※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

グループ会社向けの連結会計システムの運用サポートというニッチな市場からスタートし、業界内で確固たる地位を築いてきた株式会社インプレス。設立当初から高度な専門性を武器に成長を続け、現在も連結会計分野に強みを持ちながら、さらなる事業拡大を目指している。

また、事業のもう一つの柱として、企業の現場で広く使われるExcel作業の効率化に特化した革新的なシステムを開発・提供し、幅広いニーズに応えている。同社の代表取締役社長である江澤章氏に、サービス開発の背景、事業成長の戦略、そして未来への展望について詳しく話をうかがった。

キャリアのすべてを込めた挑戦。会社と家庭を支える男の物語

ーー設立の経緯を教えてください。

江澤章:
1972年にシステムエンジニアリングを手がけるコンピューターサービス株式会社(現:SCSK株式会社)に入社しました。営業職などを経験し、その後は管理部門で責任者を務め、30歳ごろには1000名規模の新入社員教育を任されたことが強く印象に残っていますね。経験が浅い社員にも大きな仕事を任せる姿勢は、弊社の運営方針にも受け継がれています。

SCSKを退職後は、いくつかの企業でさらなる経験を積みました。もともと起業したいという思いはありましたが、当時はバブル崩壊の影響もあり、長い間行動に移すことができませんでした。しかし、社会復興の見通しが立たない中で、就職先の減少を予測したことから、これまでの経験を活かして独立しようと考え、1995年に株式会社インプレスを設立したのです。

ーー設立後、最も苦労したのはいつですか?

江澤章:
設立から10年ほど経った頃、配偶者が他界しました。それまでは2人いた子どもの学校行事に顔を出すこともなく、料理も全く経験がありませんでしたが、その出来事をきっかけに、学校との連絡や食事の準備を含め、家庭内のあらゆることに対応せざるを得なくなりました。

家庭と会社の両立を迫られた最も大変な時期だったと思います。それでも、社員や近所の方々に多くの支えをいただき、何とか乗り越えることができました。

連結会計サポートから、汎用性の高いExcelに着目

ーー貴社の主な事業内容について教えてください。

江澤章:
弊社は、連結会計ソリューションクラウドサービス「iCAS(アイキャス)」とその発展版である「連結DXパッケージ」、さらにExcel作業を効率化するクラウドサービス「iFUSION(アイフュージョン)」を主力製品として展開しています。これに加え、付随サービスとして会計カウンセリングサービスも提供しています。

設立当初は、SI(システムの開発から保守運用まで一貫して行うサービス)を提供する競合が多く、差別化が必要だと感じていました。そこで、2001年のアメリカでの巨額不正会計事件「エンロン事件」と、それに続く日本での会計関連法改正を受け、特に連結会計に特化したパッケージを導入し、これをカスタマイズしてシステムを開発・販売することにしました。これが「iCAS」の始まりです。

システムの導入には運用サポートが欠かせないため、同時に会計コンサルティングサービスもスタートしました。「iFUSION」は2017年にサービス提供を開始し、総務省後援の「ASPICクラウドアワード」で3年連続DX貢献賞を受賞しています。現在、東京都内の大手企業を中心に、業種を問わず幅広い企業に導入いただいているシステムです。

ーーそれぞれの製品について詳しく教えてください。

江澤章:
「iCAS」は、各子会社の決算情報を収集し、連結財務諸表を作成できるクラウドサービスです。以前はWEBシステムを利用して情報を収集していましたが、現在ではクラウド上での収集が可能となり、より効率的に運用できるようになっています。

「iFUSION」は、Excelのフォーマットをファイル共有するだけではなく、クラウド経由で扱えるサービスです。たとえば、Excelのマクロを組む必要がある集計作業を、簡単な操作で実行できる機能を備えています。マクロを使える担当者が退職した際にフォーマットが使えなくなるといった属人化リスクを軽減できる点が大きな強みです。

また、オプションの分析ツールを活用すれば、ドラッグ&ドロップでデータベースに接続し、直感的にデータ分析することが可能です。一般的な分析ツールは高額な場合が多いのですが、弊社のツールはExcelのアドオン機能をベースにしているため、コストを抑えて提供できます。「iFUSION」は会計にとどまらず、幅広い業務で使えるため、連結会計パッケージよりも多くの顧客層に導入していただいています。企業の業務効率化を支えるツールとして、幅広い業種でご活用いただける点が特徴です。

ーー事業モデルの強みは何ですか?

江澤章:
弊社では、開発とネットワーク運営といったマンパワーが必要な分野を「ベース事業」と位置づけており、この部分は売上の多くを支えていますが、人件費がかさむため、利益率が比較的低いのが特徴です。そのため「iFUSION」や「iCAS」といった利益率の高い製品パッケージ事業を展開し、全体の収益を安定させています。これらの製品は主にクラウド上で月額制として提供し、1社あたりの月額料金は低めですが、多数の企業に導入していただくことでしっかりと利益を確保できています。

同様のビジネスモデルを構築している企業は他にもありますが、弊社は特にパッケージ導入数の多さが強みだと考えています。この点が市場競争力を高め、事業の成長を支える原動力となっているのです。

社員の可能性を広げる理念と海外展開に向けた展望

ーー貴社の理念や、社員に伝えていることを教えてください。

江澤章:
弊社は「技術の前に人ありき」という経営方針を掲げています。まず人としての在り方を大切にし、その上で技術を身に付けるべきだという考えからです。私の役割は、この理念を組織全体に浸透させ、次の世代に引き継ぐこと。新入社員には必ずフィロソフィー教育を行い、最近では「ジュニアボード制」も導入しました。これは若手や中堅社員が経営課題に対して提言を行う制度で、主体性とリーダーシップを養うことを目的としています。

また、社員には「チャレンジャーになりなさい」と常に伝えています。人には無限の可能性があり、狭い枠の中だけで挑戦するかどうかを決めるのは非常にもったいないことです。たとえ失敗しても成功しても、そこから何を学び、成長していくかが重要だと考えています。

ーー今後の展開について、どのような計画がありますか?

江澤章:
東南アジア市場への進出を視野に入れています。毎年10月にシンガポールで開催されるCloud Expo Asiaには、選抜した十数名の社員を引き連れて参加し、iFUSIONのプロモーション活動と市場ニーズの調査を行っています。ただし、現地に支店を設立する予定はなく、導入後の問い合わせができる限り発生しないように、より直感的で使いやすいツールの開発を進めています。

特に、AIを活用した支援ツールの組み込みに注力しており、2024年にはAI搭載パッケージの試験出展も行いました。販売開始については、AIの精度が満足できる水準に達したタイミングで本格展開する予定です。

編集後記

「もう、おじいちゃんです」と場を和ませる江澤社長。経営者として経験を積んできたからこその落ち着きがありながら、周囲の空気を敏感に感じとっての適度な茶目っ気も兼ね備えている。インタビューでは語られていない、陰の努力や取り組みも多くあるのだろうと想像させられる。

今後展開を目指す東南アジア市場でも、江澤社長の鋭敏な感覚と綿密な計画があれば、成功を収められるに違いない。「世界のiFUSION」になるとき、株式会社インプレスはその先をどのように見据えているだろうか。同社の今後の展開に期待が募る。

江澤章/1952年、神奈川県生まれ。1972年、コンピュータサービス株式会社(現:株式会社SCSK)に入社後、業務管理部門長などを歴任。長年のIT業界での経験とノウハウを活かし、1995年に株式会社インプレスを設立。