
2020年11月、伊藤忠、ファミリーマート、NTTドコモ、サイバーエージェントの4社が出資して誕生した株式会社データ・ワン。出資会社の顧客情報を活用し、飲料や食品、消費財などのメーカーにデジタル広告を販売している。
同社で代表取締役を務めた太田英利氏は、伊藤忠商事に入社後、シリコンバレーでのベンチャー投資や、トヨタ自動車やファミマ・ドット・コムへの出向など、多彩な経験を持つ人物だ。そんな同氏に、業界でも最先端を走る同社のデジタル広告事業について聞いた。
「新たなマーケットをつくる」という目標の共有と相互理解でチームワークを醸成
ーー代表就任後の取り組みについて教えてください。
太田英利:
まず取り組んだのが、「自分たちが新しいマーケットをつくる」という目標を分かりやすい言葉で社員たちへ語り、チームの目標を一致させることです。
弊社が設立された2020年11月当時は、まだリテールメディア市場というものが存在していませんでした。この新しいマーケットを開拓するにあたり、チーム全体が同じ目標と同じ価値観を持つことが重要だと考えたのです。
また、チームのメンバーがお互いを理解できるよう、終業後にフードデリバリーを頼み、みんなでお酒を飲みながら親交を深めるといったこともしました。
コロナ禍で居酒屋に行くことができなかったため会社での飲み会を開いたのですが、社員たちはこの会を気に入ってくれて、現在も月末に必ず開催する1つの社内文化となっています。
ーー飲み会がよく開催されるのも、社内の雰囲気が良いからこそでしょうか。
太田英利:
社内の雰囲気が良いのも、飲み会を開催しやすい理由の1つだと思います。また、「新しいマーケットを自分たちでつくった」という自負が社員たちにあるので、社内には前向きな雰囲気が漂っており、離職者はごく少数です。チームで働くという感覚が根付いていますし、そういった社員の成長を止めないことが、僕の社長としての責任だと考えています。
また、社長室ではなく、社員たちから見える場所に僕の席もありますし、派遣社員も含めて全員と1対1でミーティングをするなど、社長と社員の距離もとても近いです。
広告を配信する対象をセグメントし、その後の行動まで追える新しいデジタル広告の形

ーー事業内容について教えてください。
太田英利:
主に2つの事業を手がけています。1つは弊社の出資会社4社のアセットをもとに、飲料や食品、消費財メーカーへデジタル広告を販売する事業です。
ファミリーマートは年間50億件のリアル店舗での購買データ、NTTドコモはdポイントカードから得られる1億の属性データを保有し、この膨大なデータ同士を掛け合わせることで精度の高い広告配信を実現しています。
たとえばNTTドコモを利用している方に「新発売のビール」の広告を配信し、広告を見た方が実際にファミペイやdポイントカードを提示してファミリーマートでその商品を購入した場合、「20代、女性、港区在住、週に3回ビールを買う」といった購入者の属性データを抽出可能です。これにより、この属性の方にアルコール度数が低いビールの広告を配信するなど、戦略的な広告配信ができるようになります。
もう1つが、全国1万店舗以上のファミリーマートに展開しているデジタルサイネージの事業です。デジタルサイネージに広告をただ流すだけでなく、どのくらいの人が広告を見たのか、そして実際にその商品を買ったのかなどをデータで可視化しています。
弊社は「データの可視化」という点に大きな強みを持ち、企業の仮説を実証する際にはこの技術を役立てることも可能です。
たとえば企業がCMを制作する前に、内容は同じでタレントが違う3つの広告をスマホ上で流すとします。これにより、どのタレントが登場した広告が最も売り上げが伸びたかを可視化し、最も売れた広告のタレントを使ってCMを制作するなど、テストマーケティングツールとして活用できます。
データを科学する会社として、リテールメディア業界のトップランナーを目指す
ーー求める人材像や人材育成の取り組みについて聞かせてください。
太田英利:
求める人材像は、広告が好きな人です。広告業界は技術的なパラダイムシフトがよく起こるので、そのたびに勉強しなければいけません。広告やマーケティングが好きな人でなければ、勉強し続けることは難しいでしょう。
人材育成に関しては、新しいマーケットということでまだ手探りの部分が多いですが、入社時の教育プログラムの整備などを進めているところです。
ーー5年後はどのような会社になっていたいですか。
太田英利:
1番の目標は、データを活用して科学する「リテールデータマーケティングカンパニー」としてリテールメディア業界のトップランナーになることです。
また、今後は地方のお客様が増えることが予想されますし、自分たちだけでサービスを売っていくのには限界があるので、パートナー施策をとることを考えています。
そのほか、現在は購買データを主に扱っていますが、今後は気象データや金融データなど幅広いデータも扱えるようになり、事業の幅を広げたいです。
編集後記
2025年1月から、セグメントの対象をより幅広くし、リーチできる層を増やす「co-buy® Segment Plus」のサービスを開始したデータ・ワン。新たな市場を開拓したことに満足せず、サービスの質を常に改善し続ける向上心が同社の強さの理由だと感じた。高いチームワーク力で成長を続ける同社なら、変化の多い広告業界でも、強固な組織の力で今後もきっと乗り越えるだろう。

太田英利/1971年福岡県生まれ、九州大学卒。1994年伊藤忠商事株式会社入社、ITOCHU Technology, Inc.(米シリコンバレー)、トヨタ自動車株式会社、株式会社ファミマ・ドット・コムなどへの出向を経て、2017年伊藤忠インタラクティブ株式会社代表取締役社長就任。2020年より株式会社データ・ワン代表取締役社長に就任し、2025年3月末に退任。