
株式会社アトリエ ニキティキは、創業から50年以上にわたり、ドイツやスイス製の木製玩具を中心に卸事業と販売事業を行ってきた会社だ。プラスチック製の安価なおもちゃが市場に多く出回る中、同社では海外の職人が一つひとつ丹精込めてつくった温かみのある商品が並ぶ。
海外製の玩具を販売する仕事に携わるようになったきっかけや、商品の品質の高さにこだわる卸会社としての思いなどについて、代表取締役の西川涼氏にうかがった。
スキーインストラクターから玩具卸会社の仕事を始めたきっかけ
ーーまず西川社長のご経歴を教えてください。
西川涼:
昔からスポーツが好きで海外に興味があったこともあり、スキーインストラクターの国家資格を取るため、大学卒業後にドイツとオーストリアへ留学しました。資格を取った後のキャリアについてはその時は特に考えておらず、とにかく自分の選択肢を広げたいという一心でしたね。
オーストリアでは国家資格の取得を目指しながら、スキーのインストラクターとして働いていました。そんな中、海外製のおもちゃを取り扱う卸会社を経営していた母がドイツのニュルンベルクの国際玩具見本市に出張に来た折に、私も同行することになりました。
その時、母が現地のおもちゃメーカーの方から「後継者がいなくて困っている」と深刻な相談を受けていて、「自分の母親は仕事を通じて、これほど人から厚い信頼を得ているのか」と驚いたのです。母に触発された私は、このまま遊んでばかりいられないと心を入れ替え、日本に戻って母の会社で働くことを決めました。
ーー入社後はどのようなことに取り組みましたか。
西川涼:
はじめは卸部門の顧客管理を担当していたのですが、まだ手書きの習慣が残っており、作業に多くの時間を要していたのです。そこで帳票をExcelで入力できるようにするなど、業務の効率化を進めていきました。
その流れで基幹システムを構築するプロジェクトリーダーになり、社員へヒアリングしながら、全社の業務プロセスのデジタル化を進めました。その後、配送センターの移設プロジェクトのリーダーを務め、ドイツの取引メーカーの倉庫システムを参考に、商品を棚番号順に並べてピッキングする方式に変え、作業時間の効率化と削減に取り組みました。
本当に良いと思えるおもちゃを日本の子どもたちに届けたい

ーー改めて貴社の事業内容と特徴について教えてください。
西川涼:
弊社はドイツやスイスの玩具メーカーが製造した商品を輸入し、日本の販売店に卸す卸会社です。また、自社の店舗で販売も行っています。おそらくヨーロッパの優れた木製玩具の輸入を専門に始めたのは、弊社が初めてでしょう。
私たちが創業から50年以上大切にしているのが、「伝統の技術を使ってつくられた質の良いおもちゃを、日本の子どもたちに届ける」ことです。また、流行に乗るのではなく、自分たちが良いと思ったものだけを取り扱うようにしています。
たとえば最近のおもちゃはパステルカラーの淡い色が多い一方、弊社が取り扱う商品は赤、青、黄、緑などはっきりとした色が基本です。流行りに左右されない昔からのオリジナリティを尊重しているのです。
さらに私たちが重視しているのが、「心を育てるおもちゃ」を提供することです。私たちが扱う木製のおもちゃは生産には手間と時間がかかり量産化には適しておらず、プラスチック製のものより価格は高くなってしまいます。
しかし、幼少期に自分の手で感じ取った感触や、生活の中で生まれた感情は、その後の人生に少なからず影響を与えるものです。そのため私たちはこれからも木製のおもちゃの販売を続け、伝統技術を後世に残すお手伝いをしていきたいと思います。
ーービジネスパートナーである玩具メーカーとはどのようなスタンスで関わっていますか。
西川涼:
私たちが大切にしているのは、つくり手の気持ちを尊重し、手を取り合いながら共に成長することです。弊社がお付き合いしているメーカーさんは、代々事業を引き継いでいるところが多いのです。ただ、技術を受け継ぎながらも、職人の個性をものづくりに反映しているのが印象的ですね。
