
電気自動車や産業機器などに使用されるパワー半導体市場の躍進ぶりが目覚ましい。シンクタンクの富士経済によると、2023年に3兆1739億円を計上したパワー半導体の市場規模は、2035年に2.4倍の7兆7757億円に拡大すると予測している。(※)
(※)「パワー半導体の世界市場を調査」2024年2月(富士経済グループ)より
今後、さらなる成長が見込まれる業界で、超音波を使って金属を接合するパワー半導体製造装置、ワイヤボンダを製造しているのが超音波工業株式会社だ。世界でも競合他社が極めて少ない超音波ワイヤボンダの分野で長きにわたって活躍を続ける同メーカーは、2024年に新型の「REBO-Ⅹ」をリリースしたばかりである。プロパーエンジニアとして同社を支え、2022年から代表取締役社長に就任した松原史郎氏に、経営ビジョンなどを詳しく聞いた。
顧客に求められるクオリティを担保する誠実さが信条
ーーはじめに松原社長のご経歴をおうかがいします。
松原史郎:
高専を卒業して弊社に入社し、今年で40年目を迎えます。入社時に超音波ワイヤボンダの制御設計の部署に配属され、それ以降はエンジニアとして一貫してワイヤボンダ製造にかかわってきました。2005年に現在主流の「REBO(レボ)」シリーズが新しくリリースされましたが、この開発にも直接携わり、エンジニアとして成長する非常にいい経験を積んだと思います。
その後、技術部門担当役員を経て、2022年に社長に就任することになりました。
ーー社長としてどんなことを大切にしていますか?
松原史郎:
お客様や株主、金融機関など、すべてのステークホルダーに対して誠実であることを大切にしています。
また、弊社の製品は多くがお客様の製造ラインに対応したカスタム仕様ですから、お客様と対話して約束した品質で提供しなければいけません。私はつねづね、お客様からのご要望に対して「空を飛ぶ以外はなんでもできる」と言えるくらい期待に応えたいと思っているのです。そのため、社員には「責任は私が取るので失敗を恐れず思いきり取り組むように」と呼びかけつつも、誠実さを失わず、お客様と真摯にやりとりをすることが大切だと伝えています。
周波数特性を操る接合技術におけるアドバンテージ

ーー貴社製品の強みを教えてください。
松原史郎:
弊社の強みはワイヤボンダの接合に使用する周波数にあります。一般的に60〜80kHzを使用しますが、弊社では、30年前から110kHzという極めて高い周波数帯を採用している点で優位性があります。金属接合の製品が売上全体の80%を占めるため、中心であるワイヤボンダの性能には特別なこだわりを持って製造に取り組んでいるのです。
もちろん低い周波数の方が有利になることもあるため、高低2つの周波数を使用できるボンディングヘッドを開発しました。こうした技術を含め、パワー半導体チップ上の接合品質について、ユーザーから高い評価をいただいています。
ーー開発面で今後の注力点をお聞かせください。
松原史郎:
製品の改良と新開発に注力していきます。2024年にこれまでの技術をアップデートした新型のワイヤーホンダ、「REBO-Ⅹ」をリリースしました。この装置は今後数年にわたって主力商品になるので、現行のREBO-9シリーズとの比較を含めユーザーの評価を得ながらブラッシュアップしていくのが当面のテーマです。
また、本社所在地に建設中の新工場が6月に稼働をスタートします。高付加価値の製品を拡充し、フレッシュな環境でラインナップの充実を目指していきます。
半導体製造装置の超音波ワイヤボンダで世界トップ4の実力
ーー人事面ではどのような考えをお持ちでしょうか。
松原史郎:
年齢的に引退する人が出てしまうため、人材の補充は常に欠かせません。新卒社員は昨年は2名、今年は3名採用し、そのほか中途採用も行い現在の人員をキープしています。
ここ数年は従業員180〜190人で、売上高は40〜45億円で推移しています。この規模感で開発・製造するのが管理が行き届いてちょうど良いため、今後も現状を安定して維持する構えです。
ウェッジボンダに分類される超音波ワイヤボンダは、世界で弊社を含めた4社が主に競合していますので、新入社員の方は海外の優れた競合を相手に仕事をするやりがいを感じられるはずです。大きな舞台で前向きにチャレンジしたい方にぜひ興味を持ってほしいですね。
ーー今後の展望をお聞かせください。
松原史郎:
2030年に向けた拡販戦略として、パワー半導体製造装置以外にも、EV搭載バッテリーモジュールのワイヤボンド工法への展開を進めています。2026年度以降の量産を目標に、現在引き合いをいただいているお客様との評価実験を続けている状況です。
ワイヤボンダともども、世界トップクラスの製品とサービスを競争力のある価格で提供していくことを目指していきます。
編集後記
超音波ワイヤボンダについて、現行のREBO-9までは中核エンジニアとして松原社長が開発に直接携わってきたが、昨年リリースの最新型REBO-Ⅹには社長という立場上タッチしていないという。「私の下のスタッフで開発したと思うと、非常に感慨深いものがある」と語る松原社長。これから主軸を担う製品を後輩の手で仕上げたということは、世代を超えて技術がしっかり継承されている証であると感じた。

松原史郎/1963年、静岡県生まれ。1985年、沼津工業高等専門学校卒業。同年、超音波工業株式会社に入社。超音波ワイヤボンダのエンジニアとして勤務。2022年、同社代表取締役社長に就任。