訪日外国人向けにWi-Fiレンタル事業や旅行のサポート事業を展開する株式会社インバウンドプラットフォーム。旅行事業を手がける株式会社エアトリのグループ会社として、2023年に東京証券取引所グロース市場に上場。飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長している理由と今後の展望について、代表取締役社長の王伸氏にうかがった。
起業を夢見てキャリアチェンジ。上場と事業拡大を経験して経営者に
ーー社長に就任するまでの経緯についてお聞かせください。
王伸:
自分自身、海外にルーツがあるので、海外関連の仕事に興味があり、中国語や英語が活かせる仕事をしたいと思っていました。大学卒業後、移転価格のコンサルティングをしている会社に就職し、大手企業やナショナルカンパニーを相手に、いろいろなプロジェクトを経験しました。
入社して4~5年経った頃に「自分でも事業をやってみたい!」「起業してみたい!」という思いが強くなり、いろいろ模索するようになりました。学生時代にベンチャーキャピタルでアルバイトをしていて、当時の上司にも相談してみたところ、IPOの準備をしている会社があるからと紹介していただいて、株式会社エボラブルアジア(現エアトリ)に転職しました。
ーー転職後はどのような仕事に携わったのですか?
王伸:
最初の2、3年はひたすらIPOの準備に追われていましたね。当時は1人だったので非常に大変で、不安でした。その後、エアトリの現社長が入社し、そこから2人で進めて2016年に上場を果たしました。その後も自分で事業をやりたいという思いは変わらなかったので、取締役COOに就任して、上場後の事業推進、新規事業の立ち上げ、グループ全体の業務統括を担当することになりました。
ーー貴社を立ち上げるまでの経緯を教えてください。
王伸:
もともと弊社はさまざまな事業を統合・合併してできた会社です。最初にエアトリでキャンピングカーを扱う会社をM&Aし、私が事業を管掌しました。その後、レンタルWi-Fiを提供している会社とM&Aをしたり、両替の事業を立ち上げたりして拡大しました。事業が徐々に大きくなってきたので、統合して一元管理したほうがいいのではという話になり、インバウンドプラットフォームを設立することになりました。
コロナ禍の逆風でも国内をターゲットに新規事業を展開
ーー現在、貴社では主にどのような事業を展開されていますか?
王伸:
弊社は、モバイルネットワーク事業、ライフメディアテック事業、キャンピングカー事業の3事業を展開しています。一番大きな柱は、ポケットWi-FiのレンタルやeSIM(イーシム)を提供するモバイルネットワーク事業です。「Japan Wireless」という訪日外国人向けと、日本人向けの「グロモバ」という2つのブランドを持っています。「Japan Wireless」は、全世界からWeb経由で予約でき、お客さまが日本の空港やホテルなどでレンタルWi-Fiの端末を受け取ってご利用いただけます。eSIMでは日本滞在中にインターネットが使える環境を提供しています。
ライフメディアテック事業では、情報発信や医療・不動産などの生活サポートを行うライフテック事業と、現在注力しているモビリティテック事業を展開しており、新幹線やバス、レンタカー、ハイヤーなど、訪日外国人が安心して移動手段を利用できるよう、サービスの幅と品質を高める取り組みを進めております。
ーー日本人向けにもレンタルWi-Fiを提供しているということですが、どのような需要がありますか?
王伸:
2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大して、訪日外国人向けのサービスの業績が大きく悪化しました。ちょうどその頃、弊社では日本国内向けのレンタルWi-Fiの事業を展開している株式会社グローバルモバイルのM&A案件が進んでいました。グローバルモバイルに関しては最初は海外旅行向けのWi-Fiレンタルがメインでしたが、リモートワークが普及したため、国内に住む方に対してもレンタルWi-Fiの需要が高まるのではないかと考え、グロモバは国内に特化しました。
「また日本に来たい!」と願う訪日外国人と日本社会の架け橋に
ーー貴社の強みは何ですか。
王伸:
訪日外国人の幅広いお困りごとをサポートし、多言語での対応、精緻なマーケティング戦略がとれているという点ですね。
これまでご説明したとおり、弊社ではキャンピングカーのレンタルやWi-Fiのレンタル、交通機関への取次サポートなど、幅広い分野で訪日外国人向けのサービスを提供してきました。Wi-Fiのレンタルのみ、交通機関の取次のみというように、単一のサービスを行っている企業はありますが、弊社のように幅広い分野を網羅している会社は珍しいと思います。
また、弊社ではさまざまな国籍のスタッフが在籍しています。Webサイトやコールセンターは7言語以上に対応しているので、多くの国の方に対して日本国内での旅行やビジネスをサポートできるのも強みです。
加えて、さまざまなバックグラウンドを持ったスタッフが数多くいるので、幅広いサービスで培われたノウハウを持っています。海外向けのマーケティング戦略やデザイン、サイト制作などがスムーズにできるのも弊社ならではの特色ですね。
ーー最後に今後の貴社の展望についてお聞かせください。
王伸:
やはり日本にいらっしゃる外国人の方に「日本に来て良かった!」「また日本に来たい!」とご満足いただけるようなサービスを提供していきたいと考えています。旅行や暮らしに関する幅広い分野をカバーしていきたいですね。
また、最近ではオーバーツーリズムの問題も顕在化しています。そこで、地方自治体とも連携して、日本のルールやマナーを啓発するといった取り組みを行っています。訪日外国人が楽しめるのと同時に、日本の方も気持ちよく受け入れられるような社会が実現できるよう、微力ながら一助を担いたいですね。
編集後記
コロナ禍という逆風に見舞われながらも、インバウンド需要拡大の波に乗り続け、着実に事業を拡大してきたインバウンドプラットフォーム。王社長のアグレッシブな姿勢と、多様なバックグラウンドを持つスタッフがそれぞれの強みを活かした組織力があるからこそ、急成長を実現しているのだと実感した。今後、同社がどのようなサービスを展開し、それによってグローバル時代の日本社会がどのように変革していくのか、注目していきたい。
王伸/1987年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業後、税理士法人トーマツおよびKPMG税理士法人にてコンサルティング事業に従事。2014年に株式会社エボラブルアジア(現:株式会社エアトリ)入社、経営企画室室長、執行役員、取締役COOを歴任。2018年、株式会社インバウンドプラットフォームの代表取締役社長に就任。2023年、東証グロース市場に上場。