目まぐるしく情報技術が発展するなか、中小製造業にこそAIやDXが必要だと説くのが、株式会社スカイディスクの代表取締役CEOの内村安里氏だ。福岡県に本社を置き、地方から日本全体を変える可能性を模索している。そんな内村氏に同社の提供するサービスの強みや注力テーマ、人材採用に対する思いをうかがった。
ベンチャー企業での経験を糧に、地方からイノベーション創出に取り組む
ーー社長の経歴をお聞かせください。
内村安里:
大学を卒業後、ベンチャー企業を経て、2003年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社しました。ディー・エヌ・エーは今でこそ社員1,000人を超える大企業ですが、当時の社員数はまだ70人程度でした。在籍した2011年末までの約8年半、上場そして様々な事業展開を重ねて、急成長・急拡大していく会社に身を置くことができたのは非常に良い経験だったと思います。
ディー・エヌ・エー退職後は、独立してさまざまな企業の新規事業立ち上げ支援・コンサルティングに取り組みつつ、拠点を東京から地元である九州・熊本に移しました。
スカイディスクと出会ったのは、それからしばらく経った2019年のこと。知人を介して、株主であるベンチャーキャピタルから経営立て直しの相談を受けたのがきっかけです。当時のスカイディスクは、累計17億円の資金調達を行っていたものの、思い描いていた事業展開はうまくいかず、急激な人員拡大も相まって窮地に陥っていました。
財務諸表を見る限り、1年後には会社自体がなくなっているかもしれない、そんな状況でした。元々は「何かサポートできることがあれば」くらいの気持ちで話をうかがっていましたが、「九州そして地方のベンチャーがもっともっと活性化するためには、まだまだ東京一極集中の現状を変えるには、九州発のこの会社を絶対に成功させなきゃいけない」という株主の言葉がすごく心に響いて。
その言葉に使命感を駆り立てられた私は、2019年末から代表として取り組むことを決意。そして、今に至ります。
東日本大震災で人生や仕事を見直し、拠点を地元・九州へ
ーー独立後、九州に戻ってきたのはなぜでしょうか。
内村安里:
学生時代から「いつか起業したい」と思っていました。就職先としてディー・エヌ・エーといったベンチャーを選んだのも、そうした環境に身を置く方が起業に向けて学べることが多いと考えたからです。ただ、会社自体が成長していく環境下での仕事は日々エキサイティングで面白く、起業という選択肢は頭の片隅にずっとあったものの、具体的に踏み出すところまでは考えていませんでした。
きっかけは、2011年3月11日の東日本大震災です。当時は神奈川に住んでいて、まだ子どもが生まれて間もない頃でした。職場のあった東京でも地震による混乱が起こり、4時間半歩いて自宅まで帰ったのを覚えています。
その時に思ったのが『人間いつ死ぬか分からない』ということです。「起業したい」という思いがあるなら、今チャレンジすべき。そして人生を見直した私は、会社から飛び出す決意をしました。また、人生を見つめ直す中で、故郷である九州・熊本に拠点を移すことも決めました。これまでの経験を活かして何かしら地元にも恩返しができたら、そんな気持ちがありました。
ただ、Uターン後もなんだかんだで東京中心の生活で、正直もう一度東京に戻ろうかと考えたこともありました。そんな時、バスケットボールクラブ「熊本ヴォルターズ」の経営再建の相談を受けたのです。
「自分が戻ってきた意味」「地方にいるからこそできる仕事」に強い想いを抱えていた私にとって、この仕事を引き受けることは、Uターンの一つの解でもありました。創業から赤字続きで債務超過寸前状態であった同社の再建は、当然楽なものではありませんでしたが、全力でコミットするため退路を断ち創業社長とともに代表権を持って取り組み、約2年で売上2倍・純資産18倍という成果を上げることができました。もちろんこれは私一人の力ではありませんが、非常に厳しい環境であっても結果を出せたことは、今のスカイディスクに繋がる非常に大きな経験になりました。
中小企業をメインターゲットに据えることで新しい市場を開拓
ーー貴社の事業内容や独自の強みを教えてください。
内村安里:
元々はIoTセンサー・デバイスの開発をしていたのですが、スマートファクトリー化の潮流に乗り、製造業をメインターゲットにしたAI活用ソリューション事業にシフトしていきました。
弊社の強みは、AI技術、そして国内製造業における知見、アプローチ可能な企業ネットワークを持っていることだと考えています。私が代表に就任した当時は受託開発のみでしたが、それまで培ってきた企業ネットワークを活用した市場ニーズ調査に取り組み、2022年4月にAIを搭載した「最適ワークス」というプロダクトを開発・リリースしました。
「最適ワークス」がフォーカスしている生産計画システムにおいては、これまで高額なものが多く、中堅・中小規模の工場でシステム化に取り組めているところはかなり少ないという調査結果が出ています。最適ワークスはそうした中堅・中小規模の工場をメインターゲットに据えることで差別化を図っています。
ーー「最適ワークス」とはどのようなサービスですか?
