※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

建設業の重要性は年々高まっている。インフラ整備や災害復旧で人々の生活を守るために不可欠だからだ。しかし、3K(きつい、汚い、危険)のイメージがある建設業界では人手不足や高齢化が深刻で、人材確保と生産性向上が課題となっている。そんな中、社員数と売上高をともに伸ばしているのがアイアール株式会社だ。創業者から経営を引き継いだ新社長が、会社の成長期を乗り越えるために重要視したことは何だったのか。スタッフ一人あたりの採用単価を大幅に抑えることに成功した秘訣と就任後の取り組みについて話を聞いた。

創業期から成長期へと変革する際に直面する課題と対策

ーーアイアールの社長に就任した経緯について聞かせてください。

大山竜吾:
元々私は公認会計士の資格を取得して監査法人に勤めた後、投資ファンドで多くの企業のターンアラウンドを担当しました。その経験を活かして、事業継承を進めていたCSS技術開発という工事測量会社で社長を任されていたときに、アイアールの創業者と知り合い、親交を深める中で社長就任を打診されました。

アイアールは2015年に創業された、建設会社向けに技術者を派遣する会社で、その当時は企業の成長期に伴う課題を数多く抱えていました。それでも外から見ていて雰囲気の良い会社で、社員も組織もとても若く、彼らと一緒に経営課題を解決したいと思い、2022年に社長に就任しました。

ーー社長就任後の特に印象深い出来事や、ターニングポイントとなったきっかけを教えてください。

大山竜吾:
社長になって1年後に、創業期から勤めてきた専務が独立したことでしょうか。彼は突然外からやってきて経営者になった私のことをずっと支えてくれましたし、先頭に立って長く会社を引っ張ってきた存在だったので、彼が会社を去ることで社員が動揺するのではないかと心配しました。会社の成長期にコアメンバーが離脱することは、しばしば起きることですが、少なくない混乱を伴うものです。しかし、結果的には大きな混乱もなく、前に進むことができました。その専務が最後に「自分はアイアールで夢を叶えることができた」と皆に言ってくれたことも大きかったかもしれません。

この出来事は、私にとっても一つの大きな転換点となりました。専務に感謝しつつも、私自身が社長になってから、社員とのコミュニケーションを積極的に行ってきた取り組みが社員に受け入れられ、以前よりも安心して仕事に集中してもらえているということに気づいたのです。それは私自身にとっても大きな意味を持ちました。

フルコミットによる人材確保と育成で業界トップを目指す

ーー社長就任後の取り組みの中で、特に独自性のあるものを教えていただけますか?

大山竜吾:
一般的な派遣業界では、派遣社員をキャリアやスキルというスペックのみで捉えがちですが、私たちは派遣社員にフルコミット、つまり、全人的な存在として接し、派遣社員中心の組織作りを行ってきました。会社と派遣社員、そして派遣社員同士の結びつきを大切にし、特に弊社の従業員への発信とコミュニケーションにも力を注いでいます。

その一貫として、毎年「アイアール大会」という社内イベントを行っています。全国各地の会場に内勤と派遣社員が集まって親睦を図るとともに、私から会社の業績や方針を直接伝えています。お金も人手もかかりますが、トップ自らが派遣社員一人ひとりに会社が目指すところを伝えることで、組織全体に好循環が生まれます。前回は派遣社員の参加率が50%に達しました。これは業界でも異例の高い参加率で、今期は規模を拡大し、半年かけて全国11か所でも開催する予定です。

また、トップと現場の距離が近いのも特徴でしょうか。毎月数十人の社員が入社しますが、可能な限り全員の顔と名前を覚えるようにしています。社員全員に社用スマホを貸与し、社内の誰とでもチャットで連絡し合える環境も整え、私も現場の社員と毎日のように連絡を取り合っています。

効率的な採用と高い社員満足度で実現する人材確保

ーーアイアールの強みについてお聞かせください。

大山竜吾:
弊社の強みのひとつは、派遣社員1人あたりの採用単価が他社に比べて各段に安いことです。派遣会社にとって社員の採用は成長に欠かすことができません。建設業界は人材不足と言われていますが、年間550人だった採用数が、昨期は850人を超えました。それを達成できたのは、派遣スタッフの採用戦略の成功や、面談者のスキルアップ、社内イベントの開催など、多岐にわたる取り組みの成果ではありますが、会社の考えを直接社員にも伝え続けてきた結果と考えています。

社長が自らの考えを発信し続けることで、社内の目標が同じ方向を目指し、会社全体の意識がスピーディーに変わっていく。一人ひとりが会社の現在地や目指すべき理念を理解しているからこそ、新しい取り組みに対する社員の理解が早い。それこそがアイアールの強みだと私は体感しています。

建設業を人気業種に育てるための未来へのビジョン

ーー今後の課題についてどのようにお考えですか?

大山竜吾:
派遣先から聞かれることがあるんです。「どうしてアイアールの派遣社員はこんなにいい子が多いの」と。それは業界にはびこる派遣社員を「在庫」として扱うようなやり方ではなく、彼らが主役となって活躍できるようにしてきたことで、安心して、やりがいを持って働けているからだと思います。

とはいえ、理想と現実の間には大きなギャップがあります。派遣会社である以上、私たちだけが理想を追っていてもダメで、建設業界全体を変えていく必要があります。

そのためには弊社がもっともっと存在感をを高めていかなければなりません。「建設業を人気業種にする」というビジョンを私たちは本気で目指していますが、建設業界全体が技術者を主役にしなければ実現できません。私たちが目指す理念に共鳴してくれる現場の方たちを大切にしたい。そのために、理念を正しく理解し、自分の言葉で広めることのできる社員を育成しなければならない、という意識を強く持っています。

編集後記

社長が常に社員に目を向け、何よりも社員との直接的なコミュニケーションを大切にしていることが印象的である。それにより会社の理念が深く速く社員に浸透し、安定した技術者の人材確保と社員のパフォーマンス向上につながっている。さらに、社員一人ひとりの夢を尊重し、組織の枠を超えて成長を促す姿勢は、他の企業にとっても大いに参考になるだろう。大山社長のリーダーシップと熱意が、建設業界全体に良い影響を与えることは間違いない。将来的には、建設業界のコンサルティング的な役割も担い、さらなる飛躍を遂げることが期待される。アイアール株式会社の今後の発展に大いに期待したい。

大山竜吾/1976年、東京都出身。東京大学経済学部卒業後、公認会計士資格を取得し、有限責任監査法人トーマツに入社。転職したフェニックス・キャピタル株式会社(現エンデバー・ユナイテッド株式会社)を通じて、数多くの企業再生を担う。その後、プロ経営者としてのキャリアをスタートさせ、2016年には株式会社CSS技術開発の代表取締役社長に就任。2022年、アイアール株式会社の代表取締役となり、広範な経験と専門知識をもとに企業成長を牽引している。