
保険代理店事業を展開し、設立からわずか5年で急速な成長を遂げ、業界で注目を集めている株式会社アスプランニング。その成長を牽引する代表取締役の松橋良友氏は、弱冠20歳で10,000人の中でトップの営業成績を収めた実績がある人物だ。常識にとらわれず、独自の視点で事業を展開する松橋社長に、これまでの道のりや組織運営、そして業界の未来について話を聞いた。
「負けたくない」強いコミットメントが生んだ若き成功体験
ーー10,000人中トップの営業成績を収められたときのことを教えてください。
松橋良友:
当時は特に意識していなかったのですが、今振り返ると、昔から周りの友人や同級生と比べて目標意識が高く、「目標は達成しなければならない」と強く思っていました。加えて、私はずっと取り組んでいた野球を怪我で挫折した経験があり、より「負けたくない」という思いが強くなりました。この負けず嫌いな性格が、20歳でトップとなった大きな要因だと感じています。
ただ、トップを経験して良かった反面、本来の目的から軸がずれてしまった時期もありました。「お客様のために良いものを提案する」という営業の仕事から「ライバルに負けないために」という方向へ意識が向いてしまったのです。そこから、単に営業実績で一位になることだけを求めるのではなく、営業としての本質的な価値を追求し、どうやったらお客様の心を掴み顧客満足度を高め、結果的に一番になれるのかを考えるようになりました。そのころから顧客に最高の提案をするために必要な知識の習得や、立ち振る舞いも意識するようになり、そのベースは現在も変わっていません。
顧客と仲間に寄り添う「共感型リーダーシップ」の原点
ーー独立にあたって意識したことはありますか。
松橋良友:
それまでの勤務を通じて、営業の基礎や顧客第一の姿勢など多くのことを学びました。一方で、経験を重ねるうちに、自分ならではのアプローチを形にしたいという想いも強くなったのです。そこで常に指針としているのが「自分がされて嫌だと感じることは人にもしない」というシンプルな価値観です。
例えば、営業を決まった型で行うと、その型にマッチするお客様もいれば、そうではないお客様もいます。そして、合わなかった方が嫌悪感を抱いてしまう可能性があります。そのリスクを回避するために、お客様の表情・言動からニーズを捉え、柔軟にその場に適した提案やサポートを行うよう心がけています。
そして、間違ったことをしたら謝る、礼儀正しくあるなど、当たり前のことを当たり前に行う。この姿勢が、より良い結果につながると実感しています。これは、お客様だけではなく、メンバーと接する際も同様です。こうした価値観を実現する場として独立を選びました。
この価値観は、私自身のかつての経験から導き出されたものです。常に「正解は一つではない」ということを意識し、人によってさまざまである意見を否定することをせずに、社員が言いたいことを自由に言える「心理的安全性」を重視しています。
ーーさまざまな経験をされてきた中で、特に印象的だった出来事はありますか。
松橋良友:
社長になってから、自分の中の理想像との戦いに負けたくないという意識が強かったことで、気づかされた経験があります。20代半ば頃、取引先から支払いができないと連絡が入り、自社の月末の支払いができなくなるかもしれない状況に陥ったことがありました。どうすれば良いかと一人で考え、途方に暮れていたとき、私の様子がおかしいことを察したある社員が、「社長のためなら何でもします」「一人で抱え込まないでください」と声をかけてくれたのです。
そのとき、自分が逆の立場なら自分の給料の心配をするかもしれない。それなのに、身を削ってまで支えてくれる仲間の存在に気づきました。この出来事が大きなターニングポイントになりました。経営者として自分の負けず嫌いを通し、一人で突き進むだけではいけないと痛感したのです。経営者も社員も一丸となって良い会社環境を築けば、より強い企業になると実感しました。
保険業界への転身と、アスプランニング設立の経緯

ーーどのような経緯で保険業界に転身されたのでしょうか。
松橋良友:
保険業界に身を置くことになったのは、父から紹介された方との出会いが保険業界へ進むきっかけとなりました。その方は父の後輩で、当時は保険代理店を経営しており、私が保険の師匠とする方です。その師匠に背中を押され、2009年に師匠の会社に入社する形で業界に入りました。
ーー株式会社アスプランニング設立の経緯を教えてください。
松橋良友:
以前勤務していた会社に10年ほど在籍していましたが、途中で経営方針が大きく変わってしまいました。このとき、「自分が理想とする環境を自分でつくりたい」と感じたことが、独立を考えるきっかけとなりました。
正直なところ、経営者ではなくプレイヤーでいることを望んでいましたが、立ち上げメンバーの勧めと、社員がストレスなく楽しく働ける環境創出のため、経営者となることを決意しました。
当初は同じ会社の若手10人で立ち上げる予定でした。しかし、私が独立するという話をすると、先輩たちが「お前がやるなら担ぐ」と全国の先輩方が大人数賛同いただき、想定以上の大所帯になったのです。別業種ではありましたが10年会社経営をしていたのが良かったのか、賛同いただきうれしい反面偉大な先輩方の人生をおかしくさせるわけにはいかないととても大きなプレッシャーでしたが、本当にメンバーの皆さんが協力的に支えていただき、周囲の支えのおかげで乗り越えられました。
また、優秀な先輩方が集結してくれたおかげで、通常は下から積み上げていく保険会社からの手数料率も、設立当初から最高ランクでの契約を可能にするなど、弊社の初期成長を大きく後押ししてくれました。
以前とは異なり、保険業界や営業会社には珍しい試みもしました。営業ノルマを義務化しないという挑戦です。結果として、会社は順調に成長できました。会社を立ち上げた時期がコロナ禍のタイミングと重なりました。そのため、さまざまな変化への対応が求められ、最大のターニングポイントでした。しかし、メンバーのおかげで大きな問題もなく、のりきれています。
ーー仕事をする上で、ご自身で意識されていることはありますか。
松橋良友:
意識しているのは、前出の通り「自分がされて嫌だと感じることは人にもしない」ということです。物の言い方一つとっても、過去に自分がされた嫌だった言い方は避けます。社長という立場は関係ありません。良いことをされたら感謝を伝え、間違ったことをしたら謝る。こうした基本的なことを徹底しています。
また、社長という立場上、メンバーのほうから話しかけづらいこともあると思い、些細なことでも積極的に声をかけるようにしています。そして、メンバーが何かを話してくれた際は、自分から何か押し付けることはしません。メンバーの悩みや考え、質問などを優先してしっかり聞き、状況にあった返答ができるよう心がけています。
「募集人ファースト」と圧倒的な社内の組織力が強み

