
マンションやビルなどの大規模修繕工事をメインに事業を展開する株式会社日東。同社は創業以来、躯体補修の分野で確かな技術力で成長を続け多くのゼネコン・設計事務所から厚い信頼を獲得している。現在、YKK APグループの一員としてさらなる事業拡大に挑戦している同社の代表取締役社長、中村章秀氏に話をうかがった。
信頼する講師の後押しから始まった建設業界でのキャリア
ーー建設業界に入ったきっかけを教えてください。
中村社長:
私が建設業界に入ったのは、学生時代の講師からのアドバイスがきっかけでした。商業施設の設計・施工を手がける会社への紹介を受け、ご縁があってその会社に入社し、店舗デザイン・設計〜施工管理を担当するようになりました。
内装関係の仕事をする中で、自分がデザイン、描いたものが形になっていくことに楽しさを感じる中、建築物全体及び構造に関する知識をもっと身につけたいと思うようになり、工務店への転職を決意。転職した会社では建物の新築から改修・建物修繕にまで携わり、建設業の基礎を幅広く学びました。
ーー社長に就任されるまでの道のりと、就任後のご経験についてお聞かせください。
中村社長:
入社後は大規模修繕の現場管理業務(代理人〜統括管理)を約8年間経験し、会社の業績向上に向けて奔走しました。そして突然、前社長から「この会社を継いでほしい」という話をいただいたのです。
社長就任後は経営方針を見直すことで会社を変革し、入社時には約5〜6億円だった売上を現在では約6倍にまで成長させています。
建物の寿命を延ばす修繕工事のプロフェッショナル

ーー貴社の事業内容について教えてください。
中村社長:
弊社は建物の修繕工事、特に防水・躯体補修全般に特化した事業を展開しています。建物の劣化した箇所を調査し、修繕・改修し寿命を延ばす仕事です。既存の建物を“リフレッシュして元に戻す”あるいは“良くない部分を改修する”といったイメージですね。
現在の主要顧客はマンションの管理組合や管理会社で、今ではマンションの大規模修繕工事が売上の大部分を占めています。また、ゼネコン各社や設計事務所との取引もあり、さまざまなパートナーと協力しながら事業を展開しています。
ーー貴社ならではの強みはどのような点でしょうか?
中村社長:
弊社の強みは、下地(躯体補修)と呼ばれる建物の構造体の補修技術にあります。コンクリートのひび割れ一つをとっても、見えない部分で進行する中性化不具合を的確に捉え、劣化の原因を根本から修復する技術を持っています。
この技術は一朝一夕で習得できるものではありません。弊社は元々、躯体補修の専門業者として創業し、その後、徐々に事業を拡大してきました。こうした歴史の中で、職人たちが培ってきた経験と知識と技術の積み重ねが、弊社の強みにつながっています。
社員の充実感が会社の魅力に。人材育成と事業拡大で描く未来
ーー人材確保に向けてどのような取り組みをされていますか?
中村社長:
少子化の影響もあり、未来(次の世代)を背負う若い人材の確保が課題となっています。この状況を打開するため、弊社では大阪で開催されている、建設業の仕事が身近に体験できるイベント「関西こども建設王国」に参画し、子どもたちが建設の仕事に触れられる機会を提供しています。まず「こんな仕事をしてみたい」と思うきっかけづくりが、未来の担い手の育成につながると考えています。
同時に、社内環境の整備にも注力しています。「日東に入社したい、安心して働くことができる」と思ってもらえるようにするためには、現在働いている社員が充実感を持って仕事をしていることが不可欠です。社員が「この会社で頑張ろう」と思える人間関係や仕事環境をつくることで、会社の良さが自然と外部に伝わり、優秀な人材が集まる好循環を生み出してくれるよう、尽力しています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
中村社長:
2021年にYKK APグループの一員となったことで、弊社の可能性は大きく広がりました。YKK AP株式会社は建材業界のリーディングカンパニーとして確固たる地位を築いているため、その商品力と弊社の技術力をかけ合わせることで、新たな価値を生み出せるでしょう。
今後は、従来のマンションの改修工事に加えて、商業施設やオフィスビルなどの工事も手がけていきたいと考えています。新たな事業の柱を育てることで、バランスのいい事業構造を構築したいですね。これからも建物を守る仕事を通じて、人々の大切な暮らしを支え続けていきます。
編集後記
取材を通じて最も印象に残ったのは、中村社長が繰り返し口にした「縁」という言葉だ。専門学校の講師との出会い、そして前社長からの引き継ぎまで、人との縁が人生の転機をつくってきた。その経験が、社員との関係づくりや次世代育成への情熱につながっているのだろう。YKK APグループとの新たな縁を活かし、さらなる飛躍を目指す日東のこれからが楽しみでならない。

中村章秀/1969年、大阪府生まれ。大阪芸術大学附属大阪美術専門学校卒業。2008年、旧:日東化建株式会社(現:株式会社日東)に入社。大規模修繕を専門に約8年の現場管理業務を経て、2016年に同社代表取締役社長に就任。2021年にYKK APグループ会社となり現在に至る。近年はSDGsの一環として、自ら自然を守る海ごみクリーン活動にも積極的に注力している。