※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

私たちの身近にあり、多くの製品やインフラに欠かせない特殊塗装。見た目を美しく保つだけでなく、耐久性や防錆、耐熱性を高めるという重要な役割を担っている。特殊塗装業界は競争が激化し、経営環境が一層厳しさを増す状況の中、株式会社トコウの代表取締役である斗光健一氏は、経営セミナーで学んだ理念を基に、新工場設立という大きな目標を実現させた。厳しい経営状況から、どのように組織改革を成し遂げてきたのか、その軌跡についてうかがった。

4ヶ月間のセミナーが転機!経営改革の軌跡

ーー代表取締役就任までの経歴を教えてください。

斗光健一:
大学卒業後に新卒で入社した会社では、イベント企画・運営の仕事に携わりました。上司に恵まれ、社会人としての心得をしっかりと教えていただき、大変充実した日々を過ごしました。特に、多忙な中でも部下の話に耳を傾け、トラブル時には矢面に立ってくれた当時の上司は、今振り返ってもすばらしい方だと思います。

順調に社会人生活を送っていた矢先、父の体調悪化の知らせが実家から入り、キャリアの岐路に立たされたのです。悩みましたが、家族の側にいることを選び、両親が1979年に立ち上げた有限会社トコウに入社。職人として現場の仕事を経験しながら、2008年に株式会社トコウを設立しました。

ーー苦労されたことや転機となったエピソードをお聞かせください。

斗光健一:
経営の素人だった私は、当初は本当に苦労しました。景気も悪化の一途をたどり、さらには銀行融資も打ち切られるなど、職人の仕事をしながら資金繰りに奔走する日々を送っていました。転機となったのは、尊敬する経営者から勧められて参加した、東京中小企業家同友会が行っている経営指針成文化セミナーです。

セミナーでは「何のために経営しているのか」を考えるところから始まり、経営者としての基本を学びました。専門家の助言を得ながら必死で考え抜き、最終的には会社の理念や経営計画書の策定まで到達できたのです。理念やビジョンが明確になったことで、やるべきことが具体的に整理されました。今ではセミナーで思い描いたビジョンどおりに実現できており、本気で取り組めば必ず道は開けると実感しています。

ーーセミナーで描かれたビジョンとは、具体的にどのようなものですか?

斗光健一:
たくさんの夢を描いたのですが、その中心になったのは「社員の幸せの実現」です。特に、3年以内の新工場設立が最も大きな目標でした。以前の工場は老朽化して薄暗く、社員にとって良い職場環境と言えるものではなかったのです。新しい工場で社員が気持ちよく働けるように、策定した経営理念や事業計画書を携え、銀行との融資交渉に臨みました。具体性の高いビジネスプランと、それを必ず実現させるという強い意志が評価され、融資を取り付けることができたのです。

当たり前の徹底で職場環境と社員の活気を改善

ーー貴社の事業内容とその強みを教えてください。

斗光健一:
弊社は、工業製品や各種金属の焼付塗装、粉体塗装から、プラスチック・樹脂製品・建築資材まであらゆる素材に対応できる塗装技術を保有しています。多種多様な特殊塗装に対応できるのが弊社の最大の強みです。長年積み重ねてきた実績が職人の確かな技術となり、会社の財産となっています。10年ほど前までは、町工場や中小企業との取引が中心でしたが、ホームページを充実させ、戦略的に活用したことで、有名テーマパークや航空機関連の塗装依頼も増えてきました。

ーー職場づくりについて、どのような取り組みをされていますか?

斗光健一:
社員同士が良好な人間関係をつくるために「挨拶の徹底」を大切にしています。基本的なことですが、当初は挨拶さえ交わされない職場だったことを考えると、大きな変革でした。「社員が幸せな会社」を目指すために、コミュニケーションの充実をはかる第一歩として、挨拶から取り組んだのです。この「当たり前」を徹底した結果、社内の雰囲気もどんどん良くなり、社員全員が生き生きと働ける職場へ生まれ変わったと実感しています。

社会課題の解決と業界全体の前進を目指して

ーー今後はどのようなテーマに注力されますか?

斗光健一:
まずは、新商品開発に注力していきたいと考えています。多種多様な特殊塗装に対応できる技術力を活かし、社会課題の解決と収益化を両立できるオンリーワンの技術を模索中です。具体的には、産業廃棄物として処理するしかなかった塗料の再資源化に取り組んでいます。環境負荷の軽減を目指して専門家に相談し、微生物分解技術を活用した塗料の再資源化(ペレット化)を実現することで、自社での再資源化を可能にしました。着実に成果も出てきており、今後もSDGsにつながる新商品開発を推進していきます。

また、人材採用強化も重要な課題です。これまでは中途採用を中心でしたが、今後は新卒採用も積極的に行っていく予定です。業界全体で人手不足が深刻な中でも選んでいただける企業を目指し、魅力ある組織づくりに取り組んでいきます。

ーー最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

斗光健一:
社員の幸せを追求する基本姿勢を徹底して継続しつつ、新たな挑戦も続けていきたいと考えています。現在は塗装業界全体の発展も視野に入れ、かつてライバルだった同業者との協業による新しい取り組みを構想しているところです。塗装業者はそれぞれ得意分野を持っていますが、その優れた技術をホームページやSNSで効果的に発信できていないという現状があります。今の状況では、貴重な技術が埋もれてしまうだけでなく、業界全体の衰退にもつながりかねません。

そこで、塗装業者を一元的に管理できるシステムやネットワークの構築を通じて、お客様と塗装業者の双方にメリットをもたらす、職人とデジタルが融合したプラットフォームの実現を目指しています。

私がここまで会社とともに成長できたのは、単なる幸運ではなく、前を向いて進もうとする姿勢があったからだと思います。下を向いていてはチャンスを見逃し、周囲からの支援も得られません。気持ち次第で人は変わることができます。運命は変えられるという信念のもと、これからも社会課題の解決と社員の成長を目指して前進していきます。

編集後記

厳しい経営状況を変えたのは、斗光社長の強い意志と行動力だった。人生を賭けて参加した経営セミナーで培った理念から導き出された具体的な計画と、絶対に実現させるという強い決意が成功の鍵となった。社員の幸せを第一に考えたビジョンを掲げ、困難な状況を乗り越えながら着実に成果を上げてきた姿は、リーダーとしての真摯な姿勢と情熱を感じさせる。今後、起業を目指す人や中小企業の経営者にとって、斗光社長の歩みは大きな希望となるに違いない。

斗光健一/1973年東京生まれ、函館大学卒業。イベント企画・運営会社に入社し、3年の修行期間を経て、2000年、有限会社トコウに入社。2008年に株式会社トコウを設立。