株式会社E-konzalは、政策立案者とそれを実践するプレイヤーをつなぐコンサルティング業をおこなっている会社だ。代表取締役の榎原氏は、地域への取り組みも強化し、株式会社能勢・豊能まちづくりを立ち上げ、「持続可能な社会」へと歩を進めている。
そんな榎原氏に、2社を立ち上げた経緯と、今後の展望について話をうかがった。
政策づくりと実際のプレイヤーをつなぐ架け橋に
――会社の創業前は何をしていらっしゃったのでしょうか?
榎原友樹:
京都大学で資源工学を学んだ後、再生可能エネルギーを勉強するため、英国に留学しました。帰国後は富士総合研究所(現:みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)という金融系のシンクタンクに入社しました。
そこでは主に2つのチームに所属しており、1つは再生可能エネルギーの政策研究を行うチーム、もう1つは独立行政法人(現・国立研究開発法人)国立環境研究所のおこなう「脱温暖化2050プロジェクト」でした。この2つの柱で官公庁からの仕事を受ける傍ら、自ら海外に赴き、環境関連のプロジェクトを見つけて参加していました。
当時の日本は、京都議定書の発効によって温室効果ガス排出量の6%削減を目標としており、環境に対する意識は今よりもかなり低い時代でした。そんな中、立ち上がった気候変動プロジェクトでは、「温室効果ガスの70〜80%削減」という革新的な目標値に注目が集まりました。
――独立をお考えになったきっかけは何でしたか?
榎原友樹:
先程のプロジェクトに心血を注いで取り組んだものの、思うような結果を出せませんでした。政策を立てて世の中を上から変革しようとしたところで、現場にその思いが伝わらないということに危機感を覚えました。
そこで「実際に現場で活躍するプレイヤーと、政策をつくる人たちをつなぐ役割をしよう」と決意し、2012年に独立して株式会社E-konzalを創業したのです。
私が独立すると知って、これまでお会いした研究者の方や、前職では競合関係にあった方など、多方面からプロジェクトのお話をいただけたおかげで、スムーズに会社を軌道に乗せることができました。
地域の中でエネルギーを循環させる新しいビジネスモデル
――その後、大阪の地域の方々と協業した別会社を立ち上げていらっしゃいますが、創業の経緯を教えてください。
榎原友樹:
E-konzalとして仕事を続けていくうちに、地域の方と協業して事業を進めることも増えてきました。そんな中、2018年に電気の地産地消を目指した「地域新電力」と呼ばれる新しい電力供給の形を知ったのです。
これまでは環境問題に関して、CO2の削減などで環境負荷を減らすか、再生可能エネルギーに変えるという観点でしか考えていませんでした。再生可能エネルギーを使って外部の電力会社に払い続けてきたお金を、地域内で循環させていくという新しいモデルに大変感銘を受けました。
新電力会社の社長とも仲良くなり、この仕組みを取り入れた事業をやりたいと思っていたところに、新電力会社の社長を経由して「能勢町が地域新電力の取り組みを検討している」という話が回ってきたのです。
その後、豊能町にも賛同いただき、私たちの出資会社である株式会社冒険の森に2つの町にもご協力いただいた後、2020年に株式会社能勢・豊能まちづくりを立ち上げました。
――これまでにない形の事業で、ご苦労も多かったかと存じます。
榎原友樹:
市場に参入して3か月後、電力の市場価格が暴騰したことで、起業早々に危機的状況に陥りました。電力の仕入れ値が8円から最高250円まで高騰し、債務超過のため、金融機関による融資の話も止まってしまいました。
コンサルティングを生業としていながら、事業リスクを読むことができず、これまで自分がやっていたことがいかに机上の空論であったかを思い知らされました。
1か月で何千万円ものお金が消え、E-konzalで10年間で積み上げてきた自信も失いました。一方では、失敗を経験したからこそ現場の話を講演などで多くの人に伝えられるようになり、多くの信用を得られるようになりました。
会社が有能なのではなく、有能な社員が働きやすい環境を用意する
――社内の勤務体制についてお聞かせください。
榎原友樹:
社員にはライフステージに合った働き方を推奨しています。介護をしている方、ご家族が事業を営んでいらっしゃる方、子育て中の方などには、今は無理をせず、仕事よりもプライベートを優先してほしいと伝えています。
また、弊社では皆フルリモートで仕事をしており、インターネット上の共有のカレンダーに「所用」と書いておけば各自が時間を自由に取れるようにしています。「有能な方が働きやすい環境を整えておかなければ、会社は見捨てられる」という感覚を持っているので、社員の方々が「ここで働いていて良かった」と思える職場になるよう、注力しています。
――採用についてのお考えと、両社において求める人物像を教えてください。
榎原友樹:
現在は協業してくれるプレイヤーも徐々に増え、さまざまな分野での取り組みが可能になったため、採用を強化していきたいと考えています。
E-konzalの採用で求める一番大事な要素は、「自分はここで何かを成し遂げてやるぞ」という強い気持ちです。環境の分野は、学ばずに1年経てば全くついていけなくなるほど、新しい情報が入って来ます。常に情報を取り入れ、知識を自分のものにすることを楽しめるかどうかが重要です。
能勢・豊能まちづくりで求められる部分はE-konzalとは異なり、地域の人に可愛がられる人間性が重要です。現地での実務や農作業がしっかりとでき、コミュニケーションが得意で、地域に愛される存在となってもらえる方を求めています。
地域を超えた交流の可能性を図る取り組みへ
――会社として新たに取り組んでいらっしゃることはありますか?
榎原友樹:
先程の能勢・豊能まちづくりとは別に、E-konzalとして能勢町・豊能町・吹田市をつなぐ「江坂ひとときプロジェクト」を開始しました。能勢町の木材を使用して、吹田市の江坂に、里山に住む方と都会に住む方が交流するスペースや、自然体験ができる空間をつくろうと計画しています。
現在、プロジェクトを面白いと感じた方にご参加いただいており、一流の建築士や有名なまちづくり会社の社長など、その道のプロが集結し、話を進めています。完成に向けて、このプロジェクトを成功に導くことが、今の私の挑戦です。
編集後記
「面白いことをやろうとすると、収益とは無関係に人が集まってきます。その人たちをつなげてプロジェクトを成功に導くことに、この上ない喜びを感じます」と語り、楽しむ気持ちを忘れず、仕事に取り組む榎原氏。
今後も地域との連携を深め、さらなる社会のうねりを生み出していくことだろう。
榎原友樹/1977年生まれ、大阪府吹田市出身。京都大学工学部地球工学科を卒業後、英国レディング大学にて修士号を取得。民間シンクタンクにて「脱温暖化2050プロジェクト」「IEA PVPSプログラム」などの太陽光発電関係のプロジェクトに従事。2012年6月に独立し、株式会社E-konzalを設立し、代表取締役に就任。2020年11月より株式会社能勢・豊能まちづくり代表取締役を兼任。