
株式会社ラプレは、大阪を中心に企業のPRや広報支援を行う会社だ。代表取締役の上谷信幸氏が、大学時代に立ち上げたイベントサークルを関西最大規模にまで成長させた経験を活かし、2002年に創業した。
リーマン・ショックを契機にイベント事業からPR事業へと大胆にシフトし、現在は中小企業の広報支援を柱とした事業を展開している同社は、数々のヒット企画を生み出し、その革新的な発想と経営哲学は、業界内外で大きな注目を集めている。今回は、上谷社長のこれまでの軌跡や成功の秘訣、そして今後の展望について詳しくうかがった。
学生時代のサークルで築いたPR事業の原点
ーー事業を始めた経緯について教えてください。
上谷信幸:
大学1年生の時、既存のサークル活動に物足りなさを感じ、「自分で新しいものをつくった方が面白い」と考えたことがきっかけです。最初は小さな集まりでしたが、イベントを成功させるたびに口コミで広がり、最終的には会員数が3000人規模にまで成長しました。
特に、出版社主催のサークルコンテストで優勝し、「関西で一番入りたいサークル」として注目されたことが大きな転機となりましたね。メディアから頻繁に取材を受けた経験が、私のPR事業の原点です。「どうすれば注目を集められるか」「何が話題になるか」を自然に学び、それが現在の事業にもつながっています。
ーー運営するうえで、大事にしていた方針はなんですか?
上谷信幸:
当時、サークルによる不健全な活動が社会問題になっていました。そのため、私たちのサークルでは「健全さ」を徹底的に追求する方針を掲げました。サークルスタッフは、メンバーとの恋愛禁止のルールを設けたことで、純粋にイベントを楽しむ場として信頼を得ることができ、結果として大学や企業だけでなく、マスコミからも高い評価を受け、取材の依頼が後を絶ちませんでした。
苦境から立ち上がり、発想の転換で見えた光明

ーー大学卒業後はどのような経緯で起業しましたか?
上谷信幸:
卒業後、一度商社に就職したものの、自分には合わないと実感して退職しました。その後の約6年間はネットのアフィリエイトなどで生活費を賄う日々でした。しかし、結婚を機に「そろそろちゃんとしなければ」という思いから、2002年に会社を立ち上げました。当初はイベントプロデュース業が中心でしたが、リーマン・ショックで業界が大きな打撃を受けたのを影響に、PR事業への方向転換を図ったのです。
ーーPR事業へシフトする際、どのような戦略を立てましたか?
上谷信幸:
取材される立場から、「取材してもらいたい企業を紹介する側」へと発想を転換させたことが始まりでした。常に面白いネタを求めているテレビ局や新聞社に対して、「こういう企業があります」と提案し、ニュースや特集として取り上げてもらう仕組みを構築したのです。企業側にとっては取材されるだけで大きな価値があるため、その点を活かしてビジネスモデルを確立し、結果としてPR会社としての確固たるポジションを築くことができました。
トップダウン型の組織運営と事業成功の理由
ーー組織運営についてのこだわりを教えてください。
上谷信幸:
弊社の組織運営は、私が責任を取ってのトップダウン型を徹底しており、仲間と夢を語り合うスタイルではなく、明確な指示を出し、それを社員が着実に形にするという手法を採用しています。その一方で、給与やボーナスは業界水準以上に設定し、外出時にパソコンで仕事ができるように、スターバックスの飲み物を、月5000円まで自由に利用できる福利厚生制度や、7時間勤務でOKなど、柔軟な勤務時間の導入など、社員が自由に好きな場所で働けるリモート環境を整備しています。このような取り組みによって、効率的に成果を上げると同時に、社員の満足度も高める体制を構築できていると思います。
ーーPR事業において、重要な「企画」を考えるうえで大切にしていることは何ですか?
上谷信幸:
企画を考える際には、まず「儲かるかどうか」を最優先に検討したうえで、世の中のニーズや人々の困りごとを解決できるアイデアを考えています。たとえば、カプセルトイを回して、カプセルの中に入っている食券で料理が決まる「ガチャめし」は、出てくるまで何が入っているかわからない楽しさの提供と、店舗のPR効果の向上を同時に実現しました。
また、「たこやきのうた」は大阪をPRするというシンプルな目的で生まれたものですが、最終的に50万ダウンロードを超える大ヒットとなり、予想以上の反響を得ることができました。
ユニークな企画で新たな価値を創造し企業や地域を輝かせる
ーーこれからの展望や目指しているものを教えてください。
上谷信幸:
規模を大きくしていき上場を目指せればと過去に検討したことはありますが、株主の意向に左右されることなく、自分の裁量で自由に企画を進めたいという思いから、現在は考えていません。今後は企業や地域を盛り上げるユニークな企画を考え出し、世の中に新しい価値を提供していきたいと思っています。
また、PR会社としての枠を超えた地域活性化や社会貢献につながるプロジェクトにも取り組んでいく考えです。具体的には、地方の中小企業が抱える広報やPRの課題を解決し、全国、さらには海外への情報発信を支援することを目指すとともに、次世代に向けた教育プログラムを通じて、私自身の経験を多くの人々に伝える機会を増やしていきたいですね。
ーー最後に、これから起業を目指す人やキャリアの選択に迷っている方々へのメッセージをお願いします。
上谷信幸:
フラットに言いたいことを言って「仲間と熱く語り合う」という言葉は一見美しく聞こえるかもしれません。しかし、実際には意見の衝突や役割分担の曖昧さから失敗するケースも少なくありませんし、会社組織は友達同士ではありません。社長という立場は、すべての決断と責任を一手に引き受ける孤独な仕事です。そのため、孤独を楽しみ、孤独に慣れ、孤独を愛し、自分の直感や判断力を信じることが重要であり、同時に自分がどのようなスタイルで働くのが楽しいかを理解することも大切です。
無理に起業する必要はありませんが、「自分で何かを生み出したい」という強い思いを持つ人にとっては、挑戦する価値がある仕事だと思います。どのような状況でも諦めずに突き進む覚悟と、周囲への感謝を忘れないことが、成功への鍵だと考えています。
編集後記
上谷信幸社長は、型破りな発想と鋭い行動力でPR業界に新しい風を吹き込んでいる。学生時代に培った独自の視点を活かし、取材される立場から取材を引き寄せる存在へと転換したその手法には、計り知れない可能性を感じた。トップダウン型の経営を貫きながらも、社員の自由と効率を最大限に引き出す環境づくりを怠らない姿勢には感服する。既存の枠にとらわれないその挑戦は、これからも多くの人々に刺激を与え続けるだろう。

上谷信幸/1972年大阪府枚方市生まれ。大阪芸術大学卒業後、2002年に有限会社ラプレエンターテイメントを設立。2006年には株式会社ラプレへ組織変更。現在、代表取締役として企業のイベントプロデュースやPR業務に従事。