
100年以上の歴史を持つセントラル短資グループを母体とする、セントラル短資FX株式会社。FX(外国為替証拠金取引)には「危ない」といった世間のイメージが先行しがちだ。しかし同社は、短期的な利益追求ではなく、長期的な資産形成を支えるという独自のスタンスを貫いている。代表取締役社長の宮下俊郎氏は、日本銀行でキャリアを積み、日本経済の大きなうねりを体感してきた。その経験から得た揺るぎない経営哲学を持つ。FXのネガティブなイメージを刷新し、特に若い世代にその真の価値を伝えたいと語る同氏の情熱と、老舗企業を率いるリーダーの挑戦に迫る。
金融危機から得た教訓 経営者として最も大切にしていること
ーーまずは、社長のご経歴をお聞かせください。
宮下俊郎:
私が大学を卒業した頃は、金融業界が非常に華やかで、学生の間では「金融は面白い」「これから成長する」という気運に満ちていました。当時の金融業界は多くの学生を募集していたいわゆる大量採用の時代で、まさに「バブル採用」の世代でしたね。そうした中で私もごく自然な選択として金融業界を志望し、幸いにも日本銀行にご縁をいただいて、入行しました。
ーー銀行員時代に経験されたことの中で、現在の経営にも活かされている教訓などはありますか。
宮下俊郎:
日本銀行時代、バブル崩壊後の金融危機から得た最大の教訓があります。それは、何か問題が起きた際に先送りせず、早期に対応することの重要性です。「明日は良くなる」という根拠のない楽観は、結果的により大きな労力を強いることになります。
これは会社経営も全く同じ。悪いところ、あるいはその問題発生の予兆を絶対に見逃さない。そして、社内で波風が立つことを恐れず、経営者としてしっかり問題点を指摘し、常に前向きな形で改善を促していく。これが会社にとっても、ひいては経済全体にとっても大切であり、私の経営の根幹を成す考えです。
ーー銀行からネットビジネスに移り、感じた難しさはありますか。
宮下俊郎:
銀行員時代は常に対面でお客様と接していたため、その場の空気感や細かなニュアンスを共有できました。一方、ネットビジネスではお客様と直接顔を合わせません。ある意味では楽ですが、その「温度感」が伝わらないという大きな難しさがあります。
この課題を克服するため、昨年度からお客様をお招きして直接ご意見を伺うセミナーを始めました。ネットでの効率的な運営と、対面の温かさ。この両立を追求していくことが重要だと考えています。
FXの誤解を解く 社長が語る「危ない」イメージの真相
ーーFXには「危ない」といったイメージがつきまといますが、なぜでしょうか。
宮下俊郎:
「FXで損をした」といった報道もあり、ネガティブなイメージを持つ方が少なくないと感じています。確かにFXは、レバレッジという仕組みによってハイリスク・ハイリターンな取引も可能です。その側面ばかりが注目されがちで、それが「近寄らないほうがいい」というネガティブな見方につながっているのが現状です。大切なのは、ご自身の目的や資産などに合わせて適切に投資していただくことに尽きます。
ーーそもそもFXとは、どのような仕組みの金融商品なのでしょうか。
宮下俊郎:
これまで金融機関や大企業のものであった外国為替取引を、個人の方が売買しやすいようにアレンジした商品です。特長は主に3つあります。1つ目は、少額から取引できること。2つ目は、洋服のオーダーメイドのように複雑ではなく、既製品を選ぶように分かりやすい商品ラインナップであること。3つ目は、売りと買いの値段が24時間提示されており、お客様はいつでもご自身のタイミングで取引ができることです。
「円だけ」はもう古い?若者がFXを知るべき本当の理由
ーー若い世代がFXに注目すべき理由を、あらためてお聞かせください。
宮下俊郎:
短期的な損得だけでなく、ご自身の資産を管理する「資産配分」のツールとしてFXを活用していただきたいのです。これからの時代、資産を円だけで持つことは、もはや時代にそぐわないかもしれません。資産の一部をドルやユーロといった外貨で持つ「国際分散投資」が重要になります。FXで1,000ドル買えば、円に換算すれば為替変動で損益が出ますが、1,000ドルという資産そのものは減らないのです。将来のための外貨を少しずつ積み立てていく手段として捉えてほしいですね。
ーー長期的な資産形成をサポートする、御社ならではの強みは何ですか。
宮下俊郎:
弊社の大きな強みのひとつは「受渡」というサービスです。FXで積み立てた外貨を、非常に安い手数料で、お客様の銀行口座に外貨のまま振り込むことができます。一般的な外貨預金に比べて手数料を大幅に抑えられるため、長期的な資産形成をサポートする手段として、弊社は同業他社に対して大きな優位性を持っていると自負しています。短期的なPRで惹きつけるのではなく、お客様と長くお付き合いし、信頼を育んでいくことを目指しています。
老舗の挑戦 未来を拓くための課題と展望

ーー現在、会社として最も大きな課題は何だとお考えですか。
宮下俊郎:
最大の課題は「FXとはどういう商品なのか」という正しい情報をいかに多くの方に知っていただくか、という点に尽きます。まず弊社に関心を持っていただき、ホームページにアクセスして、さらに内容をクリックして読んでいただく。この一つ一つのハードルが非常に高く、私たちの思いや商品の本当の価値をお届けすることに日々試行錯誤を重ねています。この情報伝達の難しさを乗り越えることが、弊社には不可欠です。
ーーその課題に向けて、どのような組織を目指しているのでしょうか。
宮下俊郎:
「アンテナの高い組織」を作ることが目標です。これはすなわち、作り手側が作りたい商品を考えるのではなく、常にお客様が何を望んでいるのかを起点に発想する組織を指します。お客様のニーズをリアルタイムで捉え、サービス改善へとスピーディーに反映させていく。そのためには部署間の縦割りをなくし、会社全体でお客様の声を共有してすぐに行動に移せるような、組織としての機動力が欠かせません。
空から全体を俯瞰する「鳥の目」で変化を敏感に感じ取ること。感度の高い組織を早く作り上げることが、この業界で生き残り、お客様に末長くご評価いただくための必須条件だと考えています。全社員が臆せず意見を発信できる、活気ある組織にしていきたいですね。
編集後記
日本銀行での豊富な経験を持つ宮下氏。その言葉の端々から、経済危機を乗り越えた者だけが持つ物事の本質を見抜く鋭さと、問題から目を逸らさない強い意志が感じられた。FXのイメージを払拭し、若者の資産形成のツールとして届けたいという情熱。それはビジネスの枠を超え、次世代への思いやりにも似た温かさを帯びていた。老舗の信頼を礎に、変化を恐れず挑戦を続ける同社の未来が楽しみだ。

宮下俊郎/1964年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業。1988年日本銀行に入行後、青森支店長、大阪支店副支店長、金融機構局上席考査役、福岡支店長、検査室長を歴任。2022年にセントラル短資FX株式会社に入社。2023年、同社代表取締役社長に就任。