※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

障がい福祉サービスやグループホーム、居宅介護事業などを展開する株式会社ふくしねっと工房。同社の代表取締役を務める友野剛行氏は、高齢者や障がい者など、一般住居の入居が困難な方々の居住支援を行う株式会社あんどの共同代表も務めている。

障がいを持った方の就業や居住地の支援事業を始めたきっかけや、従業員の独立支援を行う理由などについて、友野氏にうかがった。

障がいを持った方が日常生活を送れる場所をつくるため起業

ーー起業の背景についてお聞かせください。

友野剛行:
起業のきっかけのひとつが、無認可福祉作業所で所長をしていたときに、障がいを持った方の生活面のサポートをする場所の必要性を強く感じたことです。

あるとき、自閉症の方が建物から落下して半身不随となり、医療的なサポートが必要な状態になってしまいました。また、ご家族が相次いで亡くなられ、身寄りがいなくなってしまった人もいました。

こうした出来事があり、障がいを持つ方が医療的ケアを受けられ、生活を送れる場所が必要だと痛感したのです。そして、大きな転機となったのが、2006年の会社法の改正です。この法改正により資本金1円からでも起業できるようになり、会社を設立するハードルが一気に低くなりました。また、同年に障がい者自立支援法ができ、一般企業も福祉サービス事業に参入できるようになったのです。

そこで「私が彼らの生活を責任を持って支えていきたい」と思い、起業を決めました。そして、2008年に就労継続支援と生活介護のサービスを提供する「ワーカーズハウスぐらす」を開設しました。

ーー起業当時の苦労や印象に残っている出来事をお聞かせいただけますか。

友野剛行:
開業に際し、利用者の方々や職員たちに「移籍するかどうかはご自身で判断してください」と伝えました。すると、全員がついてきてくれたのです。これは利用者の方々と信頼関係を築いていたのが大きかったと思いますね。

子育てで疲れ切っている親御さんを見て、「お父さんお母さんだけで旅行に行ってきてください」と、個人的に自宅でお子さんを預かったこともありました。また、自宅に送迎するときに、「コロッケつくったから持っていって」など、ご家族の方に親切にしていただいたこともあります。こうした姿を見て、従業員たちも「私も友野さんのもとで働きたい」と思ってくれたのではないかと思っています。

ただ、所属していた団体から反感を買い、利用者の保護者の方々や職員も巻き込んでしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。それでも飲み会に誘ってくれるなど、温かく接してくれて、「この人たちのためなら、どんなつらいことも乗り越えられる」と思いましたね。

事業拡大の後押しとなった社会的要因。居住支援事業を立ち上げたきっかけ

ーー起業からどのように事業を拡大していったのですか。

友野剛行:
弊社ではチラシの配布や公民館の清掃、アパートの管理業務などを請け負っています。障がい福祉事業所は、厚生労働省から支援金が支給されるため、人件費を抑えられる分、業者よりも安く依頼を受けていました。

そうした中、起業した2008年にリーマン・ショックが起き、日本経済は大打撃を受けます。すると安い費用で依頼したい企業から、次々と依頼が舞い込んできたのです。こうしてコストを抑えたい企業と、障がいがあっても取り組める仕事を請け負いたい弊社のニーズが合致し、事業は順調に成長していきました。

従業員の独立を斡旋することで生まれる多くのメリット

ーー貴社では従業員の方々の独立支援を行っているそうですね。

友野剛行:
後進の育成に力を入れているのは、障がい福祉事業施設にとって後継者が途絶えることはあってはならないからです。障がい福祉は、お子さんが高齢になるまで責任を負います。つまり私たちの方が先に寿命を迎えるため、今のうちから後継者を育てておかないといけないのです。

独立を希望する従業員には、利用者さんに「この人についていきたい」と思ってもらえるような支援者になることと、経営者に必要な資質を身に付けさせています。また、3〜5年の返済を目途に、起業に必要な資金を貸し付けています。

