
スイスに本社を置き、産業用組込みコンピューターモジュールの開発・販売を手がけるToradex Japan株式会社。同社はハードウェアの提供にとどまらず、高品質なソフトウェアや長期メンテナンスまでを包括的に提供するワンストップソリューションを強みとする。これにより、顧客が本来の付加価値であるアプリケーション開発に集中できる環境を創出し、日本のものづくりを支えている。この事業を牽引するのは、スペインから来日した代表取締役社長、アルバロ・ガルシア氏だ。同氏は「新しい生活」と「完全に違う文化」を求めて日本へやってきた。今回、その情熱の源泉と、同社が描く未来について話を聞いた。
新しい文化と刺激を求めて スペインから日本への挑戦
ーー新しい挑戦の場として日本を選ばれた理由をお聞かせください。
アルバロ・ガルシア:
私は2015年に電気工学の大学を卒業した後、2年間は母国スペインで組み込み製品の開発に携わっていました。しかし、次第に今とは違う文化を感じたいという思いが強くなりました。もともと日本のゲームやアニメ、漫画文化に興味があり、エンジニアとしての仕事の機会も見込めたため、2018年にワーキングホリデービザを利用して来日したのです。
ーー来日後、特に文化の違いを感じた点はありましたか。
アルバロ・ガルシア:
仕事だけでなく、生活のさまざまな面で文化の違いを感じました。たとえば、日本のゴミ分別の細かさには驚きました。また、スペイン人は情熱をストレートに表現しますが、日本の方はあまり感情を表に出しません。そのため、何を考えているのか分からず戸惑うこともありました。
しかし、これらは他人に迷惑をかけないようにという配慮の表れだと理解しています。また、利益だけでなく「みんなのため」を思う日本特有の意識の表れでもあるのでしょう。
だからこそ私自身、日本の文化を尊重し、できるだけ「日本人らしく」ありたいと考えています。「外国人だから」と特別扱いされるのは望みません。一人の人間として日本の社会に溶け込み、その一員として行動したいです。
ーー慣れない環境で事業を推進するモチベーションの源泉は何ですか。
アルバロ・ガルシア:
一番の理由は、純粋に今やっている仕事が好きで、自分のやりたいことだからです。おかげさまで、私にとっては得意なこと、稼げること、そして好きなことが全て一致しています。それが何よりの原動力です。また、毎日少しずつでも成長している実感があれば、心は折れません。
顧客を開発に集中させるToradexの神髄
ーー貴社の事業内容と強みについて、教えていただけますか。
アルバロ・ガルシア:
弊社は「システムオンモジュール」という組込みコンピュータを設計・量産・販売しています。これは、お客様が製品をつくるための頭脳となる基盤部分です。このモジュールを基盤として活用することで、お客様は複雑な開発を弊社に任せられます。そして、ご自身の付加価値に集中できる点が強みです。
特に、製品の生産ロットが1万台以下など、比較的規模が大きくない場合にメリットを感じていただけます。自社で全て開発するよりも、弊社の製品を使うことで、より早く市場に製品を投入できるからです。
最近では工場を買収し、お客様の要件に合わせた対応力を強化しました。モジュールを搭載する「キャリアボード」という基板の設計から量産まで、一貫して対応可能です。医療機器から農業まで、幅広い産業のお客様に対し、真のワンストップソリューションを提供しています。
ソフトウェア品質で差をつける、選ばれる理由と求める仲間
ーーお客様から選ばれる、最も大きな差別化ポイントは何ですか。
アルバロ・ガルシア:
最大の強みはソフトウェアの品質です。弊社は「メインラインカーネル」の活用を基本方針としており、可能な限り一般的なLinuxを使用することで、特定の開発元への依存を避けるよう努めています。このような柔軟性と将来にわたる安心感、そして開発からメンテナンスまでを一貫して提供するワンストップソリューションこそが、私たちの価値だと考えています。
ーー採用にあたり、今後どのような人材を求めていますか。
アルバロ・ガルシア:
技術や会社づくりに対する情熱を持ち、自ら考えて動ける方に来ていただきたいと考えています。弊社はまだ設立間もなく、すべてが決まりきったプロセスではありません。日本市場に合った最適な方法を一緒に模索し、実行していくことに面白みを感じてくださる方と、一緒に成長していけたら嬉しいです。
「入ってよかった」と思える会社へ 日本と海外の架け橋に

ーー5年後、10年後を見据えた会社のビジョンをお聞かせください。
アルバロ・ガルシア:
従業員に「この会社に入って良かった」と心から思ってもらえる会社にしたいです。努力が結果につながり、給料やボーナスとして正当に評価される。そして、自分の価値観と会社の方向性が合っていると感じてもらえる。そんな安定とやりがいに満ちた組織が理想です。
ーー事業を通じて、どのように社会貢献をしていきたいですか。
アルバロ・ガルシア:
日本の企業はリスクを慎重に考えるあまり、スピード感で海外に遅れをとりがちです。弊社の技術は、その開発リスクを肩代わりし、お客様がより迅速に製品を市場に投入できるよう支援することが可能です。海外の技術と日本のものづくりをつなぐ「橋渡し役」として、日本の製造業が再び世界で強くなるための一助となりたいです。
編集後記
「好きだから」という純粋な情熱を原動力に、異国の地で道を切り拓いてきたガルシア氏。その言葉からは、自身の成長を楽しむしなやかさと、事業への確固たる自信が感じられた。開発のリスクを自社が引き受け、顧客を価値創造の核心に集中させる。この明快なソリューションは、変化の激しい時代を勝ち抜く日本のものづくり企業にとって、力強い追い風となるに違いない。

アルバロ・ガルシア/1991年マドリード生まれ。2015年、マドリード工科大学にて電気工学の修士号を取得後、2018年に来日。Toradexにフィールドアプリケーションエンジニアとして入社。2022年、日本法人設立と同時に代表就任。現在もソフトウェアとLinux開発支援を続けている。