※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

日本で初めてMBO(※)という手法を用いて上場を果たし、電子部品向け金めっき薬品の開発・製造を手がける日本高純度化学株式会社。同社の製品は、スマートフォンの基板やコネクターなど、私たちの身近な電子機器に使用されている。

そんな同社の代表取締役社長を務めるのが、入社以来30年にわたり技術開発から経営企画まで幅広い部署を経験してきた小島智敬氏だ。少数精鋭の従業員とともに、新たな領域への挑戦を続ける小島氏に、同社の特徴や今後の展望について聞いた。

(※)MBO:マネジメント・バイアウトの略で、会社の経営陣などが、自社の株式や事業を買いとって、会社経営を自分たちで行えるようにする手法。

調剤薬局のような独自のビジネスモデル

ーー貴社の事業内容について教えてください。

小島智敬:
​​弊社はめっき薬品を製造する会社ですが、一般的な「めっき」のイメージとは少し異なります。めっきと聞くと、指輪などの装飾品を想像される方が多いと思いますが、弊社は電子部品向けの金めっき薬品が専門です。

たとえば、皆さんが使っているスマートフォンの中にある基板やコネクター、カメラの接点など、多様な電子部品に弊社の技術が使われています。

ーー貴社の事業モデルについて聞かせてください。

小島智敬:
弊社の事業モデルは、調剤薬局の仕組みに似ています。調剤薬局では医師の処方箋に基づいて薬を調合しますが、私たちも同じように、独自に開発したレシピに基づいてめっき薬品を製造します。必要な薬品を棚から取り出し、決められた配合で調合するという点で、調剤薬局のプロセスと共通点が多いのです。

ーー他社にはない特徴や強みはどのような点でしょうか。

小島智敬:
表面処理の最終工程である金めっきに特化していることが、大きな特徴と言えるでしょう。「電気めっき」と、電気を使わず化学反応で金属を析出(せきしゅつ)させる「無電解めっき」の2つのめっき薬品を製造・販売している企業は弊社だけであると認識しています。

また、生産設備は比較的シンプルですが、従業員の約8割が理系出身者という技術開発型の企業なので、新しい薬品の「レシピ」を開発し続けることができる点も強みです。

デジタル化で加速する技術開発

ーー従業員数が少ない中で、どのように生産性を高めているのでしょうか。

小島智敬:
電子実験ノートの導入が生産性向上のカギになっています。以前は紙のノートに手書きで実験記録を書いていました。しかし、過去に蓄積されたデータを探し出して活用することが難しく、担当者が代わると記録が読めなくなるといった課題を抱えていたのです。そこで、3年前に電子実験ノートを導入しました。

市販の電子実験ノートは弊社のニーズにも合わなかったため、1年かけて社内で使いやすいシステムを開発。これにより、過去の実験データや知見を効率的に活用できるようになり、開発のスピードも向上していきました。

アイデアがポンポン出てくる人はノーベル賞級の研究者ぐらいしかいません。だからこそ、過去の知見をシステマティックに活用し、確率を上げていく方が効率的だと考えています。

電池材料分野への挑戦と環境への貢献

ーー今後の事業展開について、注力されている分野はどのような領域でしょうか。

小島智敬:
私たちは現在、次世代電池材料分野、特に固体電池の性能向上に注力しています。たとえば、固体電池は充放電を繰り返すと電極間に隙間ができ、充電効率が落ちてしまうことが課題です。そこで私たちの金めっきで培った技術を活用して、電極間の接続性を向上させる研究を行っています。

また、太陽光発電などのクリーンエネルギーの普及には、効率的な蓄電技術が不可欠です。弊社の技術を活用することで、より性能の高い電池の開発に貢献できると考えています。これは環境問題の解決にもつながる新しい挑戦です。

好奇心を持ち続ける人材が会社をつくる

ーー社長就任後、特に力を入れていることはありますか。

小島智敬:
社長就任後は「双方向のコミュニケーション」と「幅広い職務経験の機会創出」に、特に力を入れています。具体的な取り組みとして、「かぶき座」という名前の座談会を始めました。これは従業員と業務の話に限らず、さまざまな話題について直接対話する場です。また、せっかく入社したのなら一つの部署に留まらず幅広い経験を積んでほしいという思いから、社内異動を積極的に支援しています。

一人ひとりの従業員の思いや考えを共有し、全員で会社をつくっていく。それが50人規模だからこそできる特徴であり、魅力だと考えています。

ーー貴社の求める人材像について聞かせてください。

小島智敬:
弊社の一番の強みは「人材」です。知識があるだけでなく、好奇心を持ち続けて、どんなことでも諦めずに追いかけられる人や、一人で抱え込まず、仲間を巻き込んで一緒に挑戦できる人を歓迎しています。「無理かもしれない」と立ち止まるより、「どうやったらできる?」と考える前向きな姿勢が、この会社では一番の力になります。

ーー最後に読者へのメッセージをお願いします。

小島智敬:
私自身、技術開発から経営企画まで多くの部署を経験してきました。その経験から学んだのは、良いものをつくるだけでは不十分だということです。製造のしやすさや原材料コスト、環境への配慮など、多角的な視点で物事を見ることの重要性を実感しました。だからこそ、社員には、社内転職で新しいことに積極的にチャレンジしてほしいですね。

編集後記

技術開発型企業として独自の地位を確立してきた日本高純度化学株式会社。その原動力となっているのが、従業員一人ひとりの好奇心と、それを活かせる組織づくりだ。小島社長の「できない理由を探すのではなく、どうやったらできるかを考える」という言葉には、同社の企業文化が凝縮されているように感じられた。

小島智敬/1972年埼玉県生まれ。1996年東海大学工学部卒業後、日本高純度化学株式会社入社。技術開発、経営企画、製造、品質保証など、さまざまな部署を経験。2020年取締役、2021年常務取締役を経て、2022年より代表取締役社長。