
日本の製造業は、長年にわたりその技術力と品質の高さで世界をリードしてきた。しかし、近年では産業構造の大きな転換期を迎え、DXを軸とした、製造業全体の革新が不可欠となっている。
このような状況下、PTCジャパン株式会社は「デジタルスレッド」を構築する先進的な取り組みを通じて、その変革の中心的な役割を担っている。今回、社長執行役員の神谷知信氏に、PTCジャパンの技術の強みと未来へのビジョンについて話をうかがった。
製造業の未来を担う決意
ーーPTCジャパンの社長に就任した経緯を教えてください。
神谷知信:
PTCジャパンに入社する以前は、アドビ株式会社で日本法人の代表取締役社長を務めていました。その中で、製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援に数多く携わり、現場が抱える深刻な課題とともに、DXがもたらす可能性を肌で実感していました。
しかし、マーケティング領域に特化しているアドビでは、日本の製造業全体に直接的な貢献を果たすのが難しいと感じました。そこで、これまで培った経験とスキルをより活かせる場を探していたときに、PTCと出合ったのです。製造業に特化したPTCの取り組みは、私が目指す方向性と完全に一致しており、その可能性に強く惹かれて入社を決意しました。
未来をつくる「デジタルスレッド」の全貌

ーー製造業の課題解決に向けて、デジタル技術はどのような役割を果たすとお考えですか?
神谷知信:
日本の製造業は世界でも高い技術力を誇っていますが、人口減少やグローバル競争の激化といった深刻な課題に加え、かつてない速度で進む技術革新への対応を迫られています。特に、製造業が今後も世界市場での競争力を維持していくためには、デジタル化の推進が不可欠であり、その中で重要な役割を果たすのが、弊社の「デジタルスレッド」という考え方です。
さらに、製造業界はサステナビリティや厳格化する環境規制への対応という新たな課題にも直面しており、「デジタルスレッド」を実現することで、資源の無駄を削減し、効率的で環境に配慮した生産体制の構築が可能となるのです。
ーー「デジタルスレッド」とは、具体的にどのような考えなのですか?
神谷知信:
製造業が抱える課題を解決するために、製造ライフサイクルをデジタル化する仕組みが「デジタルスレッド」で、設計・開発、生産、さらには保守などのアフターサービスまで、製造の全プロセスをデータで連携させ、包括的に管理します。これにより、従来の紙ベースの管理や部門ごとに分断された業務を解消し、効率的で迅速な製造を実現します。
デジタルスレッドは単なるデータの集合体ではなく、製造業全体の工程をシームレスにつなぐ基盤として機能します。このシステムの導入により、業務全体の流れがスムーズになり、より迅速かつ正確な製品づくりが可能になる上、部門間の連携強化を通じて企業全体の効率性と競争力が大幅に向上する点も特筆すべき特徴です。
ーー実際に「デジタルスレッド」はどのように活用されていますか?
神谷知信:
たとえば、設計段階で作成されたCADデータを、生産現場やサービス部門でそのまま活用することが可能です。これにより、設計から生産、さらにはサービスまで、情報が一貫して利用され、プロセス全体の効率化が図られると同時に、サービス部門で得られたフィードバックを製品開発に反映させることで、次世代製品の品質向上にも寄与しています。
さらに、AIを活用した在庫管理の導入により、無駄なコストを削減し、在庫配置の効率化を実現しています。製品のライフサイクル全体を通じた最適化により、製造業全体の生産性や競争力を飛躍的に向上させているのです。
社員一人ひとりの意識改革が生んだ成果
ーーこれまでの成果や印象深いエピソードを教えてください。
神谷知信:
私たちの取り組みの中で最も印象深いのは、社員一人ひとりの意識改革がもたらした組織全体の変貌です。社長就任当初から、「ワンPTC」という横断的なチームワークの構築に注力してきた結果、従来は単一のアプリケーションを提供する会社と見られていた弊社が、トータルソリューションを提案できる企業へと進化を遂げました。
この変革は社内文化にも大きく影響し、社員がより主体的に考え、行動するようになりました。これにより、顧客から寄せられる課題解決の相談が増加し、多くの企業に対して製造業のデジタルトランスフォーメーションを支援する機会が広がったのです。特に顧客から、「PTCでなければこのプロジェクトは成功しなかった」という声をいただくたびに、私たちの取り組みの意義と成果を強く実感しています。
製造業の課題克服と未来へのビジョン
ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
神谷知信:
現在、特に注力しているのは、自動車業界における「ソフトウェア定義車両(SDV)」の開発支援です。自動車業界では、車両の多くの機能がソフトウェアで定義される時代に突入しており、この大きな変革を「デジタルスレッド」で支え、設計・製造プロセスの改善に取り組んでいます。
また、サステナビリティへの関心が世界的に高まる中、環境負荷を低減する製造業の実現を目指し、再生可能エネルギーの活用や各国の厳格な規制への対応にも積極的に取り組んでいます。これらの取り組みを通じて、日本の製造業が再び世界をリードする存在となるよう、今後もサポートを続けていきます。
ーー最後にメッセージをお願いします。
神谷知信:
弊社は、グローバルな視点を持ち、変化を恐れずに挑戦したいと考える20代、30代の方々を心から歓迎します。弊社は、ダイナミックな環境で自らの成長を追求できる場であり、単なる企業ではなく、製造業の未来を根本から変革する使命を担う場所です。日本のものづくりの未来を輝かせる情熱を持つ皆さんとともに、未来を切り拓いていきたいと考えています。挑戦する意欲を持つ方々の参加を、心からお待ちしています。
編集後記
インタビューを通じ、神谷社長の製造業のデジタル革新に懸ける並々ならぬ決意と情熱に深い感銘を受けた。デジタルスレッドを基盤に、効率化や次世代製品開発への挑戦を推進する同社の姿勢は、製造業の新たな可能性を切り拓く力強い一歩だ。日本の製造業が直面する課題に向き合い、革新を続けるPTCの取り組みが、未来の産業界に大きな変革をもたらすことを確信している。

神谷知信/1975年生まれ、神奈川県出身。アドビ株式会社の日本法人代表取締役社長を経て、2023年にPTCジャパン株式会社の社長 執行役員に就任。製造業のDX推進を目指し、製造業全体の効率化と未来の製品開発をリードしている。サステナビリティや自動車業界の「ソフトウェア定義車両(SDV)」開発支援にも力を入れ、製造業の競争力を高めるための挑戦を続けている。