内村安里:
製造業の生産計画は、各製品の製造工程、機械設備、作業スタッフにおける様々な制約条件を考慮しなければならず、複雑なパズルを解くような作業です。そのため、計画担当者の負担は増え、属人化が進んでいます。最適ワークスは、そんな生産計画をAIが自動で立案してくれるサービスです。
生産計画は製造業において非常に重要な役割を担っています。生産性向上のためのPDCAも、P(計画)がなければスタートしません。そこをAIで支援することで、計画業務の効率化・属人化解消だけでなく、製造進捗の可視化、納期遅延の解消、残業代の削減、生産量の向上など、生産に関するさまざまな課題解決に繋げることができます。
累計導入社数はすでに100社を超えています。大手メーカーにも導入いただいていますが、約8割は中堅・中小規模の工場になっています。
国内製造業の99%以上は中小企業。大手メーカーのサプライヤーでもある、そうした中小企業の成長をテクノロジーで支援していくことは、日本の製造業全体の成長に繋がるはずです。いわば「最適ワークス」は「日本を製造業から元気にするためのツール」とも言えるでしょう。
ーーこれから注力したいテーマをお聞かせください。
内村安里:
認知拡大・パートナーシップ構築に取り組んでいきたいですね。
国内製造業のDXは進んでいるとは言い難い状況です。特に、中小規模においては手の出しやすい製品が少なかったこともあり、そもそもシステム導入について検討していない、情報収集なども行っていない会社も多いと感じています。現在の顧客は新しいことを率先して試す「アーリーアダプター」の方々だと捉えていますので、より多くのマジョリティ層に知ってもらえるよう、取り組んでいく必要があります。
そのためには、そうした多くの製造業の方々とまずは接点を作っていかなければなりません。これまでも製造業向けの展示会などに積極的に出展して来ましたが、直近では各地の自治体や商工会、地方銀行との連携を強化しています。今後はその取り組みを更に加速させ、顧客獲得ペースを上げていきたいと考えています。
人材に求めることは「自主的に学ぶ姿勢」
ーー人材に求める条件を教えてください。
内村安里:
採用で重視していることは、自ら学べる人かどうかです。教えてもらうのを待つのではなく、必要な情報を能動的に取りに行ける人。書籍やネットを活用するだけでなく、社内・社外を問わず情報を持っている人とコミュニケーションを取る。私たちはまだまだ小さな会社なので、一人一人がそのように取り組むことによって、会社・事業の成長速度も変わってきます。ただ、最も大事なのは、「ものづくりを、もっとクリエイティブに」「AIをだれもが活用できる世界をつくる」というミッション・ビジョンに共感いただけるかどうか、だと思っています。
製造業は日本のGDPの約1/5を支える基幹産業です。製造業をテクノロジーで支えることで、日本全体を元気にすることにつながると信じています。「最適ワークス」は、私たちが目指すそんな壮大なミッション・ビジョンの第一歩目のサービスです。
社内には製造業以外の業界からジョインした社員も多いです。私たちが目指す先にワクワクした方は、職歴にとらわれず、ぜひご連絡いただければと思っています。
編集後記
大企業と中小企業、東京と地方都市。メインストリームである大企業や東京と、数多くのサブストリームである中小企業や地方都市が存在するが、スポットライトを当てられるのはいつもメインストリームだ。多くの人はそれに違和感を抱かないが、その裏でさまざまな可能性を見落としてはいないだろうか。内村社長の取り組みは、一見、サブストリームに見える「地方の中小企業」が、実はメインストリームであるという可能性を示してくれているように思う。日本の新たな1ページをつくるのは、スカイディスクのような会社なのかもしれない。
内村安里/1978年生まれ、熊本県出身。大学卒業後、ベンチャー企業を経て2003年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。ECコンサルティング部門、モバイル広告部門、マーケティング部門のマネージャーを担当。2011年末に独立し、さまざまな企業の新規事業立ち上げを支援。2017年からはプロスポーツクラブの再建に取り組み、約2年で売上を2倍・純資産を18倍に拡大。2019年12月に株式会社スカイディスクの代表取締役CEOに就任。