※本ページ内の情報は2025年12月時点のものです。

個人の学び直しやリスキリングの重要性が高まる一方、経済的理由で教育へのアクセスが閉ざされる課題も深刻化している。株式会社EduCareは、「Fintech(教育ローン)」と「HR(キャリア支援)」を両輪で手がける日本でも珍しい教育ファイナンス専業のスタートアップである。GE、KPMGというプロフェッショナルファームで腕を磨いた代表の村上健太氏は、自らの原体験を胸に、この社会課題の解決に挑む。同氏が描く「ロマンとそろばん」を両立させた未来像に迫る。

原体験に基づく「教育と金融」への使命感と決意

ーー起業を志した経緯と、現在の事業を始めるまでのキャリアについて教えていただけますか?

村上健太:
両親がそれぞれ麻雀屋と着物屋を営む商売一家に育ち、私も「事業をしたい」という思いが幼い頃から強くありました。大学の時に実家の家業の状況が悪くなり、学費が払えなくなりそうになった経験から、将来は「教育×金融」の領域で事業をしようと決意しました。

金融は学生起業でできる領域ではないため、まず修行が必要だと考え、GEで金融の考え方と法人営業を学び、KPMGではM&A支援のアドバイザーとして5年間、企業の資金調達などを担当するキャリアを選びました。このKPMG時代の経験が、今スタートアップの当事者として資金調達を行ううえで、直接活きています。

ーーこの領域で事業化を決めた理由は何でしょうか。

村上健太:
会社を辞めてから、改めて当該領域をリサーチしたところ、学生の二人に一人が教育資金が足りずに奨学金を利用し、奨学金やローンを借りたとしても卒業後の返済で結婚や住宅購入ができないといった深刻な社会問題化している現実がありました。しかし、この「教育ファイナンス」を専業で手がける民間企業が日本には一社もありませんでした。

私は、この課題解決は社会的に大きな意義があると確信しました。同時に、ビジネスとしても競合がいないことから、大きなインパクトを与えられると考えました。これこそが、私の人生をかけるに値するテーマだと感じています。

金融とキャリア支援が実現する独自の価値提供

ーー貴社の最大の強みは何でしょうか。

村上健太:
強力な法律事務所のサポートのもと、厳格な法令遵守と情報分離・独立性担保を慎重に進めながら、「Fintech(教育ローン)」と「HR(キャリア支援)」の二つを組み合わせていることにあります。教育ローンについては、親の与信などで教育資金のアクセスが得られなかった学ぶ意欲がある方に、将来の稼げる力を可視化した「未来志向」のローンの提供をすべく進めています。

ですが、教育ローンの提供だけでは、「学校に行ける人を増やす」という点では意義があるものの、当然ながら卒業後に返済義務が待っています。たとえば、リスキリング費用を補助してくれるような「人に投資」する企業(人的資本投資に熱い企業)や、学生の奨学金を代わりに返済してくれる企業(「奨学金代理返還制度」の導入企業)に就職できれば、収入が上がる、もしくはローンの返済負担が減り可処分所得が上がります。そういった形で、学校に行きやすくなり、かつ、卒業後の返済負担も軽くなるような、その後のキャリアまで支援していく会社になりたいと思っています。お金が「足りない」で学びを諦める人を減らし、お金が「返せない」で縛られる人を減らしたいと考えています。

ーービジネスモデルとしての優位性はいかがですか。

村上健太:
一見、教育ローンは金利だけで見ると、儲かるビジネスではありません。しかし、学生にとって奨学金や教育ローンは、人生で「一番最初」に接する金融商品です。私たちは教育ローンを通じて学生との「タッチポイント」を早期に作ります。これにより、たとえば就職後に私たちの提携する銀行を「ファーストバンク」として口座獲得を提案したり、保険や証券、住宅ローンなどその他金融商品をクロスセルすることにつなげたりできます。社会性だけでなく、ビジネス的にもメリットが出てくる構造を確立できると考えています。