また、角に丸みをつけるなど小さいお子さんが安心して遊べるよう工夫されています。こうして丹精込めてつくられた商品を消費者に届けることが、私たちの使命です。後継者問題などで廃業が相次ぐ玩具メーカーを守るためにも、多くの方に商品を手に取っていただけるよう、販促活動に力を入れていきたいですね。
販売力の強化と販路拡大に向けた取り組み
ーー今後の注力テーマについて教えてください。
西川涼:
大きく3つあります。1つ目は、販売店やメーカーとの関係強化です。具体的にはお客様のニーズに合った商品を提案するため、販売店に商品のターゲット層やアピールポイントなど、定期的に情報提供を行っています。
また、エンドユーザーの声をメーカーに伝え、お客様の意見を反映した商品づくりをサポートするのも私たちの仕事です。こうしてメーカーと卸会社、販売店がタッグを組むことで、より多くのお客様へ商品をお届けしたいですね。
2つ目は、EC販売です。コロナ禍で店を営業できなくなり、お客様から「どこで商品を買えますか」と多くの問い合わせをいただきました。会社の理念として「実際に商品を見て、手に取って、子どものための商品を選んでいただきたい」という気持ちがあったので、これまではECに手を出してきませんでしたが、これを機に、店舗に来られないお客様にも商品を案内できるよう、EC販売の必要性を改めて感じることになりました。
最初からすべての商品を購入できるようにするのではなく、お客様の声をお聞きしながら、少しずつ取扱品目を増やしていきたいと考えています。
3つ目は、自社で運営している店舗の販売力の強化です。お客様に商品の魅力をお伝えするため、一部の店舗にサイネージを導入し、商品で実際に遊んでいる子どもたちの動画や、メーカーからもらったプロモーション動画などを流して、より多くのお客様に商品を知ってもらおうと工夫しています。
なお、これまで商品の配置などは店長に任せていたのですが、現在は本部でも店舗のディスプレイを一緒に考えるようにしています。会社として売りたいものをアピールするため、店のスタッフと協力しながらお客様の目に留まりやすい陳列を意識しています。
さらに、お客様の目的に合わせた商品提案ができるよう、力を入れているのがスタッフの教育です。弊社にはプレゼント用に商品をお買い求めくださるお客様も多いので、お子さんの年齢や予算に合わせて商品を提案できるよう指導しています。
日本人の「物を大切にする文化」を継承していきたい
ーー最後に今後のビジョンについてお聞かせください。
西川涼:
弊社の認知度を高め、「輸入のおもちゃといえばニキティキだよね」と言っていただける会社になるのが、私たちの目標です。そのために「値段は少し高くてもニキティキで買ってよかった」と言ってもらうため、商品の価値をアピールしていきたいですね。
また、弊社の商品が「物を長く大切に使う」感性を養う一助になればと思っています。現代の日本は消費社会で、安く手に入れて壊れたら新しいものを買い替える、というのが当たり前になってしまいました。
私は今一度、日本に根付いてきた「物を大切にする文化」を見つめ直してほしいと願っています。そのために長く使い続けられる良質な商品を提供し、物を丁寧に扱うことの大切さを伝えていきたいですね。
編集後記
「おもちゃを使って周りの大人たちと一緒に遊ぶことが、お子さんの心の成長につながる」と話してくれた西川社長。デジタルデバイスが普及する中、改めておもちゃを通じて子どもとコミュニケーションを図ることの大切さを感じた。株式会社アトリエ ニキティキはこれからも質の高いおもちゃを提供し、子どもたちの成長に欠かせない商品を届けていくことだろう。

西川涼/1974年東京都生まれ。順天堂大学卒業後、ドイツ・オーストリアへ留学。2年間、オーストリア・キッツビューエルでスキー教師として働く。帰国後の2001年に母親が経営する株式会社アトリエ ニキティキに入社。配送センター移転プロジェクト・基幹システム開発プロジェクトの陣頭指揮を執る。2008年、代表取締役に就任。