この制度を活用して多くの従業員が独立し、経営者として活躍していますね。こうして新たなキャリアを用意することは、従業員のモチベーションアップにもつながっています。

事業所は国から支給される運営資金の中から賃金を支払うため、一定のところで昇給がストップします。すると「頑張っても評価されない」とモチベーションを失い、離職につながっています。一方、弊社では経営者になるという次のステップが見えるので、目標に向けて前向きに仕事に取り組めるのです。

なお、従業員の独立を促しているのには、施設の規模を拡大し過ぎないためでもあるのです。施設が大きくなり収容人数が多くなると、その分スタッフの負担が増えてしまいます。そのため事業所の数を増やして利用者が分散することで、サービスが行き届くようにしています。

ーー2018年に設立した株式会社あんどについて教えてください。

友野剛行:
新しく会社を立ち上げたきっかけは、従業員の独立を斡旋したことで同業が増え、特別支援学校の卒業生が分散し、ふくしねっと工房の売上が減ったことでした。これは喜ばしいことなのですが、10年黒字だったところから1000万円の赤字になり、このまま他と同じことをしていては駄目だと思ったのです。

そこで、自傷・他害行為をしてしまう強度行動障がいを持つ方や、前科がある方を受け入れるグループホームをつくろうと考えたのです。講演活動や執筆活動などで露出を増やしていった結果、多くの入所希望者が集まり、2.5ヶ月に1軒のペースで施設を建てていきました。

そしてグループホームで過ごし、生活が安定してくると、一人暮らしができる状態になる方々が出てきます。しかし、障がいや前科があることを理由に、不動産会社からは門前払いされ、本人に諦めるよう説得するしかありませんでした。

この状況を何とかしようと、不動産のプロである西さんと共同で、国土交通省管轄の居住支援法人として、入居・居住支援事業を立ち上げました。ここでは空き家として放置されている建物を活用し、高齢者や障がい者、低所得者、犯罪を犯した人など、賃貸の入居が難しい方々への支援を行っています。最近では、災害で自宅を失った被災者の方も受け入れています。

利用者の方の支援を途切れさせないために行う事業承継

ーー最後に今後の展望についてお聞かせください。

友野剛行:
世間では直前まで元気で、ぱたっと亡くなるのが理想的な死に方だと言われています。しかし、経営者がいきなり死んでしまったら、会社に多大な迷惑をかけてしまいます。そこで私は5年後に引退すると決め、事業を引き継ぐ時間を設けることにしました。

その中で取り組んでいきたいのが、生成AIとの共存です。これからAIに任せられる領域を増やして、新たな事業モデルをつくりたいと考えています。

そして最終的な理想は、ふくしねっと工房がなくても回る世の中にすることです。支援者などがいなくても互いに助け合い、健常者と障がい者の垣根を超えて平等に生きられる世界になることを望んでいます。

編集後記

「利用者の親御さんが亡くなる前に、『友野さんが子どもの面倒を見てくれるから、安心して逝ける』と言われたのが印象的でした」と話してくれた友野社長。今回のインタビューを通じ、障がいを持った方の一生を背負うことは、並大抵の覚悟ではできないことだと痛感した。あらゆるハンディキャップを持った方々を受け入れ、従業員の独立支援を行う株式会社ふくしねっと工房は、介護業界を変えていく存在となることだろう。

友野剛行/1997年より小規模無認可作業所(障がい者福祉作業所)で初めて福祉の仕事に携わる。2006年株式会社ふくしねっと工房設立。2008年障がい福祉サービス事業所「ワーカーズハウスぐらす」を開所。以後、障がい者の作業所、グループホーム、放課後等デイサービス、相談支援事業所など30カ所以上の拠点をつくる。2018年株式会社あんどを設立(居住支援法人)。千葉県居住支援法人協議会代表理事。