ーー他社と比較して、貴社の強みはどのようなところにありますか。
松橋良友:
第一の強みは働く環境です。社内では「募集人ファースト」を掲げ、「お客様第一」を大前提にしつつも、社員に業界最高水準の給与体系と休日を提供しています。
次に、採用基準の高さが挙げられます。営業スキルも求めますが、それ以上に、挨拶、お礼、嘘をつかない正直さといった「当たり前のことを当たり前にできる人間性」を重視しています。また、どんなに営業成績が良くても自分勝手なことを言う人やルールを守れない人は採用していません。
また、キャリア採用の方針も明確です。中途採用は生命保険・金融プロフェッショナルの国際的な組織である「MDRT会員」、または、それに準ずる見込みのある人材に限定しています。しかし事業承継の面から、新卒採用も行う必要があります。そのため、内定率10%未満と厳選し、結果として精鋭が集まっています。このように、一定の能力以上のメンバーが集まり、メンバー同士が言いたいことを声に出せる心理的安全性の高い環境で互いに切磋琢磨できる文化を築いています。
ーーお客様の高い継続率と、メンバーのモチベーションを支える仕組みはありますか。
松橋良友:
お客様の状況や都合に合わせた「無理のない提案」を徹底していることで、業界トップクラスの継続率を実現しています。また、当社の組織力も強みです。MDRTの中でも入会基準6倍以上の営業成績を達成した「TOT取得者」が10名在籍しており、彼らがノウハウを惜しみなく共有する文化が根付いています。一般的には、優秀な者が自分のスキルを隠す風潮もあるなか、弊社では「みんなの為になるなら」という意識で、成功者の生の声が社内のテキストとなり自発的な学びを促しています。これが、社員全員のスキルアップにつながっています。
彼らからの共有は、社内研修だけでは学べない現場の成功事例であり、これを元にメンバーが自発的に学び合う仕組みがモチベーションを生む好循環を生んでいます。
このような高いモチベーションによる社内の風通しの良さ、雰囲気の良さが社外にも伝わり、採用もコストをかけず、社員の口コミや保険会社からの紹介が主軸となっています。
次世代育成と、事業承継。この先に描く未来像
ーー若手の育成や、事業承継についての考えをお聞かせください。
松橋良友:
弊社には数百億円規模の既存契約があり、若手にも大きなチャンスがありますが、20〜30代前半のメンバーはまだ少ないのが現状です。そのため、先輩たちが安心して引退できるよう、今後10〜15年で若手を育て事業承継を行うことが重要な課題であると認識しています。
この業界は定年がなく、業務が属人化しやすい傾向があり、顧客をスムーズに引き継ぐことが難しい側面があります。その対策として、若手がクレームなく先輩の顧客を引き継げる体制づくりを強化しています。
また、採用方針も見直しました。これまでは一定の能力以上のメンバーに限定していましたが、新卒や未経験の若手にも幅を広げる取り組みを始めています。
ーー5年後・10年後に描く未来像はどのようなものですか。
松橋良友:
売上目標などの数字だけを追うことよりも重視していることがあります。それは、「従業員●●人規模の組織になってもおかしくない」「売上●●円規模が妥当だ」など、実際の規模以上に社外から評価されるような環境をつくることです。
また、育成した若手が次の世代に、その時々に合うベストな環境を提供していく好循環が続けば、社会状況が変わっても同じように成長する会社を運営できると考えています。将来的には「アスプランニングに入社することがステータス」と言われる会社を目指します。
編集後記
松橋社長の言葉の端々から、柔和だが意志の強い人間性と、より良い環境構築にかける想いが伝わってきた。過去の成功体験だけでなく、失敗や理不尽な経験から学んだ教訓を組織づくりに活かす姿勢が特に印象的だ。業界トップレベルの人材が集まる同社が掲げる「募集人ファースト」の理念のもと、若手育成と事業承継という業界全体の課題にどう挑むのか。MDRTやTOT取得者といったトッププロフェッショナルたちが、自身のノウハウを惜しみなく共有する文化や人間力が会社の成長を牽引している現在、若手がこの財産を受け継ぎ、自分のものにして承継していくことは困難な道であるかもしれないが、松橋社長率いるアスプランニングの環境であれば期待が持てる。今後の動向に注目したい。

松橋良友/2007年、大手通信会社に入社。2009年広域乗合保険代理店入社。2009年、世界中の生命保険のトップクラス(上位0.5%)のみが入れる「MDRT」へ日本最年少で初入賞。2017年、トップクラス(0.01%のみ)が入れる「TOT」に初入賞。2018年、MDRT成績資格終身会員。2019年、株式会社アスプランニングを設立。