※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

TOTALMASTERS株式会社は、土木建築工事のほかに測量事業やDX推進事業、ICT開発事業など多角的な事業展開を行う企業だ。自社でシステム開発を行い、現場で検証を重ねながら日々改善に取り組んでいる。

会社の方向性を見直すきっかけとなった東日本大震災での経験や、地域復興に向けた取り組みなど新たな挑戦を続ける、代表取締役の玉里芳直氏に話をうかがった。

独立のきっかけとなった恩師との出会い

ーーまず土木業界で働き始めたきっかけをお聞かせください。

玉里芳直:
特に興味をひかれるものがなかったので、中学を卒業した後は進学せず、土木工事のアルバイトを始めました。ただ、成り行きで始めた仕事だったので、最初のうちは毎日辞めたいと思いながら働いていましたね。はじめはこんな調子でしたが、仕事を覚えてくると次第にやりがいや、まわりの人に頼られることに喜びを感じるようになり、土木の仕事にのめり込んでいきました。

この職場で私は、私の人生を大きく変える人物と出会います。その方の名前は掛田真一郎さん。職場の番頭だった彼からは、仕事への姿勢や相手の心をつかむコミュニケーション術など、社会人にとって大切なことを教わりました。

ーー独立のきっかけを教えていただけますか。

玉里芳直:
あるとき掛田さんから、「ある程度仕事を覚えて、お金もたまっただろうから、そろそろ独立したらどうだ」と提案されたのがきっかけです。ただ、私は中学を出てすぐ働き始めたので、世の中のことを知らないまま事業を始めることに不安を抱きました。

そこで、世の中のことを勉強する期間を、1年間設けることに。仕事の合間を縫って“投資の神様”と呼ばれるウォーレン・バフェットや、“伝説の経営者”の異名を持つジャック・ウェルチの書籍などを読み漁り、世の中の仕組みを探求しました。

そして、2001年にトータルマスターズを起業し、2004年に法人化。掛田さんから独立を勧められなければ起業することはなかったので、掛田さんは私の経営者としての原点をつくってくれた恩人です。

東日本大震災の復興支援をきっかけにICT事業をスタート

ーー改めて貴社の事業内容と強みを教えてください。

玉里芳直:
弊社は土木事業を主としながら、測量事業やDX推進事業、開発事業も行っています。開発事業では重機の作業効率を向上させるシステムや、三次元設計データを活用した測量技術など、建設工事の作業効率を高めるICT(情報通信技術)ソリューションを開発し、提供しています。

小規模の土木会社でありながらシステムの研究開発を行い、自社でプロダクトを提供しているところはあまりないと思いますね。

ーーICT技術を取り入れるようになったきっかけをお聞かせいただけますか。

玉里芳直:
大きな転機となったのが、東日本大震災の被災地復興支援に携わったことです。

その当時は、ベテランの事業者が先に仕事を獲得し、余った仕事が私たちのところに回ってくるという状態。「どうせ努力してもこの状況は変わらないだろう」と諦め、とりあえず来た仕事をこなすという日々。新しいことに挑戦する意欲もなく、「自分と従業員が食べていける分の利益を確保できればいい」と考えていました。

そんな中、東日本大震災が発生し、多くの人手が必要となったため私たちも応援に行くことに。そのときに知ったのが、国土交通省が推進していた建設現場でICT技術を活用する情報化施工(後のi-Construction)です。この技術を自社で取り入れれば、他社との差別化につながり、「順番待ちをしなくても自分たちで仕事を取りにいける」と考え、ICT事業への参入を決めました。

数字を追い求めるよりも、自分たちの信念を大切にしたい

ーーICT事業に参入してからどのような変化がありましたか。

玉里芳直:
他社に先んじてICT技術を導入したことで、年間2〜3億円だった売上が、ピーク時には20億円近くまで伸長。このままいけば、年間300億円の達成も夢ではないところまで会社は成長しました。

ところが、ふと従業員に目を向けてみると、仕事に追われていて、あまり幸せそうには見えない。私自身も日々の仕事をこなすのに精一杯で、達成感も味わえていませんでした。

そこでいったん立ち止まり、「私たちが社会から必要とされるものは何か」と会社の存在意義を考え、企業のミッション・ビジョン・バリューを策定。小さな土木業者ではなかなか踏み出せない、ICT技術の研究開発を行い、「Waktech MGS」を開発しました。現在では民間建築現場にサービスを提供しています。

ーー最近手掛けている、新規事業についてもお聞かせください。

玉里芳直:
能登半島地震で被害を受けた能登地方の復興の一環として、農業や奥能登ならではと思えるような事業の創出に取り組んでいます。

1つ目が、米ぬかを使った酵素風呂事業です。珠洲市に施設をオープンする予定なので、まずは地域の方々や他県から来ている労働者の方々に心や身体をケアしてもらい、英気を養ってもらえればと思っています。

2つ目が、農作物の栽培です。発酵させた米ぬかを撒くことで土の温度を上げ、pH(溶液中の水素イオンの濃度)を上げることで美味しい野菜をつくれるよう研究を重ねているところです。これにより震災で大きな影響を受けた一次産業を復活させ、石川県から新しい栽培技術の構築と、新たな市場を広げる一助になれたら嬉しいです。そして、発酵は日本の伝統文化だと思っているため、それをアピールし、ゆくゆくは海外展開できたらと夢を膨らませています。

こうした取り組みを始めたきっかけは、現地で復興活動をする中で、「50年後、100年後を見越した地域の復興」が不可欠だと感じたから。被災地の復興ではどうしても生活を立て直すことが優先され、道路整備や住宅の再建に目が向きがちです。しかし、街の再生には今必要なものだけでなく将来のことも意識し、どのようなインフラが必要かをもっと考えるべきだと思っています。これからも石川県の魅力をアピールしながら、みなさんが笑顔で暮らせるよう支援していきたいです。

ICT技術を使って宇宙事業に参入したい

ーー最後に、今後の展望を教えていただけますか。

玉里芳直:
機械施工の技術をアジアに展開したいと思っています。これから途上国の発展に伴い、建設需要は高まっていくことが予想されるため、ICT技術を提供し、工事の効率化を支援していきたいです。また、工事の効率化によって工期を短縮すれば、重機の稼働量を減らすことができるため、環境保護にもつながると考えています。

また、10年後、私が55歳になるまでには、宇宙関連の事業に携わるのが目標です。ICTの遠隔操作の技術を応用し、将来的には惑星間での資源採掘や輸送事業を手がけたいと考えています。スケールの大きな夢ではありますが、これまで通りとにかくやってみる姿勢を大切にし、目標達成を目指して進み続けます。

編集後記

「人との出会いで自分の人生が大きく変わった」と話す玉里社長。その言葉通り、恩師の助言や復興支援に携わったことが契機となり、今の事業につながってきた。TOTALMASTERS株式会社はこれからもICT技術を活用して建設現場の効率化を進め、今後も地方や発展途上国の発展に貢献していくことだろう。

玉里芳直/1980年、三重県生まれ。中学卒業後に始めた土木の仕事で才能を見出され、恩師である掛田氏の勧めで独立を決意。2001年に個人事業を立ち上げ、2004年にTOTALMASTERS株式会社を設立。「携わるすべてを追求して極める」という思いを胸に、建設の新しい在り方を追求している。