
社員の半数以上が外国籍という多様性に富んだ環境があり、訪日旅行のランドオペレーターとして、約5年で売上を10倍に伸ばしたという株式会社ティ・エ・エス。同社は各国の現地文化を熟知した社員による丁寧なコミュニケーションと、きめ細やかなツアーマネジメントで顧客満足を追求している。2025年からは地方創生にも力を入れ、新たなステージへの挑戦を始める同社の代表取締役、友瀬貴也氏に話をうかがった。
留学で芽生えた「人の役に立ちたい」という思い
ーー貴社に入社される前はどのようなご経験をされましたか?
友瀬貴也:
高校1年生の頃は先生から「早慶等の難関大学への進学も十分可能だろう」と期待されていました。しかし、学業以外のことに夢中になってしまい、高校3年生の夏には「このままでは進学すら厳しい」と言われるようになりました。そこで考えたのが留学です。当時は英語を話せる人が少なかったので、英語ができたらかっこいいと思い、アメリカへの留学を決意しました。
現地に着いたときは挨拶しか言えない状態でしたが、タクシーの運転手さんや寮のスタッフなど、多くの人が助けてくれました。その経験から「人の役に立ちたい」という思いが芽生えたのです。その後、大学ではコンピュータサイエンスと写真を専攻し、卒業後に帰国してからは広告代理店やライブドア、ドリコムなどで働きました。
ーー貴社への入社から経営を引き継ぐまでの経緯をお聞かせください。
友瀬貴也:
27歳のとき、起業を考えていた私に、弊社の創業者である父が「オフィスを使わないか」と声をかけてくれたことがきっかけです。起業準備のためにオフィスを間借りしていましたが、父から弊社の海外展開について相談を受けるようになり、自然と会社に関わっていき、2007年に弊社へ入社しました。
入社当初はITの方が面白いと感じていましたが、インド人観光客のツアーに同行したときのお客様の喜ぶ姿を見て、「これはいいことをしている事業だ」と感じました。お客様と接する中で、異文化交流の醍醐味や人々に喜びを届けられる魅力に気づいたのです。
その後、2010年に父が他界し、経営を引き継ぐことになりました。知識も経験もない状態にもかかわらず、取引先のホテルやバス会社の方々が親身になって教えてくださり、社長に就任してからの1年間は、朝から深夜まで毎日会社に通って勉強する日々でした。多くの方々の支えがあったからこそ、今があると感謝しています。
現地文化への理解が生み出す質の高いサービス

ーー貴社の事業内容について教えてください。
友瀬貴也:
弊社は訪日団体旅行のランドオペレーター(※)としてBtoBビジネスを展開しており、海外の旅行会社が販売する日本ツアーの運営を請け負っています。具体的には、ホテルやガイド、レストラン、バス、観光施設などの入場券の手配など、日本に到着してから出国するまでの全てをケアします。
弊社の社員の約半数が外国籍で、ブラジルやイタリア、ベトナムなど10か国の異なる国籍の社員が在籍していることが特徴です。特に海外のお客様は電話でのコミュニケーションを好む傾向があり、メールだけでは完結しない案件も多くあります。そのため、お客様の国の文化などに精通し、多言語に対応できる社員たちの存在は大きな強みといえます。
ーー事業を拡大していく中で、どのようなことを意識していましたか?
友瀬貴也:
弊社を継いだ当初、海外拠点は東京とマレーシア・クアラルンプールのみでした。しかし、各国の文化や価値観の違いを重視し、シンガポールを皮切りに、タイ、インドネシア、ベトナムへと拠点を拡大していきました。現地のスタッフが直接対応することで、よりローカライズされた質の高いサービスを提供できると考えた結果です。
また、オンライン予約サイトの普及により個人旅行が増える一方、欧米からのシニア層や家族連れといったお客様にとっては、ランドオペレーター(※)の需要が依然として根強いと見ています。特に、時差や言語の壁がある日本旅行においては、弊社のような現地の専門家が提供する安心・安全なサポートが求められています。こうしたニーズを的確に捉え、さらなる事業拡大につなげていきたいと考えています。
(※)ランドオペレーター:旅行業者から依頼を受け、宿泊施設や移動手段、ガイドなどを手配する会社のこと。
地方創生とグローバル展開で切りひらく観光の未来
ーー今後はどのような部分に注力されますか?
友瀬貴也:
地方創生に大きな可能性を感じています。日本の地方には素晴らしい観光資源が数多くありますが、まだ十分に活かされていない状況です。団体旅行は定番のコースを回るものが多いのですが、私が仕事で地方を回っていると「素晴らしい観光資源があるのに、なぜここを訪れる人が少ないのだろう」と感じることが多くあります。
その解決策の一つとして、2025年3月に広島県でレストランをオープンいたしました。また、2025年中にさらに3店舗ほどレストランや体験施設のオープンを計画しております。この取り組みを皮切りに、地域の魅力を引き出すための飲食店や宿泊施設の運営など、観光に関わる事業を多角的に展開していきたいと考えています。東京一極集中ではなく、日本全体を盛り上げていく取り組みを進めていきます。
ーー将来的にどのような企業像を描いていらっしゃいますか?
友瀬貴也:
まずは日本において、訪日旅行のリーディングカンパニーになることを目指しています。そして最終的には、アジアを代表する総合旅行会社になることを目標としているので、現在6か国にある拠点を、今後はさらに増やしていく予定です。
その実現に向け、各社員には大きな権限を持たせ、新しいことへのチャレンジを推奨しています。失敗を恐れず、常に新しい価値を生み出し続けることが、「ティ・エ・エス」という名前を世界的なブランドに育てていくのに欠かせないと思うのです。地方創生という視点も大切にしながら、世界中の旅行者に最高の思い出を届けられる企業をつくっていきます。
編集後記
留学経験で培われた異文化への敬意、現地スタッフとの対話から得られる多様な視点、そして日本各地を巡る中で感じた地方の可能性。同社はこれらを組み合わせることで、新たな観光の形を生み出そうとしている。友瀬社長が語る言葉の一つひとつに、世界と日本をつなぐ架け橋となる覚悟と自信が垣間見えた。

友瀬貴也/1980年、神奈川県生まれ。2003年、米・University of Massachusetts Bostonを卒業後、株式会社ライブドアに入社。その後、株式会社ドリコムを経て、2007年に株式会社ティ・エ・エスに入社。2010年、代表取締役に就任。