※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

桐原書店を退社した元社長や元専務執行役員、元常務執行役員たちによって設立された、いいずな書店。英語副教材『Vintageシリーズ』や国語副教材『プログレスシリーズ』などの学習教材を手がける教育出版社であり、中高生が1度は使ったことがある書籍を多数生み出している。

同社の書籍が多くの学校で選ばれるのには一体どのような理由があるのか。取締役会長の前田道彦氏に、本づくりへの思いを聞いた。

本づくりで意識しているのは「学習者について知ること」

ーー創業までの道のりを聞かせてください。

前田道彦:
前社長の山崎から声をかけてもらう形で、桐原書店という教育出版社で営業の仕事に携わったのが私の最初のキャリアです。学校の先生から現在の困りごとや生徒の状況、学習計画などを聞き、それに合った教材を提案していました。

営業の仕事はとても面白く、営業成績もどんどん上がっていったため、この業界は水があっていたのだと今では感じています。同社で営業だけでなく、会社の体制の立て直しなどにも関わらせてもらいました。

その後、桐原書店の創業者たちと一緒に弊社を立ち上げ、創業から3か月目に代表取締役社長に就任した次第です。

創業当初は資金面に余裕がなく、商品もない状況で大変でした。ただ、桐原書店から来てくれた社員も多く、彼らは本づくりと営業の超ベテランですから、最初から10万冊以上売れる書籍を出版できました。

最初の本が売れて、ぐるっと歯車が1周回るまでが大変でしたが、このときにスピード感を持って成長できたからこそ、今のいいずな書店があるのだと感じています。

ーーどのようなことを意識して、営業や本づくりを行っていますか。

前田道彦:
最も意識しているのが、どれだけ生徒のことを知れるかという点です。たとえば弊社では、毎年の定点調査やアンケートを通して、生徒の学習状況を分析しています。学習者である生徒たちが、日々の学習において「何を分かっていないのか」を、私たち出版社側が理解することが大切だと考えています。

また、世の中には生徒ではなく、先生の目線でつくられている本も多いですが、本を実際に使って学習するのは生徒です。そのため、たとえば弊社の書籍『総合英語Forest(現在の総合英語Evergreen)』は、先生がいなくても、生徒が読んで理解できることを意識して制作しました。

「その本をどんな風に読んでもらいたいか」を考える力が出版社の仕事には必要

ーー教育出版社として、大切にしている価値観や考えを教えてください。

前田道彦:
大切にしていることの1つは、学習者優先の考えです。本は読んでもらわなければただの紙ですから、必要な人に必要な情報を提供できるよう意識しています。

また、学習者が「世の中に対して主体的になること」を助けるのも、私たちの仕事です。たとえば弊社の教科書『New Rays』は、学習者の心を動かし、感動させ、自分で考えることを促しているのが特徴です。

考える力は大人になってからも欠かせません。その考える力を育むために必要なのが感動です。将来人の役に立つ人間になってほしいという思いで、心を動かし、感動させ、自分で考えさせる本づくりを大切にしています。

ーー貴社で働くにはどのような能力が必要ですか。

前田道彦:
自分で企画を立て、制作した本をどのように読んでもらいたいか想像できる力が必要です。自分で考える力を身につけてもらうためにも、私は社員の意見を頭ごなしに否定することはありません。

また、私は「議論すること」が成長には必要だと考えています。なぜなら、議論することで考える力が身につくからです。そこで、議論を促進するべく、コミュニケーションの一環として、新型コロナウイルス感染収拾後、会社のメンバーとの社内での飲み会を始めました。私は、考える人を育てることで出版社も育つと思っています。

今後は学校への直接営業や他社とのコラボに力を入れていく

ーー今後の注力テーマを教えてください。

前田道彦:
学校、特に高校への直接営業に力を入れていきたいです。公立高校に関しては、他社との公平性の観点から弊社の書籍を3年間ずっと使ってくれることは珍しいので、取引先の学校数が毎年変動することを前提に営業をしていきます。

また、コラボにも注力したいですね。現在はコラボをしている取引先が1社だけなので、コラボ先の企業を増やし、お互いの良いところを提供し合えるような関係性を構築したいと考えています。

そのほか、管理部門の人材の採用・育成に力を入れる必要もあります。弊社の管理部門は先生たちからさまざまな質問を受けるので、教材に対する深い理解が求められる、非常に難易度の高い仕事です。

先生方のニーズを読み取って、カタログに書かれていること以上のことまで答える能力が必要ですが、そういった能力はすぐに身につくものではありません。そのため、管理部門の仕事にしっかりと対応できる人材の育成を進めていきます。

編集後記

いいずな書店の書籍が多くの学校で活用されているのは、学習者視点の追求に妥協しない姿勢が理由なのだと取材を通して感じた。

「感動を与えて、自分の頭で考えられる人材を育てる」いいずな書店の価値観は、他社にはない唯一無二のもの。今後もその強みを活かし、書籍を通して多くの生徒たちの成長を支えてくれることに期待したい。

前田道彦/桐原書店で営業職などの経験を積んだ後、2007年いいずな書店を創業、代表取締役社長に就任。現在は取締役会長。