
警備業を起点に、清掃業、教育事業、ドローン事業、農業など多角的に事業を展開する株式会社スワット。同社を牽引するのは、12年間の教員生活の後、家業を継ぐために経営の世界へ飛び込んだ黒川智洋社長だ。教職で培った“人を思いやる力”を軸に、低迷していた会社を蘇らせることに成功。おもてなしの心を大切に、多くの人たちが笑顔になる取り組みを続けている。今回、新たなアイデアを次々に形にする同氏に、今までの道のりと今後の展望を聞いた。
教員の夢を胸に、大手生命保険会社で出会った人生の師
ーー貴社に入社されるまでのご経歴について教えてください。
黒川智洋:
大学卒業後は教員になりたいと考え、社会科の公務員試験を受けたのですが、結果は残念ながら補欠合格。当時は教員の欠員がなかなか出ない時代だったので、教員採用は難しいだろうと思い、銀行や大手生命保険などを受けて、いくつか内定をいただきました。
ただ、「子どもたちの未来のために痛みのわかる大人になりたい」と言う思いは持ち続けていたので、一番厳しい生命保険会社で働くことを選びました。入社から2年間、営業職として着実に成果を積み重ねるとともに、新人教育を通じて組織の成長にも貢献しました。その経験が評価され、2年目からは支社の営業体制を支える中核的な役割を担うようになりました。
おかげで、営業や教育の現場に深く関わることができ、密度の濃い2年間を過ごすことができました。支社長はいつでも部下を守り、支社も守り、一人ひとりのことを考えている方でした。そのような素晴らしい方に出会い、一緒に働けた経験は今でも私の宝です。
その後、教員の道に進むことができ、現場では、教育者としての責任に重きをおき、“生徒と保護者を最優先”する姿勢を貫きました。組織としての立場も大事ですが、それ以上に、子どもたちの未来を本気で考えたかったのです。
それまでの人生で“ひと言の重み”を痛感していたので、保護者への連絡は良いことも悪いことも積極的に伝えるようにしました。そして、教えるというよりも一緒にやる。同じ目線で、でも必要なときはビシッと言う、そんな教員を目指していました。
教壇から経営の最前線へ。再建への第一歩とは
ーー貴社に入社された経緯とその後の取り組みについて教えてください。
黒川智洋:
教員として働く中で、公立学校の教員になるという目標が心のどこかにありました。私立で経験を積んでいた頃、父から家業を継いでほしいと懇願されましたが、その時はまだ迷いがあり、一度は断りました。
しかし、その直後に公立と私立の教員による人事交流の機会があり、それが大きな転機となりました。この交流を通じて、新しい道へ進む決意が固まったのです。そして、親孝行の気持ちで覚悟を決めて継ごうと思ったのが2014年のことです。
当時の会社は、経営面でかなり厳しい状況でしたので、まずは中身をとことん変えるところから始めました。財務情報をすべて見直して、大幅に経費削減をすることができました。人事や評価制度も大きく変えました。それまでは、仲良し人事のような状態で評価もあいまいでしたが、査定の基準を明確にして、頑張った人が正当に評価される仕組みに改修。
改革を進めることに、最初は従業員から反発もありましたが、私は動いていないと焦ってしまうタイプなので、社内の全書類の添削とか、私ができることはすべてやっていました。すると、その姿を見て、社員たちは評価してくれたようで、徐々に変化が見えてきました。
警備業を超えて広がる多事業展開

ーー改めて、事業内容について教えていただけますか。
黒川智洋:
施設警備といった警備業をメインに、清掃業、教育事業、ドローン事業といった多角的な事業を展開しています。
もともと弊社は警備業からスタートした会社です。警備という仕事は、何も起こらないことが一番の成果であり、その存在は日々の安心の中に溶け込んでいるため、感謝される機会は多くありません。しかし、働くからには「もっと『ありがとう』を生み出せるようにしたい」と考え、地域の困りごとを積極的に聞いて回りました。すると、施設の警備中に、「エアコンの清掃をお願いしたい」などと声をかけられることがありました。
当時、別会社で清掃事業は存在していましたが、十分に機能しているとは言えない状況でした。そこで、警備業との連携を強化するため、この清掃事業に改めて注力することを決めたのです。
私は教育畑出身であるため、ドローンの正しい知識と安全な操縦技術を広く伝えたいという想いがありました。その想いを形にするため、そして事業としての可能性を広げるために、ドローンの免許を取得しました。一見、警備業とは無関係に思えますが、ドローンを活用して空撮を行うことで、人が立ち入りにくい場所の確認や、工事現場の進捗、大規模イベントの記録など、様々な場面で警備業務を支援することが可能になります。この新たな空撮サービスが、警備の新たな依頼へと繋がり、事業の幅を広げる好循環が生まれ始めています。
