IoT分野が伸び、EV化により電子部品の需要が増加したことで、業界は盛り上がりを見せている。
そんな中、電子機器の製造に必要なプリント基板のインターネット通信販売サイト「P板.com」を運営しているのが、株式会社ピーバンドットコムだ。
同社はプリント基板のネット販売事業の先駆者であり、作成に必要な最初の費用(イニシャル費用)を無料化し、オンラインで注文できる利便性が評価されて、業界で大きなシェアを持っている。
製品・アプリの設計や開発、製造、量産までをトータルで提案し、さらなるシェア獲得を目指す、後藤社長の思いを聞いた。
音楽活動と両立するためアルバイトとして始めた仕事に熱中
ーー後藤社長は社名変更前の株式会社インフローのときにご入社されていますが、それまでの経緯についてお聞かせいただけますか。
後藤康進:
大学生のときに始めた音楽活動を卒業後も続けていて、プロのミュージシャンを目指していました。音楽だけでは食べていけなかったので、音楽活動をしながらでも働きやすいアルバイトを探していた際、自宅のすぐ近くでプリント基板のネット通販をしている会社の募集広告を見つけました。
デスクワークで、起業したばかりの会社で従業員も少ないから気が楽だなと思い、アルバイトとして始めたのがそもそものきっかけでした。
それから2、3年は掛け持ちで働いていたのですが、スタートアップ企業のイノベーションによる新たな市場創出に興味を持ち、バンド活動は辞めて会社員の仕事に専念するようになりました。
ーー実際に働き始めてからはいかがでしたか。
後藤康進:
弊社で扱っているプリント基板は、通常は製品に組み込まれているものなので、一般の方が自分で購入することはありません。当時、私も何の知識もなかったので、プリント基板について勉強するところからスタートしたのですが、知れば知るほどのめり込んでいきました。
また、当時はプリント基板のネット販売を始めた国内初の企業だったので、世の中にない新しいことをするんだというワクワク感でいっぱいでした。
失敗ではなく次に活かすための貴重な情報源ととらえる
ーーアルバイトから社員になられて印象は変わりましたか。
後藤康進:
社員になってからも会社を辞めたいと思ったことは一度もないですし、苦労したことなどは特になくて、とにかくずっと楽しみながら働いています。
弊社は新しい市場を作る立場として、成功する可能性があると思う案については仮説を立てて検証を繰り返すので、その過程が一貫して魅力的なものとなっています。
たとえ上手くいかなかったとしても単なる失敗ととらえるのではなくて「新しい情報を得られてラッキーだ、それを次に活かそう」と考えます。
また以前、代表取締役を務めていた田坂が、自らリーダーシップをとるというよりも、社員一人一人の意見を取り入れるタイプだったのも大きいと思います。
“みんなが良ければいいんじゃない”というスタンスだったので、とても自由にさせてもらいました。
ーー今年の6月に社長に就任されていますが、この経緯についてお教えいただけますか。
後藤康進:
前代表がそのような考えだったので、「社長業をやらせてほしい」と言ったら通るかもしれないと思い伝えてみたところ、食い気味に「いいよ」と言ってもらえました。
ーー後藤社長も社員にすべて任せるというスタンスなのでしょうか。
後藤康進:
私も会社を経営する立場になったため、後のことはみんなに任せ、口出しはしないように気を付けています。しかし、黙って見守るというのもそれはそれで大変です。
ただ、今までの自分のやり方を押し付けてしまうと、結局その延長線になるだけです。
人に任せることで新たな展開も生まれますし、さまざまな意見が集まることで事業も大きく成長していくだろうと期待しています。
プリント基板作成時のイニシャル費用は0円、口コミでサービスが広まる理由
ーー貴社のサービスを利用されているお客様はどのような方々が多いのでしょうか。
後藤康進:
新商品の研究開発を行っている大手企業様をはじめ、産業機器メーカー様や学校、受託設計事務所様、あるいは個人事業主の方々など、幅広いユーザーにご利用いただいています。
ーー研究開発段階での依頼が多いのはなぜですか。
後藤康進:
通常、プリント基板を作成する際にかかるイニシャル費用をいただかないのが大きな理由です。
プリント基板を作る場合、まずは型となるフィルムや印刷版を作って量産します。ただ、このフィルムや印刷版自体が高額なので、試作として数枚作るのに初期費用がかかり過ぎてしまうと、開発時に大きなネックになってしまいます。
そのため弊社ではイニシャル費用がかからない料金体系にしているのですが、こうしたサービスを始めたのは弊社が初だと思います。こうしたメリットがあるため、小ロットのご注文も多くいただいています。
ーーユーザーの方々は何がきっかけで貴社のサービスを利用されているのでしょうか。
後藤康進:
弊社が実施したアンケート調査によると、口コミが4割ほどを占めています。紹介によって、広告宣伝費をかけずに新規ユーザーを獲得できているというのが弊社の強みですね。
それ以外の6割の方々は、インターネットの検索結果に連動して表示されるリスティング広告や、電子工学専門の月刊誌である『トランジスタ技術』に掲載している広告を見てご注文いただくことが多いです。
今後の目標について・読者の方々へのメッセージ
ーー今後どのような分野に注力していこうとお考えですか。
後藤康進:
これまではお客様自身がどのような製品やアプリを作るか、量産体制を考えたうえで、弊社にオンラインでご注文いただき生産するというのが主な流れでした。
今後は設計や開発などの上流工程から製造、量産までをトータルでご提案できるよう、サービスの拡充に注力しているところです。
また、これまではオンラインで完結していたのですが、「仕組み✕人」をテーマとし、量産のフェーズに入ってからは営業や技術担当者がサポートする体制を強化しています。
製造に必要な開発、量産、技術情報の収集、販売促進、資金調達などのリソースを私たちが補うことで、クライアントの問題を解決できればと思っています。
ーー取引先についてはいかがですか。
後藤康進:
プリント基板の市場自体は5000億円くらいなのですが、弊社は現在20億円ほどの売上にすぎず、売上拡大のポテンシャルは大きくあります。
ーーこの記事を読まれている10代・20代の方々にメッセージをお願いします。
後藤康進:
私は何事も楽しむことが最も重要だと考えています。
「努力は夢中に勝てない」という言葉が好きなのですが、何かに夢中になっているときって無心でひとつのことに熱中していて、まさに無敵の状態ですよね。そんな無敵な人に対していくら努力したとしても、結果として負けてしまうと思うのです。
「今から寝る」と決めて寝るのではなく、眠くなったら自然と寝るのと同じように、何かに夢中になるのも無意識です。ですから、いろいろなことにチャレンジしてみて、自分が夢中になれるものを見つけてもらいたいですね。
編集後記
今回のインタビューで、仕事をとにかく楽しみ、大変なことも苦労ととらえず、次々と乗り越えていく後藤社長のポジティブさを感じた。バンド活動に集中するためアルバイトとして入った会社で社長となったのも、経営者として大切なマインドが備わっていたからだろう。ネット販売の先駆者である株式会社ピーバンドットコムのサービスは、これからもさまざまな製品やアプリ開発を支えることだろう。
後藤康進(ごとう・やすのぶ)/1977年生まれ。明海大学経済学部卒業後、プロを目指しバンド活動に専念。2004年株式会社インフロー(現:株式会社ピーバンドットコム)入社。2011年COO(事業統括)、2015年取締役COO就任。マーケティング・営業部長、営業事業部長などを兼務・歴任し、事業部門を管掌。2023年6月、代表取締役社長に就任。