
製造現場のアナログなデータ管理に変革を志す株式会社Mountain Gorilla。紙に書かない帳票システム「カカナイ」で製造業のDXを推進し、エンジニア派遣やAI・AR受託開発も手掛ける。代表取締役の井口一輝氏に、創業の経緯から事業の核心、そして日本のものづくりへの思いを聞いた。
創業の原点と「アナログ製造現場」への挑戦
ーー起業までの経緯を教えてください。
井口一輝:
近畿大学大学院では超伝導デバイスを研究し、その後デンソーのグループ会社へ進みましたが、ただ、学生時代から松下幸之助さんや稲盛和夫さんといった製造業の偉大な起業家に憧れ、漠然と「社長っていいな」と起業を意識していました。
デンソーグループでは約10年間、製品の企画からリリースまで一連の設計開発業務に携わりました。そこで最先端の技術に触れる一方、製造現場では紙ベースのアナログなデータ管理が多いことに課題を感じました。「これがデジタルに変われば、ものづくりはもっと良くなるはずだ」との思いが強まり、起業を決意したのです。
ーー起業後、苦労したのはどういった点でしょうか?
井口一輝:
創業当初はエンジニアの派遣事業からスタートしましたが、私自身エンジニア畑で営業経験がなかったため、特に自社サービス「カカナイ」を広めることに苦労しましたね。飛び込み営業や自作のトークスクリプトでのテレアポ、ビジネスプランコンテストへの出場、行政からの紹介などを通じて、地道に顧客を開拓していきました。
ーー主力サービス「カカナイ」について教えてください。
井口一輝:
創業後、受託開発でお客様と接する中で、製造現場の「ペーパーレス化したい」「アナログな記録作業を効率化したい」という切実なニーズに直面しました。これが「カカナイ」開発の直接的なきっかけです。
タブレットやスマートフォンで誰でも簡単に入力できる操作性と、各現場の特性や要望に合わせて機能をオーダーメイドでカスタマイズできる柔軟性が強みです。これにより、現場の方々にとって本当に使いやすいシステムを提供できています。導入いただいた企業様からは、「今やなくてはならない存在」「作業や集計関連の時間が3分の1になった」といった嬉しいお声を多数いただいています。
また、最初は作業記録のデジタル化から導入いただき、その後、品質管理や安全衛生管理といった形でお客様のニーズに合わせて機能を追加・拡張していける点も、長くご愛用いただいている理由の一つだと考えています。
多彩な技術力とユニークな企業文化

ーーエンジニア派遣事業では、どのような強みがありますか。
井口一輝:
弊社のエンジニアは、開発業務だけでなく、お客様の課題解決に向けた企画提案まで行える点が強みです。多くは愛知県の自動車産業で経験を積んだメンバーで、品質管理に対する意識が非常に高く、システム開発におけるバグを許さない厳しい目で仕事を進めています。派遣先のメーカーは、特に製造業のお客様が多く、高い技術力とプロジェクト推進能力は評価いただいています。派遣業務を通じて得た知識やノウハウは、自社製品開発にも活かされています。
ーーAI・IoT技術を用いた受託開発では、ユニークな実績も多いとうかがいました。
井口一輝:
はい、さまざまな開発を手掛けています。たとえば、動物の異常行動を画像認識で検知するシステムや繁殖支援として繁殖期をAIで予測し、ゲートを自動開閉させてオスとメスを効率的に出会わせるシステムの開発も大学と連携して行いました。また、クラフトビールの最適な醸造条件の研究や発酵度合い予測なども実績の一つです。
ーー「カカナイ」から派生したサービスについてもお聞かせください。
井口一輝:
私自身クラフトビールが好きで、醸造家の方々との親交もあります。また、「カカナイ」の導入先の一つにクラフトビールの醸造所があり、製造条件の記録に活用いただいていました。この実績を元に、醸造記録に特化したパッケージサービス「記醸(きじょう)くん」を開発したのです。さらに、醸造家の方々と共に一般社団法人を設立し、この「記醸くん」は現在、小規模クラフトビール醸造所向けシステムとして約60社に導入いただいています。
ーー貴社独自の社風についてお聞かせください。
井口一輝:
弊社では社員のことを敬意と親しみを込めて「ゴリラー」と呼んでいます。これは「社員」という呼称が少し硬いのでは、という意見から、みんなで考えたものです。ちなみに私が「ボスゴリラ」です。社内は上下関係があまりなく、非常にフラットな雰囲気で、私自身も社員との距離が近いと感じています。
弊社の経営理念も、私がトップダウンで決めたものではなく、年に1度1泊行っている社員全員参加の「理念合宿」でつくり上げました。主力サービス「カカナイ」の名称や、「ゴリラー」という呼び方も含め、社員のアイデアが形になることが多いですね。みんなで会社をつくり上げていく、そんな文化が根づいています。
日本のものづくりを革新する未来と求める仲間
ーー今後の展望についてお聞かせください。
井口一輝:
将来的にはIPO(新規株式公開)を達成したいと考えており、5年後くらいには具体的な道筋をつけたいです。事業の中心である自社商品「カカナイ」をさらに成長させ、来期には単体で売上高1億円、その3年後には倍増を目指します。また、現在注力している生成AIと連携した新サービスを年内にはリリースする予定です。
日本の製造業は素晴らしい技術力を持っていますが、デジタル化の遅れなどの課題も耳にします。私たちのIT技術やDXのノウハウで製造現場をサポートし、日本のものづくり全体を盛り上げていきたい。それが日本経済の活性化にも繋がると信じています。
私たちは「匠超え」という言葉を掲げています。熟練技術者である「匠」の知見や判断をデータとAIで再現し、時にはそれを超えるような新しい価値を生み出す。ITものづくりを通じて、リアルなものづくりを力強く応援していきます。
ーー最後に、どのような方と一緒に働きたいとお考えですか。
井口一輝:
ITやものづくりが好きで、新しいことに対する探究心を持ち、自ら進んで学んでいける方と一緒に働きたいですね。私たちのお客様は現場の方々なので、その喜びや時には厳しいご意見もダイレクトに受け止め、お客様に寄り添い、それを自らの成長の糧にできる方が向いていると思います。
そして、弊社のフラットでオープンな組織文化を面白いと感じ、それを共に楽しんでくれる方です。「マウンテンゴリラ、なんだか面白そうな会社だな」「一緒に日本のものづくりを元気にしたい」そう感じてくださる方からのご連絡をお待ちしています。
編集後記
製造現場の課題解決と日本のものづくり活性化への情熱を胸に、株式会社Mountain GorillaはDXを推進する。井口社長の語る「カカナイ」の可能性と、社員主導のユニークな「ゴリラー」文化は、同社の躍進を支える両輪だ。「匠超え」の未来に期待したい。

井口一輝/1979年和歌山市出身。近畿大学大学院修了後、超伝導デバイスの研究に従事。その後、デンソーテクノ株式会社に入社し、電子回路技術者として約10年間、ロボット、HEMS、スマートアグリ、BHT(ハンディターミナル)など多岐にわたる製品開発に携わる。2014年に株式会社Mountain Gorillaを創業し、代表取締役に就任。