
日本総合研究所が2023年に公表した調査結果によると、日本の要介護認定者数は増加を続け、ピークを迎える2040年頃には988万人に達するとのこと。高齢化が進む日本では、介護サービスの拡充が急務の課題となっている。
そのような中で、介護業界が抱える問題を解決しようと取り組んでいるのがイチロウ株式会社だ。今回、同社の代表取締役であり、元介護士の水野友喜氏に、介護業界を底上げする同社のサービスの詳細を聞いた。
介護士が報われない「介護保険制度の歪み」に違和感を覚えて起業
ーー起業のきっかけを教えてください。
水野友喜:
介護士として働く中で、現行の介護保険制度が抱える課題を肌で感じ、将来的な持続可能性に不安を覚えたことが、起業のきっかけとなりました。こうした現状に課題意識を持ち、より現場の介護士の努力が報われる環境をつくりたいと考え、イチロウ株式会社を設立しました。
ーー具体的にどのようなサービスを手がけていますか。
水野友喜:
弊社では、介護士マッチングプラットフォーム「イチロウ」を運営しています。このプラットフォームには、私が介護士として働いてきた中で必要だと感じたものや、業務を効率化できる仕組みを取り入れ、介護保険外サービスとして提供しています。たとえば、介護士を指名する際に指名料がかかるのが一つの特徴です。
また、介護保険内だと1回あたり1時間までしかサービスを受けられないなどの制限が多いのですが、弊社の介護保険外サービスは24時間いつでも何時間でも受けられます。最短で当日から利用できますし、サービス内容の変更にも柔軟に対応ができるのも介護保険サービスとは異なる点です。
そのほか、介護士の介護技術や人柄などをデータ化することで、マッチングの精度を高めているのが特徴で、利用者は特定の介護士を自身の固定パートナーにすることもできます。
ーー特にどういった点を意識してサービスを開発しましたか。
水野友喜:
テクノロジーにより間接コストを下げることで、被介護者にはリーズナブルな価格でご利用いただき、介護士には高時給で働いていただけるように意識して開発しました。
介護士は努力に応じて高い給料をもらうことができ、お客様から感謝され、やる気もアップする。このサイクルは、ご利用者の満足度向上にも繋がっていきます。実際に介護士の中には、どこの現場に行っても指名されて引っ張りだこの人もたくさんいます。
ーー事業を始めた当初は、やはり大変でしたか。
水野友喜:
果たして介護保険外サービスにニーズがあるのか、どのようにオペレーションを回せば良いのかなど、何も分からない状況だったため、Webサイトを制作したり、広告を運用したり、チラシを配ったり、すべて自分で行わなければいけないのが大変でした。
契約を獲得後、お客様に「実はまだサービス内容が何も決まっていなくて」と正直に話し、お客様と一緒にサービスをつくっていったという感じです。また、介護士として現場を訪れる中で、サービスを運営する際にどのようなことが必要となるのかをチェックし、一つずつシステムに落とし込んでいきました。
そういった中、出資を受けたことや、名古屋から東京へ出て事業を拡大したこと、オリジナルシステムを開発してたくさんの業務量を受けられるようになったことなどが、会社が成長するターニングポイントとなりました。
介護業界全体を底上げしながら、市場性の高い領域で利益も上げていく

ーー今後の展望を聞かせてください。
水野友喜:
東京23区だけでなく全国で使えるサービスにすることを目指しています。社会インフラの一つとして全国で使えるように動いているところです。弊社のノウハウを公にしながら、保険外サービスを当たり前に使える世の中にしたいですね。
また、他社が介護保険外サービス事業を始めたいと思ったときに、弊社の仕組みを使ってもらえるようにするなど、サービスのネットワーク化も構想しています。僕たちがエリアを一つひとつ開拓するよりも別のエリアに既にある会社と協業した方が、スピーディーにサービスを届けられるためです。
そのほか、弊社のサービスは介護事業者のDXにつながる側面もあるため、事業者側の売り上げアップやコスト削減などをサポートし、日本の介護業界全体の底上げに貢献していきたいと思っています。
介護業界は市場が大きく、DXを推進する要素が多く残されています。まだまだポテンシャルのある領域であるため、社会課題を解決しつつ、利益もしっかりと追求していきたいと思います。
編集後記
水野社長自らが現場経験で得た課題感に端を発するイチロウ株式会社のサービスは、まさに介護業界の問題の本質をとらえたものだと感じた。高齢化が進む日本で、同社の介護保険外サービスの需要はまだまだ高い。介護士の処遇改善など、日本が抱える大きな問題の一つに立ち向かう同社の挑戦を応援したい。

水野友喜/1987年生まれ、岐阜出身。20歳から介護士として介護現場で働き、マネジメント業務などに関わる。介護領域で10年の経験を経て、株式会社イチロウを設立。保険外の介護士マッチングプラットフォーム「イチロウ」を通して、持続可能な介護環境づくりや、低賃金による介護士不足などの社会課題の解決を目指す。