
製造業の縁の下の力持ちとして、締結部品の供給を担う株式会社鋲定本店。同社はネジを中心とした多様な部品の販売と特注品の開発を手がけ、小回りの利く対応力を武器にさまざまな顧客のニーズに応えている。「感謝と和合」の社是のもと、社員一人ひとりの個性を尊重し、永く続く企業を目指す金枝総吉社長に話をうかがった。
システム効率化の経験を活かし、家業の改革に挑む
ーー貴社に入社する前はどのようなご経験をされましたか。
金枝総吉:
私は就職氷河期に大学を卒業しましたが、大学時代に取得していた情報処理技能検定の表計算1級の資格を評価してもらい、スカウトされる形で株式会社アイ・エス・ビーに入社しました。
最初は総務部に配属され、社宅や不動産の管理に携わり、仕事の一環で退職した社員の部屋に退去のお願いに行ったことがあるのですが、行ってみたら部屋の天井までゴミが溜まってて、退去できなかった」と言われたことがありました。ゴミ屋敷などドラマやテレビの世界のことだと思っていましたが、「現実にこういうことって起こるんだ」と思ったことを覚えています。
また、当時はコンピューターが普及し始めた時期でもあったので、社内のシステム効率化にも取り組みました。この経験は、後に弊社でDXを進める際に非常に役立っています。
ーーその後、貴社に入社して社長になるまでの道のりをお聞かせください。
金枝総吉:
子どものころから家業である弊社を継ぐことを意識していたので、アイ・エス・ビーで4年ほど経験を積んだのち、2001年に入社しました。営業職として既存顧客との関係強化や新規のお客様の獲得に取り組む中で、お客様の要望に応えていくやりがいや難しさを肌で感じました。
そうした業務と並行して、2005年ごろから社内の課題にも目を向けるようになりましたが、外部の企業で働いた経験があるからこそ、弊社の良い点や悪い点を客観的に見ることができました。当時の弊社は古い体質が残っており、在庫管理や品質管理といった面で改善すべき点が多く反対の声もありましたが、これからの時代に必要だと考え、業務改善のために、バーコード管理の導入など業務のDXを粘り強く進めました。
小回りの利く対応力と徹底した品質管理で、多様なニーズに対応

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。
金枝総吉:
締結部品の専門商社として、ネジを中心とした製品を販売しています。弊社の強みは、小回りの利く対応力です。多くの製品をストックしているため、お客様のご要望には柔軟に対応ができます。加えて、特注品への対応にも力を入れており、お客様から「こういうものが欲しい」と言われれば、それを実現するために協力会社とともに製品開発から取り組んでいます。
また、製品の品質に対して徹底的にこだわっている点も強みといえるでしょう。品質管理部門による検査や協力会社への指導を通じて、高品質な製品の提供に努めています。近年は規格品よりも特注品の売上比率が高まっているため、納期・品質・コストのバランスをとりながら、お客様の多様なニーズに応える体制づくりを進めているところです。
ーー大切にしている価値観についてお聞かせください。
金枝総吉:
「感謝と和合」という社是に表れているように、私は「和」と「感謝」を何よりも大切にしています。さまざまな個性を持った社員がいる中で、それぞれの強みを活かしながら一つにまとまり、同じ方向に進むためには互いを尊重し合う「和」の精神が欠かせないと思うのです。
また、「感謝」については、特に顧客に対する姿勢として重要視しています。弊社が長年にわたって事業を継続できているのは、お取引してくださるお客様のおかげです。お客様あっての商売という原点を忘れず、長期的な信頼関係を築けるように心がけています。
社員という財産とともに着実な成長を目指す
ーー今後の展望についてお聞かせください。
金枝総吉:
私は急激な成長よりも、着実な成長を重視しています。会社は大きくなることだけが成功ではなく、安定して存続し、社員と顧客に価値を提供し続けることも同様に大切だと考えています。現在は約70名の社員が弊社を支えてくれており、特に長年勤続してくれる社員の存在は弊社の大きな財産です。そうした社員たちに報いるべく事業を継続していきたいですね。また、M&Aによる事業拡大も視野に入れていますが、単なる規模拡大ではなく、相乗効果を生み出せるよう、慎重に検討を重ねているところです。
今後も「お客様あっての商売」という原点を忘れずに、DXの推進や品質管理の徹底といった取り組みをさらに進化させていくつもりです。そして変化の激しい時代においても揺るがない基盤をつくり、次の世代へとバトンを渡せるよう努めていきたいと思います。
編集後記
取材中、金枝社長が語った「自分ができないことは人にお願いする」というスタンスが印象的だった。社長自身が全てを担うのではなく、社員の力を信頼して任せる姿勢は、多様な個性を持つ社員たちが活躍できる土壌をつくり出している。人を活かし、組織の可能性を引き出す金枝社長流のマネジメント術は、人材不足が叫ばれる時代において特に価値のあるもののように思えた。

金枝総吉/1973年生まれ。立正大学卒業後、株式会社アイ・エス・ビーに入社。その後、2001年に株式会社鋲定本店に入社。2012年に同社代表取締役に就任、現在に至る。