※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

2017年に創業し、国内外に拠点を持つキャディ株式会社。製造業のサプライチェーンが抱える共通課題を解決するべく、AIによるDXに注力している。起業のきっかけや今後の展開について、代表取締役CEOの加藤勇志郎氏に話をうかがった。

日本産業の「調達」課題を解決するために起業

ーー加藤社長のご経歴を教えてください。

加藤勇志郎:
大学時代から個人で事業を行っており、この先の人生をかけて起業するのであれば大きなトピックに挑戦したいと考えていました。グローバルな市場を持ちつつディープな課題がある業界が理想でしたが、学生時代には具体的な事業を思いつきませんでした。

そこで3年間と期間を決めて、各業界の経営支援ができるマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社した次第です。様々な業界のコンサルティングをする中で、製造業における「調達」の領域が面白いことに気付きました。製造業は世界に通用する日本の産業の一つです。世界的にも最大の市場でありながら、デジタル化が全く進んでいないという課題もありました。

ーー「調達」領域が抱える具体的な課題は何でしょうか。

加藤勇志郎:
発注する企業側が部品を調達する際に「最適なサプライヤーを知らない」「各工場の強みや品質がわからない」といった壁にぶつかることがあります。発注するモノが特注品である場合、新しい取引先に依頼をしても、品質が悪くて使えなかったり、納期遅れが発生したりすることも少なくありません。そうすると「既存の取引先にまたお願いしよう」となってしまいます。

サプライヤー側である工場から見ても、100件の見積もりに対する実際の受注数は20件というのが日本の平均値です。見積もりには膨大な時間がかかるため、無駄な時間が発生していることは明らかです。下請け構造が強く、1社への依存度が高い工場の多さも問題でした。

そこで、工場の得意分野をデータ化して見積もりを自動でできるようにすれば、営業せずとも新しい案件が入ってくる状態を作れます。また、発注する側も最適な工場を選べ、安くて良いものを購入できるメリットがあります。私は双方の間に入って業界の課題を解決するべく、調達担当の方にも話をうかがいながら事業プランを決めました。

AIによる図面データの一元管理

ーー事業立ち上げ後、どのように事業を拡大してきましたか。

加藤勇志郎:
7月に創業当時からの事業と統合を行い、現在は図面管理システム「CADDi Drawer(キャディ ドロワー)」の販売に注力しています。これは「製造業における図面などの重要データを一元管理できるプラットフォーム」です。

今後ますますAIの利用が一般化していく時代となる中で、製造業における「データ」はとても重要な要素です。「データが紐づいていない」「紙でしか保存していない」という会社はAIの恩恵を受けられません。業界全体の進化が止まることになるため、我々は「CADDi Drawer」をいかに世界に広げていくかを今の課題としています。

ーー今後の展望をお聞かせください。

加藤勇志郎:
「CADDi Drawer」は、現在、日本・アメリカ・ベトナム・タイで使用されています。5年後のビジョンとしては、製造業が盛んな全ての国に展開したいと考えています。人間の判断が不要な作業はAIに意思決定させ、効率化・行動化が実現する状態をグローバル化したいのです。そのためにも図面・CAD・品質・仕様書・営業・メンテナンスといった、あらゆるデータの蓄積が必要です。

職人さんの知恵を含む過去の情報に誰もが瞬時にアクセスできれば、同じ作業を繰り返す必要がなく、企業は複利的に成長していけるでしょう。こうした観点からも、製造業においてデータの基盤となるプラットフォームづくりを目指しています。新しい図面を描く前に過去のデータを再活用して、設計の時間をゼロに近づける。人が人らしく働き、過去の知見は将来に引き継がれる、そんな世界をつくっていきたいのです。

求めるのは野心を持った仲間たち

ーー採用において、どのような人物を求めていますか。

加藤勇志郎:
世界中のソフトウェア市場におけるアメリカのシェアは50%以上を占めています。世界に大きなインパクトを与えるには、基本的にアメリカで成功するほかありません。「CADDi Drawer」の展開を強化するため私はアメリカに住んでいますが、コアな拠点は日本にあります。グローバルで価値を生み出している日本のソフトウェア企業は、世界的にも限られているので「大きな仕事がしたい」と野心を持つ人にぜひ来ていただきたいですね。

「世の中に対して価値を創出していきたい」という動機も大切です。この考えが結果的にお金を稼ぐことや自分の成長につながるため、社会に対するベクトルが大きい人を歓迎します。

編集後記

データを管理するソフトウェアが多数ある中で、製造業の「調達」という領域にフォーカスしてきたキャディ株式会社。モノづくりのバリューチェーンに関わる多くの人たちがデータを共有するメリットを実感し、業界の未来に期待しているからこそ「CADDi Drawer」の輪が広がっているのだろう。

加藤勇志郎/東京大学卒業後、2014年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。日本・中国・アメリカ・オランダなど、グローバルな製造業メーカーを多方面から支援。特に、重工業、大型輸送機器、建設機械、医療機器、消費財をはじめとする大手メーカーに対して購買・調達改革をサポートした。製造業分野の持つポテンシャルに惹かれ、2017年にキャディ株式会社を創業。