
画像技術とネットワーク技術を強みとする、株式会社エム・ソフト。AR(拡張現実)技術と3D画像技術を組み合わせた設備点検ソリューションなど、革新的なサービスを生み出している。そんな同社を今日まで支えてきたのが、1987年の創業当時にエンジニアとして入社し、2022年に代表取締役社長に就任した佐藤圭介氏だ。
同社の強みはどのように形作られてきたのか、佐藤社長にその経緯と今後の注力テーマなどをうかがった。
得意の画像処理技術を活かし、創業当時から成長に貢献し続ける
ーー佐藤社長の経歴をお聞かせください。
佐藤圭介:
私がソフトウェア業界に進んだのは、大学時代に専攻していた心理学の研究をするために、自らプログラムを組んでいたことがきっかけです。この経験からプログラムの可能性に気づいた私は、エンジニアとしてソフトウェア会社に入社し、汎用大型コンピュータのOS開発で画像処理機能の開発に携わるようになります。
そのとき出会ったのが、弊社の現会長である飯田です。飯田は私が所属していたプロジェクトのリーダーを務めており、彼がエム・ソフトを立ち上げるタイミングで、私も新しい環境に挑戦したいと思い、弊社に入社しました。
入社後は、スキャナー関連のソフトウェア開発やCAD(設計支援ツール)を使ったプロジェクト、プリンターや複合機向けの制御ソフトウェアの開発などを経験してきました。
長年勤めてきた実績が認められ、2022年に代表取締役社長に就任することとなりました。今は技術者出身の社長として、技術がもたらす価値を追求し続けながら会社の運営にあたっています。
ーー貴社ではどのような文化や社風を大切にしていますか?
佐藤圭介:
創業当時から一貫してエンジニアが活き活きと働ける環境をつくることを大切にしています。
創業者や役員がエンジニア出身ということもあり、気軽に意見を交わすことも多く、時には社員のアイデアが実際の事業として展開されるケースもあります。たとえば、自社開発の「Pinspect(ピンスペクト)」という設備点検サービスの中核となっているAR技術は、1人の社員の15年前の提案を出発点として発展して来ました。
良いサービスを生み出すには、エンジニアの自由な発想を形にできる風通しの良さが欠かせません。今後もこの社風を大切にし、革新的なサービスを生み出せる会社でありたいと思っています。
強みを組み合わせたソリューションで、医療や自動車、通信分野などを支援

ーー貴社の事業内容を教えてください。
佐藤圭介:
弊社の主な事業は、ソフトウェアの受託開発と、自社製品やサービスの開発の2つです。
受託開発においては画像処理ソフトやネットワークサービス、クラウドのインフラ構築などを請け負っています。自社製品の分野においては、先ほど紹介したAR技術を活用した設備点検・保守管理ソリューションのPinspect(ピンスペクト)や、AIで映像作品の画像加工が行える「RayBrid(レイブリッド)」シリーズなどを展開しています。
どちらの分野においても、特に顧客から評価されているのが画像処理技術とネットワーク技術の2点です。これの技術はさまざまな分野に転用が可能で、たとえば、医療現場におけるレントゲンの撮影装置や、自動車の製造現場における品質テストの自動化、さらに、NTTグループが推進する次世代光ネットワーク構想「IOWN(アイオン)」の基盤開発など、幅広い分野の業務に携わっています。
ーー貴社独自の強みはどのような点にありますか?
佐藤圭介:
弊社の強みは、先ほど挙げた画像処理技術とネットワーク技術という2つの軸を組み合わせて開発・提案ができることです。これらの分野は近年、目覚ましい発展を遂げているAI技術との相性が良く、組み合わせによって、さらなる効率化と精度向上が見込める将来性の高さを持っています。
この強みをさらに磨くために、筑波大学と協力して「映像共同研究所」という組織も立ち上げており、産学連携による新技術の開発に取り組んでいます。
また、エンジニアと顧客の距離感が近いことも強みの一つです。弊社のエンジニアは技術に対する探求心が高く、顧客の要望をかなえるために、密にコミュニケーションを取っています。この姿勢が結果的に顧客を深く理解し、ひいては顧客が本当に求めるサービスの開発につながっています。
IT業界の変化を先取りし、いち早く技術を習得・応用できる環境が整っている点も大きな強みです。これにより、エンジニアたちの技術が磨かれるのはもちろん、社会的に意義のあるプロジェクトに関われる機会も増えています。エンジニアとして成長したい、社会貢献がしたいという方は弊社と相性が良いのではないでしょうか。
市場の将来性を見極め、組織の若返りでさらなる成長を目指す
ーー今後注力したいテーマ、そして、目指したい会社の姿を教えてください。
佐藤圭介:
まず社内リソースを効果的に配置し、社員の成長環境をより良くするために、市場の将来性がある医療と自動車、そして光ネットワークの3分野への注力が必要だと考えています。ITツールの需要は、時代の変化に敏感に反応するものです。昨今はDXとAIによる新しいサービスが生まれているので、弊社だからこそできる価値の提供に集中すべきでしょう。
それと同時に、自社サービスの売上比率を20〜25%まで高めていきたいと考えています。特に、現在はプラントの定期点検業務を支援するシステムの需要が高まっているので、Pinspect(ピンスペクト)のアップデートを進めながら、さらに販路を開拓中です。
このようなビジョンを実現していくには、次世代を担う経営幹部やリーダーの育成が欠かせません。すでに40代後半の役員が経営の中枢を担い始めていますが、今後は若いうちから経営に関わる機会を増やしていき、社長も含めた社員の若返りを進めていく所存です。そのためには、キャリアよりも実力と適性を重視したリーダー選びを進めていきたいですね。
編集後記
AR事業の躍進からも分かるように、エム・ソフトが持つ本質的な強みは、エンジニアの自由なアイデアを引き出し、ビジネスチャンスにつなげられる好循環にある。画像処理技術とネットワーク技術の組み合わせをさまざまな分野に応用できるのも、この環境があるからこそだろう。今後、注力を目指す3分野でどのように価値を高めていくのか、注目したい。

佐藤圭介/1962年神奈川県生まれ、早稲田大学卒業。1985年にソフトウェア興業株式会社に入社し、大型汎用コンピュータのOS開発エンジニアを経て、1988年に株式会社エム・ソフトに入社。組込み開発エンジニア、管理業務を経て、2022年に代表取締役社長に就任。