざまなブランドで経験を積んだのち、現地のラグジュアリー市場を牽引できるようになれば、その国はより豊かになるのではないでしょうか。

ーー読者の方や、共に働きたいと思う方へメッセージをお願いします。

加福真介:
ワールド・モード・ホールディングスをつくったきっかけである、「世界のファッション産業を盛り上げて、世界中の人を幸せにしていく」というビジョンが、少しずつながら形になりつつあります。この軸を守ることで、事業を拡大し、社員のキャリアを広げ、そして業界の発展を支えていくことができると考えています。

「note」でサステナブルに対する思いや、会社の経営ビジョンを発信しているので、ぜひそちらもご覧ください。ファッション業界の未来は明るいです。「ファッションを通じて世界を豊かにしていきたい」と思っている方は、私たちと一緒に業界を盛り上げていきましょう。

編集後記

「父の仕事を手伝いたい」という思いでファッション業界に入り、今では世界に目を向けた活動で業界に新しい風を吹かせている加福氏。その高い行動力と使命感、目の前にいる社員や顧客を裏切らない姿勢が有力者の心を動かし、グループは強化されていった。経営者が正しい行いと人の縁を大切にすることで、事業の輪が拡大していく素晴らしい事例と言える。

加福真介/1977年生まれ。同志社大学を卒業後、大手ITソリューション会社で営業担当として従事。2003年に父が創業した株式会社iDAへ入社。現場の営業、営業本部長などを経験し、2008年に代表取締役に就任。2012年、ワールド・モード・ホールディングス株式会社を設立し、代表取締役に就任。現在は国内に27拠点、海外5ヵ国に拠点を有し事業を展開している。