※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

データ復旧やサイバーセキュリティといった専門性の高い領域で、日本トップクラスの実績を誇るデジタルデータソリューション株式会社。同社を率いるのは、25年前に営業職として入社し、紆余曲折を経て社長に就任した熊谷聖司氏だ。民事再生を乗り越え、理念を軸にした経営で会社を再建した同氏の話には、苦難の中でも「困った人を助ける」という一貫した哲学が貫かれている。今回は、これまでの歩みと、これからの展望について話をうかがった。

理念に立ち返った再出発。民事再生と「顧客視点」の原点

ーー入社のきっかけや入社後のお話について教えていただけますか。

熊谷聖司:
弊社に入社したのは知人からの紹介がきっかけです。当時は20名ほどの小さな会社で、営業力を求められて採用されました。入社して3か月だけ働いて、その後は海外へ行くつもりでしたが、数字がついてくるようになると営業成績が評価されて、入社して2か月で課長に任命されました。仕事が面白くて没頭してしまい、結局日本から離れることはありませんでした。

私が入社後、早々に数字を上げて昇進できたのは、成果だけではなく「なぜ売れたのか」を社内で説明できたからだと思います。売上を構造的に分析し、自分の考えを論理的に話せたことが、評価されたのではないでしょうか。先輩たちが多くいる中でマネジメントをするのは大変でしたが、新人を自分で採用・育成し、最終的に成果を出せるチームをつくれた経験は大きかったです。

ーー民事再生を経験されたとのことですが、その際に何を見直されたのでしょうか。

熊谷聖司:
2014年、前経営陣が残した16億円の負債を抱えて民事再生になり、私が全株を引き継ぎました。その直後、がんで余命4ヶ月と診断され、絶望感を味わいました。プライベートでも不安な日々を過ごしていました。そんな時期、深夜に自分の病気について調べていて、「データを探すとき、顧客も不安を解消したいという気持ちなのでは」とふと思いました。それまでは数字にこだわる経営でしたが、それを機に、「困った人を助けたい」という理念に立ち返り、数字よりも理念を重視する経営に大きく舵を切ったのです。

ーー社員の方々の反応はどうでしたか。

熊谷聖司:
理念を重視する方向へかじを切ったことで数字にこだわるメンバーは去ってしまいましたが、理念に共感する少数のメンバーが残ってくれました。おかげで、強い組織の基盤ができたと感じています。今でも「困った人を助ける」が企業理念の柱であり、社員全員に浸透しています。

理念×競争戦略で世界へ!「フルライン戦略型」サービスが導く未来図

ーー事業拡大の転機について教えてください。

熊谷聖司:
きっかけは、広告用のFAXデータが突然消えたことでした。復旧業者に依頼しましたが、彼らの対応に不満を感じ、「自分たちでやろう」とデータ復旧に参入したのです。Webマーケティングを主軸に据えた戦略が功を奏し、データ復旧業界の先頭に立つことができたのが転機となり、その後、フォレンジック、サイバーセキュリティへと事業を拡大していきました。

ーー貴社の強みはどこにあると考えていますか。

熊谷聖司:
リカバリー・フォレンジック・サイバーセキュリティの三位一体体制です。データトラブルに関しては総合病院的にワンストップで対応できる体制が整っていて、これが他社にない強みです。国内では月500社以上の新規取引があり、官公庁や上場企業との取引も増えています。

理念に共感する人材とともに、世界ナンバーワンへの挑戦

ーー人材の採用についてもお聞かせください。

熊谷聖司:
採用の軸は「愚直に真面目に取り組める人」です。理念を貫いてきたことで離職率が大幅に下がり、今では300人規模の組織に成長しました。社員同士が理念を共有していることが、組織の安定感につながっていると感じます。

ーー今後の展望についてお聞かせください。

熊谷聖司:
2025年にはベトナム、その後、アジア、ヨーロッパ、アメリカに進出します。世界的に見ても、弊社のようにデータ問題全般にワンストップで対応できる企業はほとんどありません。アジアを皮切りに、最終的には「世界ナンバーワン」のビジョンを掲げて進んでいきます。

ーービジョン実現の鍵は何になりそうですか。

熊谷聖司:
やはり、人です。理念に共感し、愚直に真面目に取り組める人が活躍する組織を維持することですね。組織規模の拡大に合わせた人事制度の再構築も急務です。経営戦略としては、今後もサイバーセキュリティを主軸に据えつつ、「困った人を助ける」という軸をぶらさず、必要な市場に必要なサービスを届けていきたいと思っています。

編集後記

「理念経営」という言葉がこれほど実感を持って語られる現場に出会うのは、そう多くない。数字に追われる日々の中でも「誰かを助ける」ことを第一に据える姿勢に、多くの人が共感するのだろう。ITの高度化に比例して、デジタルの「もしも」に備えることが社会の重要な基盤となっている。熊谷氏の描く未来図は、その基盤を支える柱となるはずだ。

熊谷聖司/1976年生まれ。2000年、デジタルデータソリューション株式会社に入社し、営業責任者として活躍。2014年同社代表取締役社長に就任。「困った人を助け、困った人を生み出さず、世界中のデータトラブルを解決します。」を理念にリカバリー、フォレンジック、サイバーセキュリティ領域で業界を牽引。現在は海外展開にも注力。