※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

創業以来、愛知県名古屋市を拠点に靴下の製造・卸売事業を手がけてきた株式会社東京足袋本舗。同社は70年を超える歴史で培った技術力と信頼を武器に、OEM生産から自社ブランドを開発するまでに発展を遂げてきた。

「あすの一歩を創造する」というキーワードを掲げ、企画から商品供給までをすべて一貫して行う同社は、足を支える「靴下」という製品を通じて人々の暮らしに貢献したいという思いを胸に、次なる成長ステージを見据えている。社会に貢献するサービスの在り方に向き合う同社の取り組みについて、代表取締役社長の安藤弘氏に話をうかがった。

新規開拓でつかんだ成長の糸口

ーー同族経営の会社ということですが、いずれ会社を継ごうと考えていたのですか?

安藤弘:
子どものころから創業者である祖父や父の仕事ぶりを見て育ったので、「いずれは私が会社を継ぐのだろう」という気持ちはありました。ただ、自社に入社する前に社会を経験すべきだと考え、最初は広告業界に営業職として就職しました。

その後、更に営業として難易度が高い業界に身を置きたいと考え、不動産業界に転職することにしましたが、その会社では営業として全国で2位の成績を上げて管理職を任されるまでになりました。営業からマネージメントまで多くの経験をさせていただきましたが、家業を継ぐために不動産会社を退職し現在に至ります。

ーー入社後はどのような苦労がありましたか?

安藤弘:
入社当時の弊社は取引先が少なく社員も多かったため、これといった仕事が無く、自分自身で仕事を見つけなくてはならない状態でした。まずは会社の事を理解するために、多くの事に携わろうと考え、見えている作業は全てやってみようと思いました。いろいろと理解する中で、自分が会社に一番貢献できるのは営業だと考え、自ら新規営業をすることにしました。

ただ、当時の弊社はOEM(※)で受託する案件が中心で自社の開発商品が無く、商品を企画したり、商品調達する人材もなく、営業部などもありませんでした。私自身、入社間もなかったため、特に業界や商品に詳しいわけではなく、新規営業も自社商品が無い中で、自ら考えてやらなければならなかったのでとても苦労した思いがあります。

営業職としての今までの経験があってか、何とか新規お客さまとお取引をいただくことができ、最初はお客さまに関わることを全て自分で行っていたのですが、お取引が増えていくにつれて、必要な企画部や商品部、又営業部を作っていきました。組織を一から作っていった感じですね。

(※)OEM(Original Equipment Manufacturing):委託を受けて他社ブランドの製品を製造すること

サービスの本質と向き合った商品開発

ーーコロナショックの時期をどのように乗り越えましたか?

安藤弘:
新型コロナウイルスが流行し始めた2020年は、外出規制などがされ、多くの業界が苦境に立たされました。靴下業界も例外ではありませんでした。その時期に私は在宅ワークをしていたのですが、自分一人の時間で今後の会社や社員のことをいろいろと考えましたね。

当時はコロナによってマスクの需要が一気に増え、世の中からマスクが消えてなくなる現象が連日ニュースで流れていました。最初は何か貢献できないかとの思いから、近しい方々にマスクの配布を考えましたが、世の中にいち早くマスクを届けるべきだと考え、自社でマスクの企画をすると、それが2か月で10億円売り上げることができました。このコロナの時期に、世の中に必要とされているものを、いち早く供給する事が商売の大事さだと本当の意味で学びましたね。翌年の2021年に、私が代表取締役社長に就任しました。

ーー改めて貴社の事業について教えてください。

安藤弘:
弊社は、靴下の企画から販売を手がける会社です。創業以来、大手量販店向けのOEM生産で信頼を築いてきましたが、近年は独自の商品開発に力を入れ、サービスの本質的な部分を追求して商品を開発しております。

商売とはそもそも価値を提供して、その対価としてお客さまからお金を頂戴するものです。現在のアパレル市場は、類似した商品の供給が多いことで価格競争が激化しており、お客さまが消去法で商品を選んでいる様相が見受けられます。弊社はお客さまに「これがいい!」と思ってもらえるような商品を追求し、提供することがサービスの本質だと考えています。本質を見据えたサービスのあり方を踏まえて、商品開発を続けていきたいですね。

社会貢献を軸に成長を目指す

ーー今後は会社をどのように成長させていきたいですか?

安藤弘:
現在の弊社は、社内改革に特に力を入れています。社内のすべての業務において、先を見据えたときに価値が上がらないのであれば業務内容を変更しています。「継続は力なり」といいますが、大事なのは「何を継続していくのか」だと思います。

また現在、すべての部署の業務を棚卸しして、生産性の向上に全体で取り組んでいっています。弊社は部分的なDXではなく、会社全体の構造的な部分においてのDX化を計画中です。より従業員が価値の高い仕事をすべきだと思っており、それが働く楽しさにつながり、人に喜んでもらえることにつながると思っております。私どもの会社及び従業員が、より世の中に貢献できることが、会社を存続させる価値なんだと考えています。

2、3年後には、より競争力のある商品及びサービスを提供していく予定です。業界の常識に囚われず、お客さまをより豊かに、より喜んで頂けるよう、会社全員で邁進していきたいと思います。そして我々の業界に有能な若者が入ってくるようにしたいですね。

編集後記

安藤社長の言葉には、商売の本質を見据える確かな眼差しが感じられた。「売れれば良い」という発想ではなく、エンドユーザーにとっての本当の価値を追求する。その姿勢は、新規開拓時代の苦労や、コロナ禍での決断など、さまざまな経験を経て培われたものなのだろう。常に進化を続ける同社の強さは、社長の明確なビジョンと、それに共感する社員の存在にある。次なる成長への布石は、既に打たれているようだ。

安藤弘/1977年、名古屋市生まれ。広告業界、不動産業界にて営業および営業統括を約6年経験し、2007年、株式会社東京足袋本舗へ入社。物流、営業、企画管理、商品調達を経験し、2012年に営業・企画本部長に就任。2016年、専務取締役兼営業・商品統括部長に就任。2021年、代表取締役社長に就任。同時期に株式会社アンブロス代表取締役社長に就任。