
パーソナルスタイリングサービスのパイオニアとして、2019年に設立した株式会社DROBE(ドローブ)。AIによる商品分析とプロのスタイリストの目利きを組み合わせ、顧客一人ひとりに最適な服を提案するという、新しい購買体験を提供している。同社の事業開発には、どのような背景があったのか。代表取締役CEOの山敷守氏に、設立の経緯と事業の詳細について話をうかがった。
学生起業、新規事業開発の経験を経て代表に就任
ーー社長のご経歴をお聞かせください。
山敷守:
大学時代からいずれ起業することを視野に入れ、「TNK(東大起業サークル)」という、学生起業をしている人たちの情報交換サークルに入会していました。私自身も学生起業したのですが、サービスの成長が期待できず、事業の継続を諦めることになります。大学卒業後は株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に就職し、新規事業の立ち上げに携わりました。
さらに、2016年にはBCG Digital Ventures(以下、BCGDV)というボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)の日本支社に転職しています。このBCGDV時代に、三越伊勢丹さんと弊社の前身となる新サービスを立ち上げたところ、確かな手応えを感じました。そこで、三越伊勢丹さん、BCG、BCGDVのジョイント・ベンチャー(合弁企業)として弊社を設立し、私が代表に就任する運びとなったのです。
ーーなぜアパレルの領域で新サービスを立ち上げようと考えたのですか?
山敷守:
もともとアパレルやファッションには関心がありました。ただ、私は学生時代からずっと、スーツを着て仕事をすることが多かったため、社会人になってからは流行についていけておらず、ファッション業界から距離を置かれたような感覚に陥っていました。また、業界人や店舗スタッフのお洒落な雰囲気にも、プレッシャーを感じていたのです。
BCGDVで生活者調査を行ったところ、私と同じことを感じている人が非常に多いようでした。この結果を知って、「お客様と同じ感覚を持つ私だからこそ、新しいサービスを提供できるかもしれない」と考え、事業に参画することを決心しました。
約40万点の豊富な品ぞろえから選べる「試着型ECサイト」

ーー貴社のパーソナルスタイリングサービス「DROBE」の内容を教えてください。
山敷守:
「DROBE」は、弊社所属のスタイリストがAIを活用して、お客様にスタイリングを提供するサービスです。まず、「DROBE」に登録されたお客様には、身長や体重、予算、ファッションのテイストなど、約70の質問にお答えいただきます。その後、回答に合わせて、5点から8点ほどの洋服や靴などのファッションアイテムを見立て、お客様のご自宅にお届けするのです。そして、お届けした商品のうち、気に入ったものだけをお買い上げいただき、その他の商品は返送する仕組みになっています。「試着型のECサイト」や「スタイリスト付きのファッションEコマース」のようなサービスと言えるでしょう。
ーー「DROBE」の特徴はどのようなところですか?
山敷守:
200以上のブランドからなる、40万点以上の豊富な品ぞろえですね。加えて、多くの商品の中からお客様のニーズに沿った服を選ぶために、AIを活用していることも弊社の特徴だと考えています。
「スカートがいい」「トレンドを取り入れたい」などの要望、サイズ、価格などからAIが適切な商品をピックアップし、優先順位を付けます。その中から、お客様に合うファッションアイテムを見立てるのが、弊社のスタイリストの仕事です。
メンズ・キッズブランドへの参入を視野に事業拡大を図る
ーー今後はどのようなことに注力したいですか?
山敷守:
デザイナーやプロダクト開発チームの採用を増やしたいですね。現在、大手企業と連携した新規事業開発が進行している最中なので、人的リソースが不足気味です。弊社のカルチャーやミッション、ビジョンを理解して、仕事に対して真摯に向き合い、自分なりに考えて答えを出せる人に活躍してもらいたいと思います。
また、DROBEのサービスで培ったテクノロジーアセットを、「DROBE」のサービス以外でも展開することに注力したいと思っています。
ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。
山敷守:
現在はレディースのみですが、今後はサービスの幅を広げて、メンズファッションやキッズブランドを扱うことも検討しています。「DROBE」は、「ファッションが好きだけれども、コーディネートが不得意だ」という人向けのサービスですが、今後は「ファッションに苦手意識がある」という方にも、弊社サービスを利用してもらえるよう、事業を広げたいと考えています。
編集後記
かつては類似のプロダクトが存在したパーソナルスタイリングサービスだが、現在では競合はほとんどいないという。その背景には、「ユーザーへの深い理解と伝達能力が必要とされる同サービスの難しさと、不採算性がある」と、山敷社長は語る。AIの活用によって採算と顧客満足度を両立させている社長の手腕に脱帽した。

山敷守/東京大学在学中、学生向けSNS「LinNo(りんの)」を立ち上げる。2010年、新卒で株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。ヤフーとの事業提携などを成功させた後、無料通話アプリ「comm」の立ち上げプロジェクトの責任者に。2016年にBCG Digital Venturesの日本拠点の立ち上げから参画し、さまざまな大手企業との新規事業開発に取り組む。2019年DROBE(ドローブ)を設立し、代表取締役CEOに就任。