こういった悩みごとを解決しているうちに、さまざまな事業を展開するに至りました。事業展開する上で、莫大な資金は投下せず、弊社で管理できるもの以外は、協力会社さんにアウトソースしています。
ーー貴社ならではの強みはどこにあるのでしょうか。
黒川智洋:
まず、他社がやらないことをビジネスに取り入れていく姿勢です。たとえば、清掃業務を請け負う際、体にやさしい洗剤を使ったり、規格外野菜を仕入れて販売したり、多少コストが高くなったとしても必要としている人がいるならやる価値があると考え、それをコツコツと積み重ねています。
また、協力会社との関係性の深さはもう一つの強みです。弊社では協力会社へ先に予算を聞き、相手の希望価格で依頼するようにしています。そのため、他社が断るような仕事でも協力していただけますし、お客様も喜んでいただけます。
いろいろな事業を展開していますが、最初から多角化しようと思って始めたわけではなく、お客様のお悩みごとを解決していたら今の事業まで広がっていったという感じなので、今後もお客様のお困りごとを解決する視点を大切にしながら、未来を見越して事業を続けていきたいと考えています。
「人」が主役の会社、笑顔を生む働き方改革
ーーどうして多事業展開を継続しているのですか。
黒川智洋:
弊社がさまざまな事業を展開しているのは、「社員一人ひとりに夢を持ってほしい」という思いがあるからです。もともと、私は教員になりたいという思いから始まりましたが、前述の通りすぐになれたわけではなく、回り道をし、さまざまな経験を積んだ後に教員になれました。やりたいことを仕事にできる人は実際は少ないと思います。社内に複数の事業があれば、個々の関心ごとを活かせる可能性が増えるため、多角的な事業を展開しているのです。
ーー働き方改善や、採用に関してはどのようにお考えでしょうか。
黒川智洋:
弊社ではライフステージに合わせた働き方ができる体制づくりに取り組んでいます。フルタイムで働くのが難しい子育て中の方や障害者の方でも働きやすくなるよう、正社員だけでなく、週休3日程度の出勤で柔軟に勤務できる「ハーフ正社員」という制度を導入しています。また、採用についての体制がようやく整ってきたので、新卒採用にも力を入れていきたいです。警備の仕事を定年後の第二の仕事として選ばれるシニアの方も多いので、シニア層の採用にも積極的に取り組みたいです。
女性が輝く組織、世界へ広がるビジョン
ーー5年後、10年後は、どのようなイメージをされていますか。
黒川智洋:
女性が笑顔で働く会社は、絶対に成長すると信じています。ですので、スタッフが女性だけの会社をつくるなど、女性が活躍する場にしていきたいです。
また、海外進出も視野に入れています。現在、インドネシアの農業支援プロジェクトが進んでいて、現地の農業自給率を上げるために土壌調査や野菜の栽培、野菜工場の加工技術なども支援しています。
他にも、いちご農家さんとフレーバードワインをつくったり、もともとあった製品に規格外野菜の観点を踏まえたアイデアを提案したり、さまざまな取り組みを進めています。これまでの経験を活かしながら、お客様に求められることをどんどん事業化していきたいです。
ーーここまで多方面に事業を広げられる原動力は、何でしょうか。
黒川智洋:
やはり、人とのつながりです。今まで一緒にやってきた仲間たちや、未来を担う子どもたちに、どこまで還元できるか。それが原動力です。あと、単純に止まっていられない性分なんです。止まってしまったら従業員や家族の生活を守ることができませんから。
そのためにも、守るべきものに対してプレッシャーを感じるのではなく、私自身が楽しく仕事をしたいと考えています。私には小学生の息子と娘がいるんですが、「パパ、すごく楽しそうに仕事してるね」と子どもたちから言われたことは、とても嬉しかったですし、私の胸に刻まれています。この言葉も原動力の一つかもしれませんね。
編集後記
子どもたちと向き合う教育の現場から畑違いの経営者の道に進んだ黒川社長。低迷していた会社を立て直せたのは、社会人として培った営業マインドや教育の知識をフル活用したからだ。人や地域の困りごとを常に自分ごととしてとらえ、解決に導こうとする黒川社長の実行力と行動力が、多事業展開が成功している秘訣だと感じた。

黒川智洋/1976年⽣まれ、千葉県出身。法政大学卒業後、大手生命保険会社に入社。私立高等学校教員歴12年。途中、交流プログラムで公立高校でも教員として生徒に指導を行う。2014年に株式会社スワットに入社。代表取締役に就任。おもてなしの心を大切にし、多くの方々が笑顔になる取り組みをしている。