
米の卸売りや物流、不動産、情報関連など、多岐にわたる事業を展開している株式会社ヤマタネ。2024年に創業100周年を迎えた同社は、老舗企業でありながら次々と新たな取り組みにチャレンジし、成長を続けている。
この「チャレンジ」という点に重きを置き、より良い組織づくりに取り組んでいるのが代表取締役社長の河原田岩夫氏だ。同氏を取材し、独自の経営術を聞いた。
会社の持つ「高いポテンシャル」を信じて社長就任を決意
ーー貴社に入社した経緯をお話しいただけますか。
河原田岩夫:
大学卒業後に住友銀行(現:三井住友銀行)へ入行し、各地で法人営業の仕事をしていましたが、2011年から2013年の2年間、部長としてヤマタネを担当することになり、そのときに現代表取締役会長である山﨑に出会いました。
入社した2022年5月頃のヤマタネは成長が鈍化しており、山﨑から「会社の成長と後継者育成を手伝ってほしい」と頼まれたのです。
「この2つのミッションをクリアしてくれれば、後は好きにして良い」ということだったので、それなら挑戦してみようという想いで、副社長として会社に入ることを決めました。
ーーそれからどういった経緯で社長に就任することになったのでしょうか。
河原田岩夫:
副社長として入社した1年後、山﨑から「後継者になってほしい」と頼まれました。
最初聞いたときは「社長を任せるなんて、話が違うだろう」と思いましたが、僕は、ヤマタネが高いポテンシャルを持っていることに気づいており、成長できるという確信があったので、実際は会社を引き継ぐことに迷いはありませんでしたね。
ポテンシャルを感じていた点は大きく3つあります。1つ目が真面目で優秀な社員たちがいること、2つ目が「信は万事の本を為す」という企業理念にあるとおり、物流事業においては取引先である大手荷主から、食品事業においては生産者からそれぞれ強い信頼を得ていること、そして3つ目が、好立地のオフィスビルや倉庫といった素晴らしい資産を持っていることです。
良い社員がいて、信頼のネットワークがあり、素晴らしい資産がある。「これで成長しないなんてあり得ない」と考えました。
物流・食品・情報・不動産の4つの事業で社会を支える

ーー事業内容についてお聞かせください。
河原田岩夫:
創業当初から手がけているのが、米の卸売事業です。JA等を通じて大量の米を仕入れ、量販店や外食産業に届けています。また卸すだけでなく、生産に進出するべく2024年9月に農業生産法人「株式会社ブルーシード新潟」を立ち上げました。今年から米づくりをスタートする予定です。
このブルーシード新潟では米の生産コストを下げるために、新たな栽培技術や資材を採用したり、農業機材を効率的に運用したりといった取り組みを実施します。
ほかにも、米の栽培におけるメタンガスの発生を中干し期間の延長により抑制し、J-クレジット(省エネなどの取り組みによって削減・吸収された温室効果ガスの量を「クレジット」として国が認証する制度)として申請し、生産者の方々に収入として還元するという挑戦もしています。
また、家電や食品、衣料品など、多彩な製品を倉庫で預かり運送する物流事業も、弊社の主要事業の1つです。2024年4月にはSCM(サプライチェーンマネジメント)推進部という部署を立ち上げ、お客様の商品生産から輸送、流通、販売、回収までをマネジメントし、最適な物流の提案に挑戦しています。
さらに、不動産事業も70年以上の歴史とノウハウがあり、2025年5月には江東区の越中島事業用地を開発する「越中島グランドビジョン」を公表しました。
その他、システムエンジニアを企業に派遣してシステム開発をサポートする情報事業などがあります。
ーー貴社が経営するにあたり大切にしていることは何でしょうか?
河原田岩夫:
弊社は、関係の質、思考の質、行動の質、結果の質という順番で質を高めることで、成功の循環モデルの構築を目指しています。社員たちに結果をまず求める企業は多いですが、関係の質、つまり人間関係が悪ければ、良い結果を残すことはできません。
関係の質が良いからこそ創造的な会議などを行うことができます。そういった意味で弊社は、関係の質の向上からスタートすることを意識しています。
良い組織をつくるためには、社員たちがチャレンジできる企業文化が重要
ーー社長が描いている今後のビジョンを聞かせてください。
河原田岩夫:
チャレンジ精神溢れる企業文化をつくり、「社員を活性化させること」を目指します。
僕は、経営学者のピーター・ドラッカーが提唱する「企業文化は戦略に勝る」という言葉を経営の信条に掲げています。これは、どんな戦略を練るよりも、良い企業文化をつくることが重要だというものです。
僕が考える良い企業文化とは「チャレンジしやすい企業文化」であり、この文化をつくるための施策として「チャレンジ評価制度」を昨年度から導入しました。これは、何かにチャレンジした社員には、そのチャレンジの内容を申告してもらい、賞与に加えて、チャレンジを称える報酬を渡すというものです。
また、企業文化の醸成を通じて、社員たちに当事者意識を持ってもらうことも重要です。そのために弊社では、定期的にグループ社員たち全員に弊社の株式を譲渡しています。株式を持てば会社の経営への興味や当事者意識を持つことにもつながると考えました。
そのほか、休暇制度として存在していた「リフレッシュ休暇」を、これまでの3日から連続5日の取得に拡充しました。この休暇については、全役職員の取得を義務化しています。
ーー最後に、貴社へ興味を持っている読者へメッセージをお願いします。
河原田岩夫:
弊社では、「挑戦を楽しむ」・「チームの力を信じる」・「“ありがとう”を繋げる」という3つの価値観を大切にしており、この価値観に賛同する方々に入社してもらいたいと思っています。
新卒とキャリアの両方を募集しているので、この価値観に共感し、社会に貢献していきたい人と一緒に働けると嬉しいです。
編集後記
100年という長い歴史を持ちながらも、農業生産法人の立ち上げやチャレンジ評価制度など、他社にはない革新的な取り組みを次々と手がけているヤマタネ。
歴史の長い企業の中には、守りに入って新たなことに挑戦できないケースも珍しくないが、この攻めの姿勢こそが同社の強さの理由なのだと感じさせられた。

河原田岩夫/1986年4月、住友銀行(現・三井住友銀行)入行。各地で法人営業部長を務める。2019年同行専務執行役員、三井住友フィナンシャルグループ専務執行役員就任。2022年5月ヤマタネに入社、副社長執行役員経営企画を担当。2024年6月より代表取締役社長に就任。