
PBX(構内電話交換機)とデータベースや顧客管理システムなどを連携させ、コールセンター業務を効率化するCTI(Computer Telephony Integration)システム。コールセンターのほか、ECサイトを運営する企業やホテルなどでも活用されている。
ファイン・インテリジェンス・グループ株式会社は、20年以上にわたってCTI事業を展開してきた企業だ。起業の経緯や、サービスを提供する上で意識していること、自立型の組織を目指した社内構造改革などについて、代表取締役の藤田久男氏にうかがった。
起業の経緯とCTI事業を始めたきっかけについて
ーーまず藤田社長の経歴と会社設立の経緯についてお聞かせください。
藤田久男:
もともと取引関係があったため大学卒業後は総合電機メーカーに入社し、システムエンジニアとして働いていました。メーカー勤務のシステムエンジニアは、プロジェクトマネジャーのような立ち位置で、システム構築だけでなく顧客と社内の人間の双方にどのように意図を正しく伝えるかについて試行錯誤していましたね。
このときの経験が、今のコンサルティング事業に活きていると実感しています。5年間の修行を終えた後は、父が経営する藤田情報システム株式会社(藤田エンジニアリング株式100%子会社)に入社し、親会社の株式店頭公開(現東証グロース上場)なども行いました。
その後、慶應ビジネススクールで経営学を学びます。そのときの同級生と一緒に起業することになり、藤田エンジニアリングの子会社として、ファイン・インテリジェンス・グループ株式会社を設立することになったのです。
ーー起業から現在のビジネスモデルに至った経緯を教えてください。
藤田久男:
当初はECモール事業を展開し、代理店として自社の商品をオンラインで販売したい中小企業を支援するビジネスモデルを採用していました。しかし、ECショップの運営は弊社に任せておけばいいと考えている取引先がほとんどでした。ただ、それでは顧客が何をメインに売り出したいのか、私たちはどこをサポートすべきかがわからず、売上を伸ばすことができませんでした。
これと同時進行で行っていたのが、電話、FAX、コンピューターを統合したCTI(Computer Telephony Integration)事業です。これは、電話やFAXで得た顧客情報(属性や購買履歴、問い合わせ内容など)をコンピューター上で管理し、統計データを活用して商品開発や販促活動に役立てるものです。当時はまだコンピューターとネットワーク、電話受託業務をすべて網羅している企業は少なかったため、他社との大きな差別化点でした。
その後、コールセンター向けの電話回線サービスや、一般消費者向けのIP電話サービスも展開していきました。そして、お客様に弊社のサービスを利用するメリットを伝えるために始めたのが、コンサルティング事業です。
こうしてお客様のサポート体制を拡充していった結果、今の事業形態になりました。
他社との差別化がしにくい業界でお客様に選ばれる理由

ーーサービスの強みについてお聞かせください。
藤田久男:
弊社の強みは、システムの構築だけでなく、運営に必要なノウハウも提供している点ですね。単にシステムを提供するのではなく、お客様の売上向上というゴールに向け、お客様と伴走する姿勢を大切にしています。ですので、弊社の商品は「ソリューション」と常々話しています。
また、私たちはお客様の“不満をなくす”ことを特に重視しています。どの企業のサービスも電話システムとしての機能面では大きな差をつけることは難しいため、CRMシステムを含めてお客様が不満に感じている点を聞き出して常に改善を継続することで、「この会社を選んで良かった」と思っていただけるよう工夫しています。
なお、お客様の問い合わせ対応が電話からチャットに切り替わる将来を見据え、Webチャットサービスの提供を開始しました。時代とともに次々と新しいツールに代替されることを見越し、常に次の展開を考えています。
“役立たずな社長”を目標にする組織改革とは
ーー経営面でこれから改善したい点をお聞かせいただけますか。
藤田久男:
弊社は大企業の子会社としてスタートしたことで、企業の成長が鈍化してしまっていると感じています。自動車業界では「在庫は池にたまった水」と表現されることがあります。水位が高いと底の凹凸が見えなくなり、無駄なものが見えなくなるということです。
経営においても、何もない状態からスタートしたベンチャー企業は、課題が一目瞭然です。一方で弊社のように最初から資金があると、経営はなんとかできてしまうため、逆に無駄な部分が見えにくくなるのです。そのため、これから経営体制をイチから見直し、効率的な組織にしたいと考えています。
ーー課題を解消するための取り組みについて教えてください。
藤田久男:
まずは私がいなくても仕事を回せるよう、組織体制の見直しをしたいですね。トップの指示で動いているうちは、社長の器以上の会社にはなれないからです。今後は各部門長に判断を委ね、いずれは私が指示しなくても、各自で判断して動く組織を目指しています。
そのため、今の私の目標は社員たちに会社を引っぱってもらい、できるだけ早く「役に立たない社長」になることですね。私の経営者としての存在価値が脅かされるような、勢いのある人材が早く現れてほしいと思っています。
営業力を強化し、上場可能なレベルにまで成長させたい
ーー最後に今後のビジョンをお聞かせください。
藤田久男:
今後の目標としては、上場できる組織体制および規模まで育てたいと考えています。そのために今後必要になるのが、営業面の強化です。集客に必要なマーケティングの基盤はできているので、これからは商談をまとめる営業人材を確保したいですね。
また、これは個人的な夢なのですが、経営を疑似体験できるオンラインシミュレーションゲームをつくりたいと考えています。単なる遊びでない、人材育成のできる楽しいゲームをつくって、日本の将来を支える人材を育成することにつながればと考えています。現在、私が非常勤講師を務めている慶應義塾大学大学院で、学生に「ビジネスゲーム」を教えているのですが、この内容をゲームに反映し、経営の難しさと面白さを伝えられればと思っています。
編集後記
前職での経験を活かしていち早くCTIサービスを提供し、業界での地位を築いてきた藤田社長。現在は組織改革に力を入れ、同社のさらなる成長に余念がない。ファイン・インテリジェンス・グループ株式会社は、時代の変化に合わせたサービスを提供し、電話応対業務における課題の解消にこれからも貢献していくだろう。

藤田久男/1962年群馬県生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業。1985年に日立製作所に入社し、大手銀行対応のSEとして5年間勤務。その後、藤田情報システム株式会社(現:藤田ソリューションパートナーズ株式会社)に入社。1998年に慶應大学大学院でMBAを取得後、2000年にファイン・インテリジェンス・グループ株式会社を設立し、代表取締役に就任。ITコンサルティングや経営戦略、クラウドサービス事業を手掛けている。2015年より慶應義塾大学大学院にて経営管理研究科の非常勤講師を務めている。