※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

神奈川県横浜市都筑区に本社を構える株式会社トランスポートジャコは、東京湾近郊を中心に、冷凍・保冷輸送を24時間365日行っている会社だ。同社の代表取締役である坂本康朋氏は、肉体的に負荷が大きい運送業こそ社員第一を徹底すべきという考えを持ち、給与水準の向上と拘束時間の短縮にこだわり、社員が通いやすいようにと営業所の増設まで行った実績を持つ。

そんな坂本社長が目指す理想の運送会社とはどのようなものだろうか。坂本社長の経歴や経営に対する思いなどを聞きながら、その姿を追った。

父の会社で経営を学んで気づいた、社員の幸せの大切さ

ーー坂本社長の経歴をお聞かせください。

坂本康朋:
トランスポートジャコは、私の父が過去に会長を務めていたみのり運輸株式会社の子会社です。それだけに運送業は身近な存在で、幼いころから父の仕事を見る機会も多かったです。

大学卒業後は、修業のために別の運送会社に約1年勤めた後、みのり運輸に入社しました。それからは、ドライバーや配車業務、営業業務など、幅広い業務を経験し、入社から5年が経過すると専務として経営側に回るようになります。

社員の給与査定や会社の営業や資金繰りなど、お金に携わる仕事が増え、社員の待遇について考え始めたのもこのころからでした。

それらを、4年ほど専務を務め、2014年にみのり運輸の社長に就任しました。そして、2015年にトランスポートジャコに移籍して社長に就任し、現在に至るという流れです。

ーー坂本社長が会社を経営するうえで、大切にしていることは何ですか?

坂本康朋:
特に大切にしているのは、社員の生活や待遇を向上させることです。運輸業特有の、業務時間が長く、肉体的な負担が大きいというイメージを本気で変えたいと思っていて、つねに給与水準の向上と拘束時間の短縮を考えながら経営をしています。

私の理想は、ドライバーという仕事をしていても、社員一人ひとりがライフステージに合った働き方を実現できる組織です。そのため、限られた時間で生産性を高め、短時間でも収入がしっかり得られる環境づくりを続けています。

この取り組みは何も業務環境に限った話ではありません。弊社では、配送に出る前の自宅から営業所までの移動時間にも着目し、実質的な拘束時間を減らすために営業所の増設も行いました。これにより、社員のプライベート時間を増やせたのはもちろん、新たなポストの創出による社員のキャリアアップ促進も実現できました。

小型車両ならではの強みを活かしたサービスで、ニッチなニーズにしっかり応える

ーー貴社の事業内容と独自の強みを教えてください。

坂本康朋:
弊社の主な事業は冷凍・保冷輸送に特化した運送業務です。拠点は神奈川県横浜市、大和市、川崎市、船橋市、三郷市の5カ所あり、主に大手物流会社や商社などを顧客として、小型車両を中心とした配送を行っています。

弊社の強みは、小型車両による冷凍・保冷輸送に特化していることです。弊社のように車両を200台以上、ドライバー150人以上を抱える会社は珍しく、市街地のルート配送や小ロット配送に24時間365日対応できる数少ない会社としてポジションを確立してきました。

特に、ドライバーが多く所属しているという点は顧客からの信頼を得る点でとても重要です。昨今は配送ニーズが多様化している環境で、自社で直接対応してこそお客様の要望に応えられる部分も多いのです。

ちなみに、弊社では車両点検も自社で行っています。社内に整備担当がいるというのは安心できることで、車両トラブルの予防やサービスの品質維持などに大いに役立っています。

社員が成長できる環境を整え、一国一城の主が集まる会社を目指す

ーー貴社ではどのような人材が活躍していますか?

坂本康朋:
運送業は一人での作業が基本となるので、黙々と仕事に取り組める社員が多く活躍しています。弊社ではノルマを定めていないので、コツコツ働いて安定した収入を得たいという方も多く所属していますね。

意外かもしれませんが、他業種から転職してきたドライバーも多く活躍しており、元事務職や元営業職の社員が長く活躍しているケースもあります。

また、60歳を超えてから入社してくるドライバーがいるのも特徴です。弊社では短時間勤務や軽めのルート設定など、年を重ねても働きやすい環境を用意しているので、幅広い年齢の方から選んでいただいております。

ーー今後注力したいテーマと、目指したい会社の姿を教えてください。

坂本康朋:
優先的に取り組みたいのが財務体制の強化です。弊社がさらに発展していくには、まず中小企業の弱点である資金繰りの脆弱さを克服する必要があると考えています。事業を持続的に成長させるために、どこに投資を行い、どれだけのリターンが見込めるのかを慎重に判断しながら、財政基盤を強化していきます。

また、人事の面では管理職の育成と自律型組織の構築が大切だと考えています。今後の事業成長には営業所の増設が必要になってきますが、このネットワークを維持するためには社員一人ひとりが自ら考えて動けるようになることが必要です。

現在テスト運用している保管と配送の一貫サービスを広げていくことも考えると、各事業所ごとに最適な判断ができる人材を確保することが、当面の課題になるでしょう。

そして将来的には、各事業所の管理者が一国一城の主のように自立した組織へと成長させていきたいです。自分たちの考えで運営を進めつつ、必要な部分はしっかり連携する。これこそが私が目指す理想の組織像なのです。

編集後記

坂本社長が掲げる「社員第一の経営」は、キツイと言われがちな運送業界の常識を変える取り組みだ。同業界にモノを運ぶ社会インフラとしての一面があるからこそ、この姿勢には大きな意味があるといえる。本当の意味で物流業界の未来をつくるのは、ドライバーが安心して働ける環境の追求なのかもしれない。

坂本康朋/大学を卒業後、1年間運送会社で働いたのち、みのり運輸株式会社に入社。5年後に専務に就任し、その4年後に代表取締役社長に就任。翌年には株式会社トランスポートジャコの代表取締役に就任する。