※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

京都市に本社を構え、ガソリンスタンド事業を核に、車両販売、保険、フィットネスなど多角的な事業を展開するエムケイ石油株式会社。1998年の入社以来、SS現場の所長、プライベートブランド店舗の立ち上げ、子会社経営などを経て、2023年に代表取締役社長に就任した中島勇輔氏に、エネルギー業界の変化への対応、事業の多角化戦略、そして現場第一を掲げる経営哲学を聞いた。

現場一筋から経営トップへの道

ーーエムケイ石油へ入社されたきっかけを教えてください。

中島勇輔:
ガソリンスタンドでのアルバイト経験があり、スタンドでの仕事の面白さは感じていました。車が好きで整備士にも興味がありましたが、経験が無いことが理由で尻込みしていた時、偶然、エムケイ石油のサービスステーション(※1、以下SS)オープニングスタッフ募集のチラシを見かけ、応募したのがきっかけです。チラシを見かけなかったらエムケイ石油で働いていなかったかもしれないので、本当に偶然の出合いですね。

ある時、前任者の異動が決まり、突然私が所長を任されることになりました。バイパス開通で交通量が激減し、経営が厳しい状況の店舗でしたが、近隣のお客様に支えられ、そこで所長としての基礎を学びました。

その後、いくつかのSSの所長を歴任し、2020年に常務取締役に、2023年代表取締役社長に就任しました。

(※1)エムケイ石油では、スタンドのことを「サービスステーション」と呼んでいます

ーー役員就任直後、特に難しかったことはありますか。

中島勇輔:
私は現場一筋だったため、財務や経理といった本社の管理部門の仕事は未経験でした。役員になってからそれらを学び、現場と経営を結びつける手法を習得するまでが大変でした。また、買収先企業の経営では、外部から来た人間として既存社員の理解を得るため、一人ひとりと向き合う対話を重視し、信頼関係の構築に努めました。

ガソリンスタンドを核に、地域の暮らしを支える多角化戦略

ーーエムケイ石油の中核事業について、詳しくお聞かせください。

中島勇輔:
弊社の中核事業はガソリンスタンド事業です。かつて30店舗以上あったSSも、スクラップ&ビルドやセルフ化を進め、現在は京都・兵庫で15店舗となっています(うち、プライベートブランドは4店舗)。車のEV化や車自体を持たない人が増えるなど、業界環境は激変していますが、変化に対応しつつも、お客様との接点であり事業の原点であるSS事業を大切に育てています。

SS事業の一環として、本社とゼロから仕組みを考え、タクシー営業所併設の複合施設として、京都市伏見区にプライベートブランドSSを立ち上げました。フルサービスSSとしても初の試みです。周囲の応援と、独自の価格設定やタクシー会社との連携が功を奏し、順調に売上を伸ばしています。

ーーSS事業以外の新規事業を始めた経緯を教えてください。

中島勇輔:
弊社はSS事業以外にも、保険やフィットネスなど多角的な事業を展開しています。保険事業は、生命保険会社出身の社員から「生保分野にもっと力を入れてはどうか」という提案があり、専門部隊を作ったことがきっかけでスタートしました。フィットネスジムも、社員からの「やってみたい」という声があがり、事業計画を練り、現在はFC展開を実現しています。

私たちはSSを起点に、お客様のカーライフだけでなく、ヒューマンライフに寄り添える事業を目指しています。思いつきではなく、既存事業とのシナジーや、人材育成・配置の仕組みを考えながら、今後も事業を広げていこうと考えています。

「決裁権のある幹を探せ」顧客、現場、社員との向き合い方

ーーお客様との関係構築で重視していることをおうかがいできますか。

中島勇輔:
営業で悩んでいた時、あるお客様から「木で例えるなら、枝葉ばかりにアプローチしても幹には辿り着かないだろう?決裁権のある人間、つまり『幹』を探して掴まないと仕事は生まれないぞ」と教わりました。

そこで、SSで出会う経営者の方々と直接対話し、「会社の車の面倒を見させてください」とお願いする中で信頼を得て、仕事につなげていった経験があります。そこから決裁者へのアプローチと対話の重要性を学びました。お客様に支えられて今がある、という感謝の気持ちは常に持っています。

変化に対応し続ける組織へ。体制強化と人事評価制度改革

ーー社内コミュニケーションで意識されていることは何ですか。

中島勇輔
どんな事業も人で成り立っていると考えており、だからこそ、社員の声に耳を傾け、対話する機会を大切にしています。また、私自身が現場を経験してきたからこそ、社員たちの気持ちがよく分かっているつもりです。新しい方針も、同じ立場で働いた経験のある人間が言う方が伝わりやすい。社長就任後は、ビジョン・ミッション・バリューを改めて策定し、私から社員へ共有するようにしています。

ーー人事評価制度では、どのような点を重視されていますか。

中島勇輔
時代は変わり、時間ではなく成果で評価する仕組みが必要です。役職や資格だけでなく、個々の頑張りやチームへの貢献度を多角的に評価し、インセンティブや処遇に反映させる制度を目指しています。評価基準を明確化し、「これをやれば評価される」道筋を示すこと、チームでの成果も重視することがポイントです。給与も納得感のあるものにしたいですね。社員が気持ちよく、やりがいを持って働ける環境が会社の成長につながると考えています。

時代のニーズを読み取りチャレンジし続ける、エムケイ石油が目指す未来

ーー今後の展望についてお聞かせください。

中島勇輔:
SSは、お客様との大切な接点であり、私たちの事業の原点です。この原点を大切にするからこそ、新しい発想が生まれ、挑戦する力が湧いてくるのだと思います。EV化が進んでも、エネルギー供給やカーメンテナンス拠点としてのSS役割は形を変えても残るはずです。今後もインフラやメンテナンスを含めたトータルサポートを提供し、カーライフからヒューマンライフを支える事業へシフトしていく方針です。

そのために、まずは取り組みたいと考えているのは、関西圏での事業展開です。SSに加え保険、車両販売、フィットネスなど各事業の専門性を高め、地域での存在感を強化します。それに伴い、各事業を任せられるリーダー育成が急務です。新しい店舗や事業にチャレンジできる体制を整え、将来的には、一つの事業部で複数店舗を管理できる体制が理想ですね。

私たちが提供するのは「人」を相手にするサービスです。お客様との信頼を基盤に、時代のニーズに合わせて新しいことにチャレンジし続けたい。それが不動産や全く別の分野かもしれませんが、社員が意欲を持って挑戦できる環境があれば、可能性は無限です。お客様、社員、地域社会に貢献できる企業であり続けるため、変化を恐れず前進します。

編集後記

アルバイトから社長へと至る経歴の中で、常に顧客や社員と向き合い、課題解決に取り組んできた姿勢がうかがえる。「現場第一」という言葉通り、その視点は常に現場に根差しており、多角化を進める中でも軸足はぶれていない。エネルギー業界が変化する中で、エムケイ石油が「人」とのつながりを大切にしながら、どのように進化していくのか、今後の展開に注目したい。

中島勇輔/1973年、京都生まれ。1998年エムケイ石油株式会社入社し、スタンドの所長を歴任。2020年、エムケイ石油株式会社常務取締役就任。2023年、エムケイ石油株式会社代表取締役社長就任(現職)。MKタクシー整備事業統括、充電インフラ担当を兼任(現職)。現場第一で車と燃料油に精通。近年は事業の多角化を進めている。