「金利のある世界」になり、多くの金融機関がリテールに注力していく中で、いままで社会性があるだけであまり見向きもされなかった教育ローン事業が、学費の高騰や人材不足といったマクロトレンドも重なり、「営利ビジネス」として少しずつ見直されているように感じます。

教育の機会平等に貢献する新しい金融の仕組み

ーー貴社が目指す役割や目標と、事業判断の軸についてお聞かせください。

村上健太:
ビジョンとして「Make Education Affordable(〜教育をより手軽に〜)」を掲げるとともに、コーポレートスローガンとして「学ぶ人のための、新しい銀行をつくる」というスローガンを掲げています。国の機関である日本学生支援機構はありますが、民間で教育のお金を供給する専業プレイヤーはいません。私たちが、民間の金融機関や公的機関と手を取り合いながら、第二、第三の奨学金プレイヤーとして、奨学金領域の金融機関を創りたいと考えています。

ーー事業を形にするうえで、メンバーに求めていることは何ですか。

村上健太:
起業して半年ほどは孤軍奮闘で、事業としては何も進まない時期がありました。転機となったのは、「私は無力で、人の力を借りなければいけない」と認めたこと。「私はこれがやりたい。でもこのスキルが足りないから、あなたの力を貸してほしい」と伝えるようになってから、仲間が増え、事業が少しずつ形になりました。

この経験から、私たちが大切にしているのは、メンバー一人ひとりがオーナーシップを持つことです。起業当初は、社長である私自身がすべてを担おうとして限界を感じました。大企業とは違い、人・もの・金がないスタートアップでは、お客様の開拓から経理業務まで、あらゆることを当事者としてやりきる姿勢が不可欠です。だからこそ、メンバーにも「自分の仕事だ」という当事者意識(オーナーシップ)を持って働いてほしいと求めています。

前例を覆す日本初のビジネスモデル構築に向けた戦略

ーー今後の戦略について教えてください。

村上健太:
最重要テーマは採用の強化です。

Fintech事業では、金融機関と連携して「教育ローンでもビジネスとして成り立つ」という日本初の先行事例をいち早く作ることが重要で、アメリカのsofiなどをベンチマークとしています。一つ事例ができれば、前例を重視する他の地銀などとも連携できると考えています。金融機関とのアライアンスを深め、このFintech事業をビジネスとして大きくできる事例を作り、全国に広げていくのが当面の戦略です。

また、HR事業については、11月にローンチを予定しており、いかに早く、このHR事業を弊社の主要な収益源(柱)にできるかが重要なテーマとなっています。Fintech事業は資金回収に時間がかかるため、HR事業との組み合わせが拡大の鍵となります。

ーー今後、どのような人材を求めますか。

村上健太:
ゼロからイチを立ち上げることにワクワクする人、そして私たちの社会性への思いに共感してくれる人です。私たちは日本でまだ誰も取り組んでいない、前人未到なことをやろうとしています。難易度は非常に高いですが、その分、達成できた時の社会へのインパクトは計り知れません。そういった挑戦に面白さを感じてくれる人は、ぜひ仲間になっていただきたいと考えています。

編集後記

「学ぶ人のための新しい銀行」という壮大な目標と、「教育ROI(投資対効果)」という合理的な考え。村上氏の話からは、その両方を高いレベルで両立させようとする強い意志が感じられた。GE、KPMGで培われた金融の専門性と、自身の原体験に基づく社会課題への情熱こそが、同社を動かす力だ。資金調達の難しさから「教育ローンは利益が出にくい」とされてきた領域に、キャリア支援を組み合わせて新たなビジネスモデルを確立し、既存の常識を打ち破ろうとしている。同社の前人未到な挑戦に、これからも注目していきたい。

村上健太/1991年東京都生まれ。東京大学卒業後、GE(米General Electric)日本法人にて金融事業で法人営業。KPMG FASにてM&Aアドバイザリー業務を5年間従事。2022年に、教育ローン・奨学金特化のFintechスタートアップ株式会社EduCareを創業。