※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

歴史ある文化財や建造物を保存・利活用し、歴史の伝承や地域の活性化などに取り組んでいるバリューマネジメント株式会社。同社は、代表取締役の他力野淳氏が阪神淡路大震災を経験したことにより、「歴史を次の時代につなぐ取り組みがしたい」という思いから始まった。

少子高齢化や消滅可能性都市など、日本が深刻な人口減少問題を抱える今、同社の存在意義は大きい。他力野社長に同社を立ち上げたきっかけや事業内容、今後取り組んでいきたいテーマなどについて聞いた。

長崎の地に生まれたという背景から、文化財の再生事業に取り組む

ーー他力野社長の経歴をお聞かせください。

他力野淳:
私は長崎県の生まれで、幼いころから戦争や原爆の歴史を肌で感じながら育ちました。しかも私の誕生日が長崎に原爆が投下された日と同じ8月9日ということもあって、私は自身の生い立ちに運命のようなものを感じ、いつかは歴史上の偉人たちのように、過去の歴史を未来へとつないでいく取り組みがしたいと思っていました。

その思いを加速させるきっかけとなったのが、20代で経験した阪神淡路大震災です。初めて経験する未曾有の災害の中で、自分の無力さを改めて思い知らされ、社会が求めるものを生み出せる力を身につけたいと思うようになったのです。

そこで私は、バブル崩壊にともなって全国各地で利用されなくなって放置されている不動産や文化財などを対象に、これらを再生して保存・活用する事業ができないかと考えました。不動産価値の著しい低下によって参入のハードルが下がっていたうえに、私が事業で実現したい思いとも合致していたので、この上ないチャンスだったといえるでしょう。

こうして2002年に事業をスタートし、2005年にバリューマネジメントの立ち上げへと至りました。その後は、文化財や歴史的資源を地域のシンボルとして再生する活動が社会的に価値を認められ、5年で事業規模を20億円規模にまで拡大することに成功しました。今では売上高95億円以上、従業員1,000人以上の規模に成長しています。

ーー会社の経営で、特に印象に残っていることは何でしょうか?

他力野淳:
法人化直後に手掛けた、8億5千万円をかけて洋館を再生する文化財再生プロジェクトが教訓として印象に残っています。当時はまだオフィスがマンションの一室という小規模で、このプロジェクトは私たちにとって大きな挑戦でした。

最初のうちは着々と進み、来館者の予約の受付や、従業員の雇用を始める段階まで来ていましたが、そこで大きな問題が起こります。突然、協力会社から「資金が集まらなかった」と言われたのです。これによりプロジェクトは頓挫し、多くの方に迷惑をかける結果となってしまいました。

この失敗から、私は資金を確実に調達できる仕組みの重要性を痛感し、弊社単独で資金を調達できる仕組みと、プロジェクト全体を掌握できる体制づくりに奔走しました。このとき組織のあり方を転換したからこそ、現在に至る基盤が築けたと思っています。

事業の中心に「保存」を据えることで、地域ならではの魅力を引き出す

ーー貴社の事業内容と仕事のやりがいを教えてください。

他力野淳:
文化財や歴史的資源の保存と活用を通じて、地域社会の活性化を目指す事業を行っています。プロジェクトの代表的な例としては、京都市の「FUNATSURU KYOTO KAMOGAWA RESORT」や大阪市の「大阪城西の丸庭園 大阪迎賓館」などがあります。

ここで大切なのが、事業の軸に「保存」を据えることです。弊社が目指しているのは、プロジェクトを事業として成り立たせながら、文化を次の時代につないでいける形を実現することです。そのため、文化庁や自治体などと連携しながら、社会的意義の高さを保てるように心がけています。

弊社の事業は、歴史や文化財を活かし、地域社会に直接貢献できるので、やりがいが大きいと思います。修復した建物や保存した文化財が、地域の観光や経済の活性化に寄与できている姿を目の当たりにした瞬間は、自分たちの仕事が社会の一部になったと実感できる、何より嬉しい瞬間です。

ーー貴社が事業を進めるうえで大切にしている姿勢をお聞かせください。

他力野淳:
弊社が大切にしているのは、事業計画を作成するだけでなく、その実行と運営まで責任を持つことです。そのため、社員全員が「地域づくりのコンシェルジュ」のような意識を持つことを大切にしています。その地域で真に求められる価値を引き出すことを最終的なゴールと考え、地域の皆さんと一体になってプロジェクトを進めています。

また、社内文化の共有や、社員が成長できる環境の整備も大切にしています。全社員が集まる定例会や「コンシェルジュアワード」といった、頑張る社員に焦点を当てるイベントを積極的に開催し、社員間のモチベーション向上や社員間の連携強化などに取り組んでいます。

社会的意義をさらに高め、日本全国に新たな観光地を創出したい

ーー今後、特に注力したいテーマは何でしょうか?

他力野淳:
今後も、これまでと同じようにオファーをいただいたプロジェクトに取り組んでいく予定ですが、今後は官民が手を取り合って進める、地域活性化につながる案件は優先的にリソースを割いていければと思っています。

プロジェクトの規模を建物単位からエリア単位へと拡大し、実際に持続可能なまちづくりを実現できれば、それが弊社の価値を証明する一つの区切りになると考えているのです。

この構想が実現すれば、そこに新たな事業者が参入することで雇用が発生し、経済を軸としたにぎわいが生まれるはずです。まちづくりは人づくりという言葉もありますが、その第一歩として、再生した建物と人々の生活が同居する風景を生み出すことが、次の10年の大きな課題だといえるでしょう。

編集後記

バリューマネジメントの、社会課題を解決しながら新たな価値を生み出す事業は、社会の持続可能性という視点において大きな価値を持つ。特に地方においては、今ある資源を利活用できるのは地域活性化の重要なポイントになるだろう。今後、国や自治体などの公益性が高い組織との連携が強化されれば、事業の可能性はもっと広がるはずだ。他力野社長が再生した文化財や歴史的資源を訪れる人が増え、全国に活性化していくのが待ちどおしい。

他力野淳/2005年、バリューマネジメント株式会社設立、代表取締役に就任。文化財などの歴史的建造物など地域資源の利活用や観光まちづくりを推進。現在、観光庁の歴史的資源活用に関する観光まちづくり専門家として活動中。