※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

観光を「人にとって必要な脱日常を提供する事業」と位置づけ、九州の観光産業を支えている岩崎産業株式会社。同社グループはホテル事業を中心に、バス・フェリー・航空などの交通インフラ、さらには農業や養殖まで手がけ、地域経済を支える重要な存在となっている。

約30社からなるグループ全体の社員数は2,500人を超え、三代にわたって地域の商工会議所会頭も務めてきたという。今回は、地域の発展に尽力し続けている代表取締役の岩崎芳太郎氏に話をうかがった。

海外での修行を経て、家業の舵取りへ

ーー貴社に入社されるまでの経緯をお聞かせください。

岩崎芳太郎:
大学卒業後は家業である弊社には入社せず、大手商社に入社しました。これからの時代のビジネスでは英語力が必要になるだろうと考え、まずは海外で経験を積もうとしたのです。商社に入社した後は、ニューヨークに配属されました。

当時はベンチャービジネスやベンチャーキャピタルという概念が日本にまだなかった時代で、技術室という特殊な部署で情報収集を担当していました。遺伝子工学やエレクトロニクスといった分野で、アメリカのベンチャーを回って情報を集めたり、日本企業とのライセンス契約締結をサポートすることなどが仕事でした。

もともと修行を目的に入社したので、8年半ほど経ったころに十分な経験を積めたと判断し、帰国して弊社に入社しました。

ーー入社後はどのような経験を積みましたか?

岩崎芳太郎:
入社後は、特定の部門に限定せずに、全社的な視点で仕事に取り組みました。1984年の入社から1年ほどで取締役に就任し、その後副社長を経て、2002年に社長に就任しています。実は、私の祖父が自ら社長をしていた指宿観光という会社では、帰国後3年目で社長に就任しました。

早くから経営者としての経験を積ませてもらえたことが、ありがたかったですね。弊社の前社長である父の考え方を学びつつ、基本的にはマネジメントとは何かを、自分で考えながら試行錯誤でやってきました。

多彩な事業で地域の暮らしを支える

ーーグループ全体では、どのような事業を手がけていらっしゃいますか?

岩崎芳太郎:
弊社はホテル事業を中心に、ガソリンスタンドやゴルフ場、レストランの経営、さらには農業や車海老の養殖まで手がけています。関連会社のいわさきコーポレーションではバス事業や航空事業、フェリー、サービスエリアなど、主に交通インフラ事業を行っています。

最近でいうと特徴的なものは、弊グループの鹿児島国際航空で展開している、防災ヘリとドクターヘリの運航でしょう。ホテル事業をはじめとした前述の事業は鹿児島で行っていますが、防災ヘリは鹿児島に加えて、宮崎、石川の3県で運航しており、ドクターヘリは沖縄を含む複数地域で展開しています。その他には、レンタカーや焼酎の製造など、グループ約30社でさまざまな事業を展開しています。

ーー新規事業展開についての考え方を教えてください。

岩崎芳太郎:
新規事業を始める際は、既存事業の延長線上で考えることを重視しています。たとえば、航空事業は、空からの農薬散布というところから始めてノウハウを蓄積し、防災ヘリやドクターヘリの運航という形で発展させてきました。

新たな取り組みとして、ホテルのブランドを活かした食品加工業に力を入れています。関連会社がオーストラリアで経営している牧場のフルブラッド和牛を使用したカレーやハンバーグなどの商品開発を進めており、ハンバーグチェーン店の展開も計画しています。また、バス事業では、韓国・ヒュンダイのEVバスを日本で販売するなど、常に新しい展開を模索しているのです。

三代にわたり地域に尽くす経営者としての矜持

ーー最後に事業にかける思いをお聞かせください。

岩崎芳太郎:
コロナ禍による打撃は大きく、当時は非常に厳しい状況に直面しました。しかし、社員とその家族の生活を守り、地域に必要なサービスを提供し続けるという使命があったからこそ、何としても乗り越えなければならないという強い意志を持って取り組んできました。

私たちは地域に根差した企業として、その存続そのものが社会にとって大きな意味を持つと考えています。会社はオーナーのものであると同時に、一緒に働く社員とその家族のものでもあり、さらには地域のためにも存在しています。私の家族は三代にわたって鹿児島商工会議所の会頭を務め、合計40年にわたってこの地域の発展に貢献してきました。

企業である以上、利益を上げることは必要ですが、それは存続するための手段であって目的ではありません。会社を存続させること、社員とその家族の生活を守り、地域社会に必要なサービスを提供し続けることこそが目的なのです。これからも地域に必要とされる企業であり続けるために、社員とともに挑戦を続けていきたいと思います。

編集後記

利益追求よりも企業の存続に重きを置く岩崎芳太郎氏の経営哲学が印象的だった。約30社にも及ぶ多角的な事業展開は、単なる事業拡大ではなく、地域貢献への思いから生まれている。三代、40年にわたって商工会議所会頭を務めてきた経営者一族の矜持が、コロナ禍という危機を乗り越える精神的支柱となったのだろう。社員とその家族の生活を守り、地域に必要なサービスを提供し続けるという強い意志に、深い感銘を受けた。

岩崎芳太郎/1953年、鹿児島県生まれ。慶應義塾大学卒。三井物産株式会社に入社し、ニューヨーク勤務などを経て、1984年に岩崎産業株式会社に入社。2002年、代表取締役社長に就任。岩崎グループCEO。30数社のCEOとして、鹿児島を中心に観光・ホテル・陸運・海運・航空・放送・製造など幅広く事業を展開している。鹿児島商工会議所会頭、日本ホテル協会理事九州支部長、日本バス協会理事、日本旅客船協会理事、鹿児島県観光連盟副会長。