
駅ビルの商業施設として有名なルミネ。同施設にある小売・飲食店舗の運の運営を任されているのが、ルミネ100%出資の株式会社ルミネアソシエーツだ。同社の代表取締役社長である三井剛氏は、この「駅」という独自の立地を活用し、人々の生活に溶け込む店舗運営を進めている。
そんな同社が目指す店舗運営の理想像とはどのようなものか。三井社長の価値観を深掘りしながら、将来へ向けた取り組みや残された課題などをうかがった。
JRグループでの経験を活かしてルミネアソシエーツの社長に
ーー社長の経歴をお聞かせください。
三井剛:
私は大学時代に、人々の生活に深く関わる「まちづくり」の仕事がしたいと考え、大学卒業後は、まちづくりの中心となる駅開発を行っているJR東日本に入社しました。入社して5年間は、鉄道建築や駅周辺の建設プロジェクトを担当し、ホテルや病院のような大きな建物の開発にも携わりました。
入社後6年目に、エキナカ開発を手掛けるグループ会社へ出向となり、仕事のフィールドを店舗開発へと移すことになります。そこで私は、当時の駅の商業開発が余ったスペースの活用にのみ留まっていることに気がつき、コンセプトに基づいた空間設計に挑戦し始めました。
こうして携わることになったのが、エキナカ商業施設「エキュート」の開発・運営です。ここでは、様々な経験を積みに従い、課長職、部長職、そして社長職まで、幅広い役割を担うようになりました。
ここから約12年間、エキナカ開発に携わっていましたが、次の異動先として、今度はJR東日本の海外展開のため、シンガポールへ赴任しました。ここでの主なプロジェクトは、現地の鉄道事業者の開発案件や訪日外国人旅行者向けの施策などです。現地には約4年間滞在し、日本に帰国してからは、JR東日本本社で海外事業を含む新規事業の開発を行っていました。
その後、2022年にルミネアソシエーツに社長として異動し今に至ります。これまでさまざまなキャリアを積んできましたが、一貫して皆様のまちづくりに携わる場で経験を重ねてきました。
ーー社長として、仕事をする上で大切にしていることは何ですか?
三井剛:
仕事をする上で大切にしているのは、コンセプトを持って動くことです。私がまちづくりを軸にキャリアを積み上げてきたように、ぶれないコンセプトがあれば、日々の行動がそこに集約されていき、積み上がっていきます。
チームプレイが基本となる会社では、この考えがさらに大切になっていきます。社員たちがコンセプトを共有できていれば、積み上げるべきものやプロジェクトのゴールが明確になり、一貫性のある成果につながるでしょう。
私は、普段から社員に対して「この取組のコンセプトは何か?」と問いかけるようにしています。ここがしっかりしていれば、集まった社員たちの役職や立場が違っても、一人ひとりが自分の役割を果たしながら協力し合えると思うからです。
駅という場所にあるからこそ磨かれる強みがある

ーー貴社の事業内容と独自の強みを教えてください。
三井剛:
ルミネアソシエーツは、ルミネという商業ディベロッパーの中で、直営で店舗運営を担う「戦略子会社」のような存在です。ルミネが目指すライフスタイル提案の一部として、コスメショップやフラワーショップ、カフェといった、日常を彩る商品やサービスの提供に力を入れています。
代表的な店舗は、オリジナル店として20年以上続くフラワーショップブランドの「フルラージュアン」や、「タリーズコーヒー」、「プロント」などのフランチャイズ店などがあります。なお、ルミネ以外の商業施設からも要望により、出店に応じてきました。
弊社の強みは様々な経験を持つ人材にあると思っています。いわば、従業員たちが駅という厳しい環境で磨いてきた「人財力」です。弊社の就業環境は駅ビルやエキナカという独特な場所に置かれているため、社員一人ひとりが、業務を通じて高い対応力を身につけています。
駅という臨機応変な対応が求められる立地で長年成長を続けられているのも、高い人材力を持つ従業員たちのおかげだと思っています。現場で鍛え上げてきた素早く顧客ニーズを汲み取る力があれば、弊社は今後も高い競争力を維持していけるでしょう。
独特な立地を活かし、人々の生活に深く溶け込む存在を目指す
ーー人事や教育の分野において、今後注力したいテーマをお聞かせください。
三井剛:
人材の世代交代を実現するために、会社への業務ノウハウの蓄積や人材育成のアップデートに取り組んでいきます。創業から30年以上が経過し、従業員たちの世代交代が激しくなってきた今こそ、この課題に取り組むべきだと感じています。
そのために大切なのは、人材育成のコンセプトをしっかりすることです。お客様の生活に親身になり、良きパートナーを目指すという弊社独自の人材ポリシーをコンセプトに据え、この理想像の実現に向けて、一丸となって取り組んでいく所存です。
そして、この大きな理想像の実現には、親会社であるルミネや、さらにその親会社であるJR東日本との人材交流がカギだと考えています。さまざまな環境で働くことで、広い視野を養ってもらい、弊社の経営に携われるような人材を増やしていきます。
ーー将来的に、貴社をどのような姿に成長させたいとお考えですか?
三井剛:
弊社は企業理念として「“a” good partner」をかかげています。人々の生活に溶け込み、豊かさや彩り、安心や心地よさをご提供するために、お客様、取引先、そして社員にとっての「グッドパートナー」となることが重要だと考えています。関わる全ての人に良い影響を与えられるような存在になれれば、企業としての存在意義が果たされるはずです。
弊社は会社の知名度は低いですが、店舗は日ごろから多くの方にご利用いただいております。この「気づいたらルミネアソシエーツの店舗を利用していた」という形は理想形とも呼べる姿です。今後もこの姿を維持しながら、社員たちが胸を張って働ける会社であり続けられたらと思っています。
そのためにも、今までのブランドを大切にしながら、今後は皆様の生活により近い「食」分野の強化や、文化交流の場となるための「イベント事業」の推進など、新たな役割を担う挑戦が必要になってくるでしょう。
駅という場所で営業している弊社にできることは、想像よりもかなり多いと感じています。これからも皆様の生活に近い場所から生活を彩るモノ・コトのご提供を大切にしながら、新しいことに挑戦し続けていきます。
編集後記
駅という日常の中にある場所で成長してきた同社は、今後どのようなライフスタイルを提案するのだろうか。もしかしたら、その提案にすら気づかずに使っている未来もあるかもしれない。きっとそんな姿こそが本当の意味で「生活に溶け込む」ということなのだろう。同社はやがて、日常生活コンシェルジュのような存在になるのではないだろうか。

三井剛/1972年東京都生まれ。1995年新卒でJR東日本に入社。駅施設など鉄道建築の営繕や新設業務を経験し、2000年よりエキナカ事業に従事。2006年JR東日本より株式会社JR東日本ステーションリテイリング(現・株式会社JR東日本クロスステーション)に出向、2012年同社代表取締役社長。2016年JR東日本に復職し、JR東日本シンガポール事務所、本社新規事業開発部門を経て、2022年に株式会社ルミネアソシエーツ代表取締役社長に就任。